
甲子園出場 ─ その思いと決意
地域一丸、未来への翼。別海高野球部が甲子園に挑む
インタビュー:島影 隆啓(しまかげ たかひろ)
北海道別海高等学校 野球部監督
別海高野球部が、昨年の10月に開催された秋季全道高校野球大会で初の4強入りを果たし、来春の第96回センバツ高校野球大会に出場する21世紀の枠候補に初選出。
8年前から別海高野球部を率いる島影隆啓監督は、普段は家業のコンビニエンスストア「セイコーマート しまかげ中春別」の副店長を務める外部指導者。就任当初は部員4名という厳しい環境を乗り越え、昨年の秋は16人で快進撃を続けた。
地域に支えられながら成長を続けた別海高野球部。監督にこれまでとこれからについて話を聞いた。
21世紀枠候補に選ばれ、監督としてはその期待に対して、どのような思いが描かれていますか
やはり、この田舎の学校で本当に甲子園に進むことができるとは、正直に言って思っていなかったと思います。実際、私も最初に来たときは生徒数も少なく、部をどうやって存続させるかが課題でした。その頃から見れば本当に夢のような話です。
ただし、人数が少なかった当初から私たちは一貫して「甲子園に行くんだ」という強い意志を持ち、別海町をひっくり返すことを目指してずっと頑張ってきました。その結果、手が届く位置まで来られたことは本当にうれしく思います。そして、これは僕らだけでなく、町を始めとする多くの人々、父母会などに支えられてここまで来た結果だと心から感謝しています。
選手たちも今回の秋の全道大会で、新チームを立ち上げた際に「まずはベスト4に進もう」という目標を掲げ、それを達成できたことは本当に大きな意味があります。ただし、準決勝で北海高校との試合では「いい試合だった」と言っていただけますが、あそこで勝てなかった。今年の夏に向けては実力で優勝し、甲子園に進むべきだという思いがあります。うれしい反面、「なぜあそこで勝ち切れなかったんだろう。何で自分たちの野球がもっとできなかったのだろう」といった反省点を、この一冬かけてしっかり修正し、夏に向けてさらなる努力を重ねていく覚悟でいます。
監督はこれまでどのような活動をされていましたか
中学校を卒業してから、旭川実業高等学校に進学しました。1年生の夏に怪我をしてしまい、釧路の病院に1カ月間入院することになりました。もう強豪私立校での継続が難しいかもしれないと不安を感じていました。入院中に釧路にある現在の武修館、当時の緑ヶ丘高校の監督がわざわざ病院に訪ねてきて、もし転校するならばうちで新たにスタートを切らないかと声をかけていただき、それに応じて1年生の秋から転校し、緑ヶ岡高校で卒業しました。その後、大学に進学して札幌大学で準硬式野球を続け、卒業後は札幌通運株式会社の営業職に就職し、釧路営業所に配属されました。
2年間勤めた後に、恩師から声をかけていただき、2006年10月から武修館でコーチを務めることになりました。2008年から2014年3月まで監督としても経験を積み重ねました。その後、地元に戻り野球から離れるつもりでしたが、武修館高校の教え子たちが活躍する姿に刺激され、再び熱意が湧いてきました。その後、別海高校からお誘いをいただき、外部監督として復帰することができました。公立高校で外部監督を採用している学校は非常に稀なケースです。私以外の外部監督は町職員であり、自営業をしながら監督を務めているのは私だけです。

地域活動にはどのように取り組んでいますか
私たちは8年前からずっと、「地域に愛され、応援されるチームになる」という目標を掲げて取り組んでいます。地域行事に積極的に参加しています。今年は匿名の方がボールを寄付してくださったり、小学校の少年団のチームが全道大会に行く際には各チームで応援のメッセージを送ってくれたり、レストランに招待してくれてご飯をご馳走してくれたりといったサポートを多くの方々に受けています。声かけもありがたいですし、応援されていると感じています。
スケートリンクのペンキ塗り作業や少年野球の大会の手伝い、祭りの神輿担ぎ、保育園での野球や除雪作業、体育スポーツセンター祭など、様々な地域イベントに積極的に参加しています。特に冬休み中には、働いてお金を稼ぐことの重要性を実感してもらうために、バイト優先期間を設けています。
グローブ1つを購入するだけで必要な資金がどれほどかかるのか、そしてそのためにはどれだけの労働が必要か。お母さんやお父さんが仕事や家事に一生懸命取り組んでいることを理解し、その大変さを実感してほしいのです。実際に経験しないと理解できないこともあります。これは地域のコミュニティとの結びつきや地域への貢献にもつながり、興味深い経験が得られると考えています。
どんなチームですか?今後の目標を教えてください
この子たち、特に2年生は非常に仲が良いですね。彼らはすごい一体感を持って戦っています。だから、全道大会で北海高校と対戦しても、どの相手に対しても負ける雰囲気がまったくありません。緊張する瞬間もあるし、ガチガチになっている子もいますが、練習している時と同じ雰囲気で試合に臨んでいるので、場慣れしていると言いますか、落ち着いていると思います。
今までは力があっても、本番になると萎縮してしまい、いつもの野球ができないということが続いていました。しかし、それを打破してくれましたね。もちろん実力はあったというのは言うまでもありませんが、エースへの信頼感が大きいのかもしれません。
こんな小さな学校で甲子園に行くというのは、誰もが想像もしていなかったことだと思います。子供たちが頑張って一定の成果を出せたのは、たくさんの人が支えてくれたおかげです。町の皆さんに支えられ、動いていただいていることにあります。甲子園に行った際には、全国の大舞台でいつも通りの野球を見せ、地域の子供たちに勇気を与え、「やればできるんだ」と、強豪校に進学しなくても甲子園に出場できる、夢を叶えられることを示したいと思います。それが一番重要だと思います。
別海高校野球部の父母会は日本一だと思っています。これまでの8年間を含めて、素晴らしい環境で野球をやらせていただいています。その人たちに恩返しをするためにも、メッセージを残せればと思っています。
センバツが終わったとしても、チームには今後の未来のビジョンがあります。やはり、まずは夏の大会で実力を発揮して北海道を制することが最大の目標です。そのために、全力を尽くしていきたいと考えています。子供たちがどんどん少なくなっていく中で、部の存続や選手の集め方についても考えていかなければなりません。10年後や20年後も、しっかりと別海高校の野球部が残るようにするためには、設備面や部の方針にも注意を払っていく必要があります。また、子供たちをどのように育てていくかも重要な課題です。野球熱を冷ますことなく、ますます盛り上げていけるように、これからも頑張りたいと思います。
(取材/2024年1月18日)
