SDGsを活用して地域の課題解決へと導く
そのための普及啓発と舵取り、実例をホームページで周知する
インタビュー:山本 照二(やまもと てるじ)
山本牧場 代表取締役/道東SDGs推進協議会事務局
道東SDGs推進協議会
立ち上げの経緯
もともと素材とその素材を使って活かすプロで新しい食の提案をおこなうという趣旨で「中標津素材感覚」という組織で「中標津マルシェ」や「北海道フルコース」など、6年間食がらみのイベントを行ってきました。
最初のうちは道から補助が出ていたので活動も割と潤滑におこなえていたのですが、予算も少なくなり活動を縮小せざるを得なくなっていました。
その中でブランディングや、どうすれば自分たちの商品が売れるのかなどの勉強会をするようになって、学習会をおこなうグループに変化していきました。
ある時水野雅弘さんというかたと知り合いになって、彼の生き方も面白いなと思っていました。彼は最近よく言われるワーケーション※ を実践して多拠点生活をしている人です。2017年に彼を呼んで、これからのライフスタイルを学ぶというテーマで話をしてもらい勉強会をおこないました。
その中で彼が当時から力を入れていたSDGsの話になり、会員のみんながこれは面白いねと。自分たちでも取り組もうかという話になり、2018年に協議会を立ち上げました。協議会も最初は皆で勉強をする会という位置付けでしたが、協議会として今後地域へSDGsの普及啓発をおこなっていくならお金がかかるということで、環境省に補助金の申請をしました。その補助金で協議会を運営しています。
協議会の活動
中春別の中山農場という約2,000頭の牛を飼っている農家の社長が会長をやっているのですが、中山さんは先進的で、単純に牛を買うだけじゃダメだと最初からわかっている人です。牛を飼ったら当然糞尿がでます。その糞尿をどうしようかと考えバイオガスプラントの発電所を作りました。そういう解決策を自分で考え、出口を見つけて実践しています。そういうところに共感して会長をやってもらっています。
協議会には今のところ18人います。酪農家が多いのですが、会社の社長や漁業の網元をしている人、議員、環境の活動をされている方など様々な分野の方が参加しています。
これまで協議会では、別海、中標津、羅臼、標津、根室、釧路と全部で6ケ所でワークショップを開き、最後に中標津でもっとしっかり勉強しようということで勉強会を中標津でおこないました。合わせると約400人の人がこのワークショップや勉強会でSDGsに初めて触れ、多くの方に面白そうだと関心を持ってもらうことができました。
ワークショップには様々な方が来てくださりました。意外だったのはやはり教育現場の人です。文部科学省が定める学習指導要領には学校でSDGsを取り組むことが示されているのですが、先生方もSDGsってなに?と疑問に思っていらっしゃったようで、皆さん熱心に勉強していました。それをきっかけに、特に中標津農業高校では積極的にSDGsに取り組んでいます。
SDGsを広く周知し、この地域に確実にSDGsを根付かせるための活動を我々は2年間おこなってきましたし、ある程度根付かせることができたかなと感じています。
協議会で考える地域の課題
協議会やワークショップの中でよく話になったのですが、この地域の基幹産業は酪農と漁業です。また、3つの国立公園に囲まれているこのエリアは観光も盛んです。それらはお互いに何かいいところを取りつつ協力し合いながら共存していかなければいけないというテーマがあります。
しかし、例えばある時期になると町中に糞尿の臭いが充満するようなことがあるわけです。飛行機を降りると糞尿の匂いがする。その糞尿の臭気対策は昔から言われていますし、対策もおこなわれていますが、なかなか解決するに向いません。
課題であると認識しているのであれば、それに対して、個人としての農家や農協、自治体はどうやってそれに携わり、このテーマを解決していこうかということは真剣に考えていくべきだと思います。SDGsはそういった問題を解決するときの手段として非常に役立ちます。
SDGsは経済課題、環境課題、社会課題を3つに分けて、それを同時に解決していこうという取り組みです。ただ経済の課題に対してお金を稼ぐ、地域で働くというだけに集中するのではなく、地域の環境問題も併せて解決していく。また、子どもたちの教育問題に関しても子どもたちを巻き込むことによって解決していこうなど、中心となる課題からさらに広く周りを囲んでおこなう課題解決の方法を持っているのがSDGsになります。
観光客が空港を降りた時にくさいなと思って養老牛温泉に行くのと、緑や山がきれいで、いいところですねと思って養老牛温泉に行くのとは全然違うと思います。
あくまで一例ではありますが、農家の方々が抱える糞尿の問題と観光が密接につながっていることを意識しながら、両方の課題を解決していく方法を探り実践してゆく、簡単にいうとSDGsとはそういう活動をおこなっていくことです。
SDGs WEB マガジン
tomosu(トモス)の立ち上げ
2年間普及啓発の活動をやってきた中で、そこで勉強された方が活動するようになりましたし、協議会の中でも実践として動くプロジェクトを2つ立ち上げ、本格的に動き始めました。活動の主体はあくまで普及啓発になるので、SDGsが今この地域で具体的にどういうふうに行われてきているのかを報告する場、みんなに知ってもらうためのツールが必要だということで、ホームページを立ち上げようという話になって、tomosu(トモス)というホームページを立ち上げました。ホームページを立ち上げるにあたって、資金が必要だということになり、クラウドファンディングで支援を募りました。正直僕は自信もなかったですし、クラウドファンディングも初心者でしたので、そんなに集まらないだろうと思っていたのですが、想定よりは集まったと思います。
クラウドファンディングの支援者に対してのお礼であるリターンには地元企業のグッズや商品、体験などがあったのですが、その中に2万円支援してくださった方のリターンとして「山本牧場オーナーと行く養老牛自転車ツアー」というのがありました。先日も2人がそのツアーに参加して、楽しんでもらえたかなと思っています。
今後のビジョン
高校生を集めてSDGsをテーマにした課題解決のプレゼンを高校生にしてもらう「SDGs甲子園」というものをおこなっています。これまでに2回開催していて、初年度は北海道大会と近畿ブロック大会がありました。中標津農業高校や標津高校、釧路の明輝高校も出場していました。先日2回目がオンラインで開催されて、新しく神奈川ブロック、関東ブロック、東海ブロックもできて、来年は九州ブロックもスタートします。高校生にSDGsを勉強してもらい、広げていきたいという趣旨でやっているのですが、2年後には全国大会の規模にしようという動きがあり、ここ道東で全国大会を開催するという流れはもうすでに出来上がっています。
環境に恵まれた地域であるということもありますし、中標津農業高校のように先進的にSDGsに取り組んでいる学校があって、また取り組んでいる人たちも多く、開催地としてふさわしいと思っています。ただ、全国から高校生や先生が集まってきた際に、我々が道東はこれだけすごいというものを形にして残さないといけないと思ってます。多くの人たちがこの地域で、何に真剣に悩み課題解決に取り組んでいるのかを形に残すにはどうすればいいのかを、今話し合っているところです。
それができて初めて子どもたちに誇れる大会になると思いますし、道東地域って面白い、すごい地域なんだということを若い世代にわかってもらうことによって交流人口も増えていくでしょうし、そういうきっかけとなる大会にできればと思っています。この道東がSDGsの先進地域になることを目指しています。
大会自体は年々とても大きくなっていて、北海道だけでも昨年は140チームほど参加しています。昨年は旭川農業高校はグランプリをとりました。年々高校生がレベルの高いプレゼンをするようになっていて驚きます。
本当はオンラインではなく集まって開催したいので札幌の道新ホールまで借りていたのですが、結局オンラインで開催しました。オンラインで良かった部分も沢山ありました。やってみてわかったことですが、オンラインであれば移動や宿泊などの費用がかかりません。それで十分だという方もいらっしゃいます。そういう予算のことも感じつつ、うまくオンラインでいいところとリアルのいいところの両方を取りながら、今後大会運営に活かしていくしかないと思っています。
協議会が抱える課題
2つのプロジェクトがありながら協議会に参加している人たちは、当然自分の本業を持っているので、なかなか進まず、そこにもどかしさは感じています。割り切ってやるしかないのですが、僕らには2年後に道東でSDGs甲子園を開催するという目標があるので、多少焦っているのは事実です。
また、最近周りやテレビでもSDGsが盛り上がってきていて、言い出しっぺである我々としては一層頑張らないといけないなという気持ちでやっています。
普及啓発というのは我々の根幹であることは変わりません。ただ、地域を変えるまでのこと、結果を形に残すことはできていないので、10年ぐらいのスパンで見て今後も話し合っていこうと思います。
(取材/2021年8月23日)
※ワーケーション
「ワーク=仕事」と「バケーション=休暇」を組み合わせた造語。観光地など自宅以外の非日常の場所でリモートワークを行いつつ、休暇を楽しむ新たなワークスタイルを意味している。