インタビュー:佐藤 哲平(さとう てっぺい) 株式会社 鶴亀屋 代表取締役
鈴木 信幸(すずき のぶゆき) 株式会社 鶴亀屋 取締役
地元の海産物を使用した飯寿司を商品化した2人の漁師がいる。サケの定置網漁を生業とする佐藤 哲平氏と鈴木 信幸氏が立ち上げたのが「鶴亀屋」だ。彼らは地元の恵みを生かし、海の豊かな味を飯寿司として提供する。
なぜ、飯寿司を商品化しようと考えたのか?地元への想いとこれからを聞いた。
なぜ飯寿司を作ろうと思ったのかその背景についてお伺いできればと思います。
佐 藤 会社を立ち上げたのは2021年8月です。2人ともサケの定置網漁を行っており、親方で代表を務めています。もともと友達で、何か新しいことを始めようというアイデアがずっとありました。
最近はサケの漁獲量が年々減少しており、将来的には獲れなくなる可能性もある現実があります。そこで、まだ余裕がある今のうちに何か新しい挑戦をしようという考えが生まれました。
北海道で1番シェア率が高い飯寿司屋さんがオホーツクにあり、そこが経営から撤退することになり、その穴を埋める形で飯寿司を作ってみないかという話が持ち上がりました。撤退の理由は年齢と年末時期の多忙さがキツイということです。もともと飯寿司を作るアイデアもあったので、事業として飯寿司の製作に着手することにしました。
この工場は元々水産加工場でした。イクラやシャケのドレスを作っていました。それを先代がやっていましたが、5年前に亡くなって、そこから物置になっていました。そこを僕ら二人と友達とで色々改修してこの工場にしました。物置だったので何か物があったわけじゃないし、床も削がれていたりとか、排水も埋まっていたりしました。工場はほぼ手作りです。電気工事は電気屋の友人に頼んでやってもらいました。
鶴亀屋の飯寿司の特徴を教えてください
鈴 木 商品開発には、1年くらいかかっています。鶴亀屋を作る前から飯寿司を作り出していたので、試作しながら、工場を改修しながら、もう後には戻れないぞって言いながらやっていました。
佐 藤 始める前に周囲の人と話をしましたが、「年末しか売れないでしょう」という反応が多かったです。夏は気温が高いので家庭で飯寿司を作るのが難しい。ただ好きな人は好きだから、年がら年中食べたい人もいるんじゃないのかと考えました。鶴亀屋では貯蔵庫を作って、常に漬ける温度が一定で同じものを作れます。
鈴 木 飯寿司の原料は、鮭やハタハタ、ホッケ、キンキなど魚を使用するのが一般的によく知られている素材だと思います。私たちが作っているのは、ホッキ貝、ホタテ、タコの3種類あります。タコは新商品で、どれも飯寿司としては珍しいものです。これらは標津で獲れるものを使用して考案しました。試行錯誤の末、おいしいと感じ、これはいけると思い立ち、試作を重ねて開発しました。現在の商品になってからも、日々少しずつおいしさを追求し、改良を重ねています。同じように漬けても気温や湿度で味が変わってしまうので、調整しながら作っています。
佐 藤 ホタテの飯寿司は、販売している会社があります。保存料やホタテエキスなどを使用しており、ホタテ風味が特徴です。一方で、鶴亀屋は無添加で海産物の素材にこだわり、差別化を図っています。全ての商品は無添加であり、これが弊社の売りです。
鈴 木 いずれは鮭の飯寿司も手がけたいと考えていますが、標津では多くの家庭で作られているため、わざわざ当社で製造する必要はないと判断していました。しかし、私たちは鮭漁師でもあり、自分たちの獲ったものを製品化することは必要だと考えました。今後は鮭飯寿司も開発していく予定です。
佐 藤 漁師が手がける飯寿司なので、素材にはこだわりがあります。標津の港で揚がったばかりの新鮮な魚介を使用しています。タコは生簀で生かしてもらい、製造時に取りに行って、生きたままさばいて原料としています。冷凍品を使用せず、飯寿司を製造した後に冷凍するため、素材のおいしさをしっかりと楽しんでいただけます。
販売チャネルや販促戦略についてお聞かせください
佐 藤 標津の「サーモンプラザ」さんと「ホニコイ」さん、中標津の「東武サウスヒルズ」さん、そして「あるる」さんでも販売しています。また、羅臼の「道の駅海鮮工房」さん、川北の「Aマート」さん、千歳空港にある漁連のお土産屋さんにも、去年の末からテスト販売的に置いていただいています。
鈴 木 ふるさと納税が去年の年末から始まりましたが、まだネット販売は行っていません。ただし、サーモンプラザさんのオンラインショップでは購入することができます。
佐 藤 PRとしては、インスタグラムを活用して情報を発信しています。以前1番売れていた標津漁業協同組合の直売店が閉店となり、新たな販路を模索しています。
鈴 木 今年は取り扱ってもらう店を拡大していきたいです。札幌の居酒屋さんなどからもオーダーが来たりすると、そちらの需要も考えられるので、その方面にも積極的に売り込みながら、足での営業を拡大していく考えがあります。
漁師としてのこれから、町に対する思いについて教えてください
鈴 木 危機感しかありません。どうしようか、どうしたらいいのかという思いです。現在、ニシンがちょっと上向いているので、それには期待しています。また、ブリも獲れていますが、羅臼ではブランド化が進み、高値がついている一方で、隣の標津はその半値以下の状況です。こうした課題にも対処できればと考えていますが、安定して取れるものでもなく、難しい状況です。
佐 藤 地球規模で起こっている海水温度の上昇により、獲れる魚種が10年前と明らかに変わっている。鮭漁師として鮭の漁獲量が減っていくのは寂しいけれど、それならそれなりに何か考えて対応していく。鮭を獲るに拘らず、漁師にできる事、別の視点からも町を元気にし、漁業を盛り上げる取り組みが必要だと考えています。
鈴 木 漁獲が減少しているため、「継がせない」「やらせたくない」といった声も聞かれます。将来的に何か新しい試みを始め、それが地域全体に広がっていけば、漁師としてのアイデンティティがより強化され、新たな可能性が広がるのではないかと思っています。
佐 藤 鶴亀屋の飯寿司が広まることで、「標津」という町の名前を検索してくれる方が増えると、今まであまり注目されていなかった標津が新たな観光地や訪れる価値のある場所として発見される可能性があります。飯寿司が地元のこだわりやおいしさを伝えることで、標津の魅力をより多くの人に知ってもらえるとうれしいです。
「鶴と亀の飯寿司」で覚えてもらえたら嬉しいです。宜しくお願い致します!
(取材/2024年1月18日)
飯寿司の原料には、標津の海で揚がった新鮮な魚介類が使用され、その品質にこだわりが込められている。町の課題に立ち向かいながらも、鮮度と味わいを追求する彼らの挑戦は、地域の発展に新たな光をもたらすだろう。
【企業情報】
株式会社 鶴亀屋
標津郡標津町北6条西2丁目4番1号