新造船導入 ─ 地域海洋産業への貢献と役割
浚渫工事や災害時等地域を海から支える
インタビュー:阿部 浩(あべ ひろし)
小針土建株式会社 取締役/常務執行役員 海洋担当
長年、近隣の漁港の浚渫工事などの整備や、災害時の救援作業に携わってきた小針土建株式会社の起重機船。昨年、新たな起重機船が導入され、11月より稼働を開始した。
起重機船とはどのような船なのか、今回導入された新造船はこれまでと何が違い、何ができるのかを、海洋担当の阿部常務に話を聞いた。
新造船を導入するに至った経緯をお聞かせください
起重機船本船「第二こはり号」と、押船「第十八小針丸」の各所が老朽化で故障が増え、修理と維持管理費も増加傾向にありました。修理を行いながら運用を継続することも検討していましたが、将来を考えるといつ故障が起きるかわからない不安がありました。
当社ではこの船が唯一の作業船であり、故障による現場作業の停止と工事行程の遅れは最も避けるべき事案です。作業船の現状と会社や地域の将来を考慮し、新しい船を導入する決断をしました。船名は「第五こはり号」ですが、実際には当社の起重機船としては4代目になります。
新しい船は、能力面で大きな進化があります。前回の起重機船が全旋回最大定格総荷重160t吊りで常用ジブ長31mのクレーン能力を持っていたのに対し、新しい起重機船は全旋回最大定格総荷重210t吊りで常用ジブ長37mに向上しています。これにより、吊能力と作業半径の効率も向上しています。海底の砂や泥を取り除く浚渫作業時には、固い層に適した5・5㎥ドレッジャーバケットを使用することで、水面下鉛直最大水深30mまで掘削も可能になりました。クレーンエンジンには環境対策船として、IMO(国際海事機関)のNOx二次規制に対応したキャタピラー製エンジンを搭載しています。
旧起重機船同様、非自航船であるため、第五こはり号の船尾にプッシャー船を連結してバージと一体型で押し進める事ができる船舶です。プッシャーバージの安全規制が平成30年8月1日以降変更になり、押し船を含め55m以上を超える船は一体化と見なし大型船の資格が必要となります。そのため55m以内に収まる様に建造して頂き、小型船舶の資格で操縦できるように配慮しました。
漁港出入り口航路付近の作業が多く、旧起重機船では見張り人を付けており、漁船が近づくと一時作業を中断してアンカーワイヤーを延ばして対応していました。
クレーン運転室からはドラム、エンジンを監視カメラで視認。
これまでの船とはどのような違いがあるのでしょうか
新しい船では長さ22m×1.0m角のスパット2本が装備されていて、垂直に海底地盤まで下し固定します。アンカーの設置が不要で航行する漁船での作業中断も無く、現地で素早く作業することが可能になり大きなメリットです。
また通常210t吊のクレーンを搭載した場合、必要とされる幅約20m、台船長さ約55m程の大きさになるのですが、この地域では小規模な漁港にも対応できるよう考慮して、幅19m、台船長さ50mと少しコンパクトに作りました。
本船にはポンプジェット式サイドスラスターも搭載されており、180度の動きで船の方向と安定性を確保できます。これにより、船長は押し船より方向を容易に操作でき、作業中の方向と安定性が向上します。
旧第二こはり号は、パイプ式のサイドスラスターで右と左にしか動かなかったのですが、新しい第五こはり号のポンプジェット式サイドスラスターは船首部分を自由に動かす事が出来て大変優れています。
海上での移動も早く操縦性も向上し、船体も小刻みな揺れも少なく安定しており、作業環境が改善されたことによって作業員にも好評です。
さらに、搭載クレーン機械室内中には各種ドラム監視カメラ及びエンジン監視カメラ設備により、常時オペレータが状況視認できる環境が整っていて、安全で円滑な作業をおこなうことができます。
深さ22mまで下ろして船を固定できるスパットと、浚渫工事に活躍する5.5㎥ドレッジャーバケット。
起重機船の能力を最大限に引き出す動力・機関部。
また、工事の場所にもよりますが、遠距離での作業が数日の間続く場合も有り、使用する居住区が昔と違いとても快適になっています。作業員の寝泊まりできる船員室が6室と食堂、バス・トイレ、ランドリールームがあります。個室もWifiが完備され、テレビやエアコンも付いています。
これら多くの改善により施工性の向上を実感でき、以前よりも効率的かつ安全な作業が行えるようになりました。
数日にわたって船上で作業する場合でも、快適に過ごせるよう個室やバスルーム、ランドリールーム、食堂が完備され、これまでより大幅に居住性がアップしている。
起重機船はどのようなときに使用されるのでしょうか
主に根室管内での漁港海岸工事が多く、特に漁港内浚渫工事と養殖工事における大型ブロック沈設等などで使用します。
近年では異常気象等で発達した低気圧により、漁港の航路が砂で埋まり浅くなり漁船の航行ができなくなるため、応急等で浚渫作業を行っております。それによって漁業活動への影響を最小限に抑えることが求められています。
浚渫作業は各漁港にとって重要であり、川からの砂や泥を取り除くことで港の出入りがスムーズに行えます。特に港の防波堤周辺にたまった砂が取り除かれることで、船舶の安全な出入りを確保できます。
また、異常気象や自然災害の際、行政などの依頼により他の港へ出向くことも考慮しています。過去に羅臼でのがけ崩れや、台風による定置網の流失などに対応し、船を活用して手助けを行った経験があります。災害対応や地域関係者の要望に応えることができる設備や機能を搭載することで船の利用価値を高め、より地域の危機に迅速に対処できる体制を整えています。
今後は、新造船を活かして引き続き新設工事や業者の工事に従事すると同時に、地域の危機への迅速な対応を続けたいと考えています。地域の船不足時には、必要に応じて他の地域にも協力に行く可能性もあるかもしれませんが、現在は主に地元での活動を重視しています。
(取材/2023年12月27日)
最新式の装備と、地域性に合わせた特注の起重機船は、これまで以上に地域産業を支えていく。作業によって働きやすくなる人々、作業を行う働く人の双方に貢献できる船だ。
【企業情報】
小針土建 株式会社
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電 話 0153-72-3265
標津郡中標津町緑町南2丁目1-1
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電 話 011-211-6595
札幌市中央区大通西9丁目1-1
<釧路営業所>
電 話 0154-32-3311
釧路市光陽町23-17