特定技能実習生雇用の波/人手不足解消の救世主となるか ①

特定技能実習生雇用の波/人手不足解消の救世主となるか ①

シリーズ将来を見る ─ 外国人技能実習生と介護業界の今

人手不足の解消に、技能実習生や特定技能実習生の受け入れが検討されてきた介護業界。
すでに受け入れを行ってきた株式会社リーガルと、本年より受け入れを始めるケアー・サポートまつやまに、経営面や現場における現状や、今後の考えられる解決するべき課題、現場で起こっていることを聞いた。


地域の介護施設の中でいち早く技能実習生の受け入れを開始。
プラスへと転じた面と、受け入れたことで浮かび上がった課題。

技能実習生がきたことで改めて再認識した日本人職員の問題点と、その質を上げるためには。

インタビュー:中村 啓司(なかむら けいじ)
株式会社リガール 代表取締役

技能実習生の受け入れを決められた経緯をお聞かせください

ハローワーク等で求人票を出しても応募がなく、あったとしてもなかなか雇用には繋がらず、採用にいたっても短期間で退職してしまうという状況が長く続いていました。

そのような状況の中、ひょんなことがきっかけで群馬県にある監理団体の方と知り合いになり、2年前より技能実習生としてインドネシア人の女性3名を受け入れたのが始まりです。技能実習生の方はインドネシアの看護師資格や助産師資格を取得しており、日本でいうと准看護師くらいの知識を持っております。ただ、あくまでもインドネシアでの資格であり、日本では、その資格は認められていないため、一般の介護職員として働いています。

その3名は、来年の5月まで就労する予定です。その後、一度帰国し特定技能実習生として、再び日本に来る予定の方もいます。

また、技能実習生を受け入れた年の8月にもインドネシアから特定技能の方を4名受け入れております。さらに、今年の2月にはインドネシアから男性2名を受け入れる予定となっております。

技能実習制度は技能や語学を学ぶことを目的としており、その学んだ技能や語学を国に持ち帰り活かすための制度です。ただ、色々な制限もあり、入居者さんが飲む薬に触ることや飲ませることができないほか、受け入れから1年が経過しないと夜勤に入ることができません。

一方で、特定技能の方は働いて稼ぐことを目的としており、一定の技能や日本語能力を持って入国してきます。また、日本の資格を取得することで滞在期間を延長することができます。日本で資格を取得するにはいくつか条件があります。これは日本人においても同様です。通常は3年以上の実務経験が必要で、それをクリアすると、介護福祉士の資格取得するための試験を受けることができます。

彼女らを受け入れる際には、コロナの影響もあってオンラインで面接や対話を行い、そこで決定する形をとるようになりました。そのため、直接現地に行っての面接ではなくなったため、助かっております。

現在、技能実習と特定技能のふたつの制度がありますが、いずれ技能実習制度がなくなる方向に動いていると言われています。制度そのものも変わっていく可能性があり、雇用中に制度が変わった場合、その変更に追随してこちらも柔軟に対応しなければなりません。

実際に受け入れてみていかがですか

介護の場合、相手が物ではなく人であるため、言葉によるコミュニケーションは非常に重要となります。受入の際は、日本語レベルがN3に近い方でなければ対応が難しく、仕事の習得においても影響が出るため、N3に近い方を多く採用いたしました。

日本語能力試験はN1〜5の5段階のレベルがあり、数字が低いほど日本語のレベルが高くなります。N4だと、言葉の理解が難しく、コミュニケーションにおいてトラブルが生じやすくなります。N3になるとある程度の意味を理解できていたり、自分で話しかけたりすることができるため、トラブルが少なくなります。現在受け入れている実習生はN3で、入居者さんも特に違和感を感じず日常生活を過ごしております。

彼女らは、異国から来るわけですが、母国を出て日本に来てまで技能を学ぼうとしているので、非常に仕事に対する意識が高い状態で来ています。現在50名ほどの入居者がいますが、入居者さんの顔と名前を3日程度で覚えてしまったことに関しては驚きました。

宗教の違いや育った環境や文化の違いはもちろんありますが、一生懸命学ぼうとする姿勢は、私にとても刺激となり勉強になっております。

受け入れる立場として、苦戦した点もありました。

送り出し機関の方で、日本のマナーやルールについてある程度教え込まれてから、彼女らは日本に入国してきます。しかし、日本には、その土地土地の方言や作法のようなルールに違いがあり、そこに戸惑を感じており今でも慣れておりません。ゴミの出し方ひとつにしても、地域によって出し方が違い、施設の事務員が窓口となり、ひとつひとつ丁寧に説明しております。

インドネシアでは、ある年齢になると宗教を選ぶことができ、当社に入職されている方のほとんどがイスラム教です。イスラム教では1日5回のお祈りをする習慣があり、時間を確保をするためにシフト調整などをして対応しております。また、彼女たちはヒジャブという被り物をかぶっていおり、男性の前ではヒジャブを脱ぐことができません。そのため、利用者さんのお風呂介助をする際は、ヒジャブを身に付けたまま介助を行っております。こうした宗教上のしきたり的な部分については、細かい配慮が必要で許容しないわけにいかない部分の一つです。これまでのところ、特にトラブルはありませんが、宗教上の異なる習慣に関しては気を付けています。

また、仕事の内容や雇用形態に関する違いも、適切に説明することが重要で、パートの方は、なぜ休みが多いのかや週何時間までしか働けないなどの違いについての説明をする必要があり、以前それが原因でトラブルになりかけたこともありました。そのため、雇用形態に関してはひとつひとつ理解できるように説明していく必要があります。

給料明細の見方についても、ある程度理解できるようにはなってきましたが、なぜこんなに引かれるのかなど、疑問が生じることがあり、そういった問題に対しても理由を根気よく何度も教えていく必要があります。

プライベートな面では、病気になったときの病院受診や歯科クリニックへの通院。また、食材などの買い出しの際、米などの重いものを買う時には車をだして対応しております。

一定の人数を受け入れるにあたって、住むところを確保することが重要で、現在、2LDKのアパートに2人ずつシェアして住んでいただいております。彼女らの住むところの条件として、家賃はもちろんのほか通勤までの距離や歩いていけるかどうかが重要となっており、徒歩5分圏内に住居を確保しております。

問題点や課題はありますか?

課題のひとつとして、国の文化や習慣の違いもあり、指導方法に苦慮しております。正しい習慣を教えることは非常に重要で、もし誤ったことを教えてしまった場合、後々まで大きな影響を与えてしまう結果となります。

どの国の方を雇用しても、既存の職員の影響を受けてしまうため、難しい問題であり課題だと感じております。

また、日本人に対する外国人の人数比率による力のバランスにも注意する必要があります。1日に大体6名から7名で現場を回しておりますが、シフトによっては日本人の方が少なくなることがあります。その場合、自分たちで勝手な判断や誤った判断をしていないか、チェックできるようにすることが、今後の課題となってきます。

今のところ職員同士の大きなトラブルはありませんが、最近になって、やはり日本人は日本人、外国人は外国人という意識が少しずつ表れてきました。仲の良い職員たちとの関係は良いですが、コミュニケーション不足から自分たちだけが一生懸命動いていると感じてしまうところがあります。現状、衝突段階には至っていないものの、この辺りが今後の課題となってきます。

また、日本人でリーダーシップを発揮できる人材を育成することも急務となっております。根拠のある業務指示を出し、一つひとつ問題を解決し取り組んでいける仕組みを検討しております。

双方の認識のズレによるトラブルを最小限にしていくためにも、互いにコミュニケーションを取りながら信頼関係を築いていくことがとても大切です。現状において、コミュニケーションが不足していることにより、問題が深刻化しないか危惧しております。双方のわだかまりを解消し相互理解できるよう今後も企業として邁進していきたいと思います。

今後さらに働き手が減る中で考えられていることはありますか?

この地域の人口は今後ますます減っていきます。そんな中、企業として生き残っていかなければいけません。職員が不足していると、企業は正常に機能しなくなるため、人材確保は最優先課題となり、確保できた企業が有利となっていくと考えております。

また、それに伴い、職員一人一人の質も大幅に向上させていかないと、企業価値が低下し利用したいという方が減ってしまいます。結果的に売り上げが落ち経済的にも運営ができなくなります。

今までの経験から、企業の足元を支えてくれている人材が、正しい認識をもっていなければ、よい人材が育たず、良い組織を生み出すことができません。その結果、企業の質は落ち正常に機能しなくなるということを知りました。

それを改善するためには、正しい知識や技術を一つひとつ教えていかなければならないこと。

その入り口として「入居者さんは、なぜ入居するに至ったのか」から理解する必要があり、健康であれば入居する必要はなく、住み慣れた家で生活したいと考えている方が大半だということを認識して関わる必要があります。そのため、入居されている方のほとんどは、何かしらの障害を抱えていることを理解するところから教えていかなければなりません。

それを踏まえた上で、介護の本質的なことを話させて頂くと、業務一つひとつが目的と根拠の上で成り立っているということです。例えば、なぜ水を飲ませなきゃいけないのか。生きていくためです。それが1日どのくらい摂取する必要があるのか決まっています。職員にはそういうところからひとつひとつ説明をしていかなければ、経験と感覚のみで介護を行います。それでは、資格を持っていなくても携わることのできる仕事になってしまいます。

人の命を預かっている、専門的な仕事であることを理解し常に学びながら仕事をして頂けたら、質の高い介護が提供できる職員が増え評判につながっていくのではないかと感じております。

外国人も資格を取得することができれば、日本に滞在する期間を伸ばすことができますし、その中から、当社で働き続けたいと思う職員が出てくれたなら、そういう職員をこれからも育てていき、職場を盛りたてていってほしいなと考えております。

そういう人材が1人でも多く出てほしいと願っております。

実習生の受け入れには躊躇するかもしれません。しかし、優秀な人材としてうちでは活躍しております。地域では早い時期より受け入れをおこなってきたので、少しは1日の長があるかなとも思っています。


技能実習生の声

特定技能実習生
プスピタ・ドゥイ・アンゲウイ(20)/国籍 インドネシア

日本に来たのはいつですか

去年の7月27日です。

実際に来てみてどう思いましたか

北海道はすごく寒いです。自分の国はいつも30度はあるので、7月でも寒いと感じました。でも雪は冷たいけどきれいです。

日本で仕事をしてみてどう感じていますか

困ったこととか大変なことはありません。みんな褒めてくれたりかわいがってもらってます。
施設長はちょっと怖いです。仕事はもう慣れました。

名前と顔を覚えるのが早いと、施設長がさっき褒めていました

名前とか、どういう人かをメモをとって覚えました。

─ イスラム教ということですが、仕事中お祈りの時間はとれていますか

私は家にいたらします。でも職場ではしません。

夢や目標はありますか

お金持ちになりたいです。お金持ちになってお母さんとどこでも一緒に行きたいです。


医者になりたいという目標があるプスピタさん。お金持ちになりたいといっても買い物も決して贅沢はせず、インターネットのフリーマーケットで安いものを探して購入するとか。お金があったとしても普通に生活ができればいいと言っているそうです。


(取材 2024年1月26日)

【企業情報】
株式会社リガール
サービス付高齢者住宅・特定施設入所者生活介護・通所介護 つなぐ
電 話 0153-79-8800
標津郡中標津町西11条南8丁目