インタビュー:佐藤 秀俊 (さとう ひでとし)
そば処 福住総本店 代表
早くに2日間の定休日、タブレット端末、配膳ロボットを導入してきた福住総本店。なぜIT化を進めるのか。話を聞くと、その背景に深刻な人口減少の問題があった。
どのような理由から機械化を進めることを決められたのでしょうか
標津町の人口は、30年ほど前は約7,000人ほどでしたが、令和5年12月末時点で約4,800人に減少しています。約2,200人の人がいなくなっているわけです。あくまで単純計算ですが、平均年間70人程度減少していることになります。
このペースは緩やかになることはなく、逆に加速していくと思います。死亡率が高く、出生率が低いのが理由のひとつです。出生率が低下しているため高齢化が進んでいる上、移り住んでくる人は少なく、出ていく人が多いのがもうひとつの理由です。
中標津町は減少の仕方がまだ緩い方で、過去根室市に迫り2万4,000人になるとも言われましたが、今では約2万2,000人で、別海町も約1万4,000人です。推測では20年後には、標津町で3,000人、中標津は2万人、別海町に関しても1万3,000人にまで減少すると考えています。約5,000人は減ってしまうのです。
これは避けて通れない道であって、人がいなくなるということは当然商業が衰えます。そういう中でどうやって生き残っていくかを考えると、仕事の効率を保つためには、雇用を守らなければなりません。効率を落とさないような仕組みを作らなければ、事業は成立しません。
しかし、労働人口そのものが減ってくるため、労働力を保持するのが今以上に難しくなります。
それでも労働力を確保しなければ生き残っていけません。家族経営みたいなところは、それはそれで何とかやっていけるとかもしれません。しかし、労働力として人を雇用しているお店や企業は、絶対に人員が必要でも、確実に確保できなくなっていきます。お店や企業を保持できなくなってしまうんです。
それを鑑みた時に、人口の減少とともに働き手の減少、流出は仕方がないことだと認めざるを得ない事実です。その足りない部分を機械で補い、人間と機械とのハイブリッドな職場を作っていことが、正常な進化かなと思っています。機械は壊れることもあるし、人間だって調子が悪ければ仕事ができません。しかし、両方があればどちらかがカバーしあえる部分があります。
労働力が減少するほど、労働時間の問題が浮上します。人手不足によりシフトの組み立てが難しくなり、労働時間の規制を厳格に守ることが難しくなってしまいます。そのために、機械が労働時間の不足を補うことが必要でになってきます。どうやって人間の休憩時間や休日を確保しつつ、機械が仕事を担う時間を増やすことができるかが今後の課題となるでしょう。現在、多くの企業が人手不足に苦しんでいる中、個々の労働時間や労働日数、1日の労働時間に関する規制が厳格化しています。特に飲食店などでは、1ヶ月のシフト組み立てが大変厳しい状況にあります。
本来ならば少しでも可能な範囲で人員を補完し、時間をカバーすることが重要ですが、難しくなってしまうのであれば、機械化を進めていくことは避けられません。特に過疎化が進んでいる地域では、よりそれを考えることが重要ですね。求人を出しても、過疎化が進んでいる町では充分な労働力を確保できないと思います。ただ、この取り組みを実現するには、体力だけでなく、金融関係者との信頼関係や持続可能な力が必要です。
持久力が備わっていても、使い続けると失われていくものです。その失われた分を補充するスピードが今のところ追いついていません。ですから、失われていく労力をセーブすることが重要です。それには、補充できる利益を確保する必要があります。利益と失われていく労働力や資金力のバランスをうまく取りながら、これから先を考えていかなければなりません。
「十年一昔」という言葉がありますが、今や10年は大昔で、「三年一昔」とも言える時代だと思っています。今の時代はあらゆることが急速に変化しています。3年、5年前の状況と比べると、まるで別の世界のようです。新型コロナウイルスのパンデミックの影響もあり、予測不可能な出来事が日常となり、未来を見通すことは難しくなっています。
経営を続けていくために、スタッフの労働時間や月の労働日数、有給休暇の取得などが重要です。これらをまず第一に考えて、適切に埋めていくことが経営の基本です。人口減少によってシフトの組み立てが難しくなり、改善が困難な場合もあります。その場合、営業日数を減らし、労働時間を削減することも必要となるでしょう。
具体的にはどのような機械化を進めていったのでしょうか
当店では、まずタブレットで注文できるシステムの導入をおこないました。これに関しては、すでに多くのお店で導入していると思います。その後、配膳ロボットの導入をおこないました。配膳ロボットの導入に関しては、つゆもののそばを運ぶというお店の特性上、不安はありました。そのため、すでに導入しているお店で、その使用例を見にいったりもしました。導入からまだ1年半程度ですが、今では配膳の失敗もなく、スタッフもお客様もなれ、安心して使用できています。
今回、新たに自動支払機を導入しました。自動支払機と、人間がレジを打つスタイルと併用して会計を行います。タブレット席のお客様には自動支払い機を利用していただき、カウンターなどのタブレットが設置されていない席のお客様にはこれまで通りレジを使用していただきます。レジの人間の負担が減ることで、他の業務を行えるようになるので効率が良くなるんですね。
全て自動支払いにすればいいのではないかという声もありましたが、自動支払機に1本にしてしまうと、忙しい時間帯ではお客様が並んでしまいます。それでは回転が悪くなってしまうので、2本立てでいくことにしました。
最終的には、もう少し踏み込んで食券機も検討しています。
実は昨年の12月にインカムも導入しました。これまではスタッフが私のところに来たり、スタッフのところに行って指示をしていましたが、厨房にいながら指示を出すことが可能になりました。しかも、全員がその情報を共有することになるので、お客様がどんな要望をしたのかなど、全てを把握し安くなりました。
今回導入される自動支払機はどのようなものでしょうか
今回導入した自動支払機ですが、テーブルにバーコードがついた注文票を持っていき、お帰りの際にその注文票をスキャンしていただくと金額が表示されお金を入れていただくというものになります。もしお1人ずつの支払いをこないたい場合は、タッチパネルに1人ずつ支払うためのボタンがありますので、そこを押してからスキャナーで読み取ってもらいます。すると、全員が食べたものの明細が画面に表示されます。自分が食べたものを選択していただくと、その人が支払うべき金額が表示されますので、その支払いをしていただく形になります。
導入してすぐは、人のフォローが必要になると思います。お客様もよくわからないとか、間違ってしまう場合などの混乱も考えられます。その点に関しては実際に稼動して、様子を見なければなりません。
実は昨年の9月から福住斜里店でタブレットと自動支払機を導入してもらい、テストしました。斜里店のオーナーも喜んで使われているので、問題なく使用できるだろうと思いました。当店ではタブレットを導入してから約1年経ち、お客様もだいぶんなれてきたということもあり、このタイミングで導入を決めました。
注文表をかざすだけで会計できるので、非常に便利です。スーパーなどでは複数の支払方法がありますが、当店では元々クレジットカードや電子マネーを使ってないので、現金のみで対応させてもらいます。標津町には商品券があり、それを利用されるお客様もいるのですが、その場合は商品券を使うことをスタッフに言っていただいて、こちらで商品券を回収し、自動支払機に反映させて支払いできるようにします。
機械化を進めてきたことでどのようなメリットが生まれましたか
思惑通り、不足していた人材のカバーがかなりできています。正直スタッフの方々の労働時間オーバーしていた時期がありました。それが改善されています。それは店側にしてもとてもいいことです。経営面で言うと、それらを導入した費用と人件費と比べると、導入した費用の方が低く抑えられています。
毎年最低賃金は上がっていくので、仮に同じ仕事をこなしているだけだとしても給料を上げていく必要があります。しかし、機械は能力が確実に上がります。その上修理などがあったとしても、導入時にかかった費用が増えることはありません。決まった金額を支払い続ければ最終的に減価償却が完了します。完了した時点で機会が古くなったり壊れたとしても、再び人件費よりも低い予算で導入できます。
人手不足が今後、労働力の確保以外に地域にどのような影響をもたらすと考えられていますか
働き手が少なくて困ってる状況ですが、今後、逆に働く場所がなくなると考えています。
今は買い手市場で、仕事を選べる状況ですが、将来的には選んでいる状況ではなくなります。地域のお店や企業が減ってくると、働く場所が減ってしまいます。中標津町にはまだ働き口が多くあるから中標津に行って働こうと思っても、中標津町も恐らく働き口が減っているのではないでしょうか。
過疎地では、人もお店も何もありません。そういう地域を見ると、もうどうしようもないと感じます。いつかそうなる可能性があると言う現実を直視すべきです。今はまだましな状況と言えるかもしれません。ですが他人事ではないと思います。
高齢な経営者はそのまま引退を考えるでしょうし、若い人たちは町を離れることになるでしょう。この地域も、その傾向が見えてきていると思います。
生活を維持するためには雇用先を見つけて働かなければなりませんが、雇用先の数が減ってくると選択肢がなくなります! 働きたいと思っても入り込む場所が残っているかどうか疑問です…。
働く側の人々が自分の考えを持って選択し、自分に合った働き方を見つけることができるといいと思います。それぞれの状況に合った働き方を選ぶことが大切です。
簡単に転職することを考えるよりも、ひとつの場所で長く勤め続ける方がいいと思います。新たに採用されるかどうかの保証がなくなっていくので、今の状況を大切に考える必要があります。もし今の状況で長く働ける場所があるなら、そこで安心して仕事を続けるのがベストだと思います。これからの10年後、20年後を見据えて自分の進むべき道を真剣に考える時期かもしれません。
働く人たちの要望も理解できますが、どの仕事も必要なものですし、生活のためには欠かせないものばかりです。それでも人があまり集まらないのは、それぞれの仕事に大変さがあるためであり、自分たちの生活のために必要な仕事があるとしても、その大変さから人は避ける傾向があります。
割と大きな企業は雇用の幅が広いため、入りやすいと言えます。ただし、町外から来た大手企業は、売り上げ次第ですぐに撤退する可能性があります。ですから、仕事がいつまであるのか保証されていないということを覚えておく必要があると思います。
一時期、仕事のステータスや雰囲気だけが重視されることもありましたが、今は中身がより重要視されてきています。買い手市場という状況を考えると、仕事の内容が重要になってきます。
勤め先が提示する仕事の内容には、働き手との差があることが多いかもしれません。その差をどちらが埋め合わせていくかという話になりますが、雇用する側が歩み寄りすぎると、結果として働き手のクオリティが下がり、最低賃金が上がっている中、高い給料を支払わなければならなくなります。
そういった状況の中、長く勤める働き先として選んでもらうために、お店や企業は雇用者の要望に歩み寄りすぎることなく、時代や地域性に合わせ柔軟に変化していく必要があると考えています。
(取材/2024年1月19日)
【店舗情報】
そば処 福住 総本店
電 話 0153-82-2305
営業時間 11:00〜14:00、17:00〜19:00
定休日 月曜日・火曜日
標津郡標津町北1条東1丁目1-2