コロナ禍やクラスターを通して、これからすべき対策がより明確に。

コロナ禍やクラスターを通して、これからすべき対策がより明確に。

コロナ禍を終えてから起こったクラスター。入居者だけでなく職員をどう守るかをより考える機会に。

インタビュー:五十嵐 強(いがらし ちから) 
合同会社 萩(グループホーム 萩の里) 代表


この3年半を振り返って、改めてどのような状況だったかお聞かせください

インフルエンザやノロウイルスでも人が亡くなる可能性はあるものの、大規模な感染クラスターや人命の喪失といった経験がなく、最初は正直それほど深刻な脅威とは感じていませんでした。しかし、今回はそのような脅威が本当に現実のものとしてやってきて、まさに自分たちが想像していた以上の事態に直面したと感じます。

これまでのマニュアルに書かれていたことを、厳格に実行しなければならない状況。それが違った点であり、初めての経験でした。私たちの施設だけでなく、おそらくどこも同じような感じだったのではないでしょうか。

インフルエンザは元々は感染力が強いと言われていましたが、これまで施設内でインフルエンザの感染が拡大して大変だった経験は私はほとんどありませんでしたし、現在は治療薬があります。一度発生すると急速に広がるノロウイルスも経験がありません。また、スタッフも同時に何人も休むといった経験はありませんでした。

新型コロナウイルスは感染力の強さが特徴であると聞いていましたが、今回はその感染力の強さに驚きました。個室への隔離が必要とされ、面会も制限されました。

新型コロナウイルスに感染した際の対策はマニュアル化されてはいましたし、基本的なことをより厳重におこいましたが、マニュアル通りに行かないことが多々有りました。

新型コロナウイルスが5類に移行した後にクラスターが発生したとお聞きました

今回、当施設で、社会が元の生活に戻れつつある中で、クラスターが発生しました。もしかしたら、少し油断があったのかもしれません。報道ではウイルスが弱毒化しているとも言われていました。そのような報道の影響もあってか、自分自身の中にも少し恐怖心が薄れているような気もしました。

その時、油断していなかったらこのようなクラスターが起きなかったのか、と言われると、正直分かりませんが、緊張感が緩んでいたのは確かです。

職員も基本的にマスクを常に着用していましたが、暑さやつらさから、入居者から離れたところで作業をおこなうときはマスクを外していいという配慮がありました。以前は、職員の外出やスポーツイベントへの参加なども連絡を取り合っていましたが、それも緩やかになりました。

これに関してクラスターの原因につながったとすることは断言できませんが、やはり気を抜いていた側面はあったと思います。

7月12日に職員の1人が風邪の症状を訴え、病院でコロナ陽性と診断されました。この職員は発症の前日まで勤務しており、その間に感染が広がった可能性が考えられました。

当施設は2つのエリアに分かれているのですが、すぐにその時の勤務状況や、どの職員がどのエリアで働いていたか調べました。しかし分かった時点で既に多くの職員と入居者が接触していたため、対処方法が限られていました。すぐに入居者の一人が発熱し、それから続々と感染者が増え、最終的に入居者9名、職員13名が感染しました。特に、フルタイムの職員が主に感染してしまい、職員が足りない状況となりました。

コロナに感染した入居者さんは、症状が重くない方が多かったです。ワクチンの影響もあるかもしれませんが、1〜3日で元気を取り戻す方が多かったです。ただ、認知症の方が入居している施設のため、感染したことをすぐに忘れてしまう傾向があります。一部の入居者はコロナ感染していることに気付かないまま、他の入居者と交流してしまい、隔離や感染対策を実施することが難しく、感染が広がりました。

このような状況下で、感染した職員が多かったため対応できる人数は限られており、入居者さんを感染した方と、感染していない方の2つのグループに分けて、効率的に感染拡大を防ぐための対策を実施しました。

感染しているユニットでは、私を含む以前感染した経験のある職員3名を配置し日勤で休みをとってもらいながら対応し、夜勤は私が全て担当しました。このような交代制で運営し、感染していないユニットの職員が後方支援に回りました。

その結果、命に関わらない業務は全て停止し、お風呂や洗濯なども行えない状態となりましたが、この対応は間違っていなかったと考えています。

しかし、職員数が限られていたため、入浴やトイレの介助などが困難でした。そのため、感染を防ぐための努力も虚しく、一人の入居者さんが尿路感染症を起こし、敗血症に至って亡くなる事態が発生しました。

対策をしていたのもあり、同時に全員が感染することはなかったのですが、リレーのように感染が広がり、最初の感染発症から落ち着くまでに約3週間かかりました。

この期間中、入居者のケアが大変でした。トイレやお風呂が利用できない状態で、入居者のストレスが蓄積される中、認知症の進行や身体の衰えが見られることもありました。このような状況において、感染対策以外のリスクも考慮しなければならず、非常に複雑な状況でした。

同時に、利用者のストレス緩和や工夫にも取り組みましたが、正直なところ、感染対策が最優先で、その他のことを考える余裕はほとんどありませんでした。3週間の間、様々な困難がありましたが、何とか乗り越えました。

そのような状況の中で働いてくれた職員の方々には本当に感謝しています。彼らは自分たちの家庭を持ち、子供たちがいる中で、感染のリスクを冒して働きに来てくれました。これは本当にありがたいことですし、彼らの努力に感謝しています。仕事による肉体的な負担、精神的な負担だけでなく、感染症状が重く重症だった職員も2名いました。

また、このような状況においても、外部からの声は否定的なものではなく、温かい応援や励ましの言葉が多く寄せられ、感謝の気持ちで胸がいっぱいになりました。亡くなった方のご家族からも心温まる言葉をいただき、その言葉に涙が流れました。入居者や職員のご家族や病院、地域の支援もあり、多くの人々が助けてくれたことを実感しました。

また、他の施設から防護服やガウン、マスク、ポータブルトイレなどの支援もあり、そのありがたさを感じています。アイスクリームの差し入れなど、さまざまな形での励ましもありました。外部からの支援があることで、少しでも心温まる気持ちを感じることができました。

これからもまた新たな課題や問題が生じるかもしれませんが、周囲の支えや経験から学んだことを活かして、前に進んでいきたいと思います。

今回のことで得られたことはありましたか

新たな学びを得ることがありました。介護職としてこれまでの経験もあったので、自分の中で感染症が起こった場合の対処をシミュレーションしていました。しかし、実際の経験を通して気付くべきことがたくさんありました。

細かな点や手順、対処方法など、実際に試してみないとわからないことが多くありました。

感染症によるクラスターの発生やその影響についての理解も、実際の経験を通じて大きく変わりまし、細かい手順や対応策をあらかじめ考えておくことの重要性を痛感しました。前もって想定しておくべきことがたくさんあることに気付けたと思います。

また、職員を感染させない方法や、クラスターに巻き込まれないための対策についても考えています。なかなか明確な解決方法は見つかっていませんが、職員が次々と休む状況になり、実際にやりたかったことを実行できなくなってしまいました。それを防ぐためにも、もっと事前に細かく対策を練るべきだったと気付きましたし、クラスターの発生を予防するためにもっと努力するべきだったと反省しています。将来、再びクラスターが起きる可能性はあると思いますが、その際には今回の経験を活かしてプラスにするべきだと考えています。

業界全体でも、変化が起きていることを感じています。変わるべきことや改善点は必ずあると考えていますし、地域ごとに様々な取り組みが行われていると思います。

今までおこなっていたことを見直し、新たな試みよりも、今までの取り組みをより充実させることが重要だと思います。介護職や介護事業所が本来やるべきことを見直し、きちんと実行することが大切です。

また、他の事業所との連携や支援体制の強化も変わったことの一つです。地域の各事業所がお互いに助け合い、声をかけ合うことが増えました。自分の事業所にもクラスターが起きる可能性があるため、お互いに協力して助け合おうという意識が高まったように感じます。

(取材/2023年8月19日)