外の社会と隔離された中で見えた人との繋がりと絆の大切さ

外の社会と隔離された中で見えた人との繋がりと絆の大切さ

いつ終わるかわからない新型コロナウイルスによる不安や疲労の中、全員で真摯に取り組んだ3年半。

インタビュー:犬伏 善則(いぬぶせ よしのり)
社会福祉法人 中標津朋友会 中標津りんどう園 施設長


この3年半を振り返って、改めてどのような状況だったかお聞かせください

以前は当たり前だと思っていたことが、実際にはそうではないことがあると感じました。具体的には、認知症の方々をケアする施設が全国に多くあり、特に千葉県や千歳市などで大規模なクラスターが発生して多くの人々が亡くなりました。その当時は致死率や死亡率が高かったです。この状況は日本全体に広がっており、報道を見るたび、自分が同じ状況に置かれた場合にどう対処すべきか考えると恐怖が先行しました。ウイルスは常に変異し、感染力の高い新たな変異ウイルスが現れたり、感染が拡大していく状況が続きました。

2020年まではワクチンが存在せず、感染拡大を抑える手段が限られていました。しかし、ワクチンの普及により致死率が減少したことは明らかであり、ワクチンの影響は大きいと考えられます。ただし、変異株が出現し続けているため、感染状況がいつまでも続いている可能性を考えると、常に不安が残ります。

このような状況から、認知症の方を始めとする施設利用者の方は、面会や家族との接触が厳しく制限されました。特に施設での面会は禁止され、そのため家族や本人たちも落胆しました。この制約は他の感染症でも一時的に見られることがありますが、今回はその期間が長く続きました。一年中面会が制限されることになるなど、その厳しさはかなりのものでした。

中標津町の介護保険サービス事業所で組織する介護保険事業者協議会では、クラスター発生の防止対策が幾度となく話し合われ、感染リスクを最小限に抑えるために施設内への外部から菌の持ち込みを避ける対策を話し合いました。

しかし、その実施は簡単ではなく、札幌や東京のような大都市でも感染拡大がありました。具体的な対策として、接触を極力避けるための制限が設けられました。たとえば、接触した場合は1週間の隔離措置が行われるなど、極端な措置が取られました。職員たちも隔離される状況となり、家族や親戚との関わりも自然と制限され、外出も難しくなりました。職員の中にも恐怖心や不安が広がりました。

この状況は、職員のモチベーション低下や暗い雰囲気の広がりを引き起こしました。致死率の高さからみても、極端な対策はやむを得なかったと言えますが、対策の効果や適切性については今でも考える余地があります。後から振り返ると、その判断が正しかったのか、未だに疑問が残る部分もあります。しかし、その中で行われた対策は、職員や利用者の安全を守るために必要だったとも言えます。

他人にとっては理解しがたい行動も、自身が同じ立場に置かれた場合には選択肢として考えざるを得ないこともありました。

管理者としての責任を考えると、感染ルートの特定は難しく、現在も安定した対策が見つかっていない状況です。しかし、感染を広げないための取り組みは続けられ、職員や利用者の安全を最優先に考えています。

現在も感染対策を怠ることなく、緊張感を持ちながら業務に取り組んでいます。

当園でもクラスターが起こりました。しかし、残念なことに集団感染が発生してしまうと、誰が感染源だったのかや、感染対策の意識の低さについて疑問視されることがあります。最初に感染が広がった原因は概ね想定できますが、時にその発生源の特定が難しいこともあります。こうした傾向が存在しやすいのです。

また、国などの上層部から出される指示によっては、何か意図が隠されているのではないかと疑念を抱くこともあります。善悪や秘密事項をあれこれ決めつける社会風潮に対しても、しんどさを感じました。誰も悪いわけではなく、皆が頑張っているのに、このような状況は辛く、犯人探しのようなことは望ましくありません。このような雰囲気に流されてしまいそうな傾向があったため、つらいもので、内心の葛藤がありました。

その一方で、職員たちは個々に専門家としての責任感を持ち、コロナ対策に真摯に取り組んでくれました。この姿勢には喜びを感じ、職員たちが感染対策を頑張って乗り越えてくれたことに感謝しています。

特に、職員たちの真摯な感染対策が励みとなりました。不安や疲労が辞職に繋がるケースがあると感じています。しかし、当園のような大規模な人数の中でもしっかりと対策を実施し、罹患した職員が復帰後も「仕事を続けたい」という思いから頑張ってくれました。また罹患した職員が自宅療養中にも関わらず「早く復帰したい」と申出してきたこともありました。ただし、この状況は緊張感を持たせ続けるものでもありました。

良い意味でその経験をし、それを乗り越え成長することで、将来に良い経験となるのではないかとの期待があります。離職する際には引き止める努力もする一方で、慎重に検討し、離れる選択をした方々もいました。そうした決断を支えた職員もおり、これは良い意味での励ましであったと思います。

地域の人々や家族からの非難や批判が思ったほどなく、むしろ励ましの声を多く受けました。この励ましの言葉を通じて私たちは救われたと感じています。

また、ある研修の時の話ですが、公職として第三者評価委員を務めてる講師が当施設訪問時にこんな話しをしてくれました。ある東京近郊施設の幹部職員は「うちはクラスターを一度もしていない」と自慢していたが、いざ第三者評価委員としてその施設の中に入ると、入所者を居室内に閉じ込め隔離し、人との交流を全くしていないだけだった。本末転倒だと。クラスターが発生した当施設に対し「クラスターが発生したからといって落ちこむことはない。利用者の方々のために頑張りなさい」と声をかけて下さりました。この言葉にも救われました。

明るく振る舞うことの大事さ、辛い状況でも前向きに努力する姿勢が大事です。経験者からの一言や、職員同士の団結が利用者の方々を救い、クラスター初期の難しい時期を乗り越える力となった。現在の状況や致死率の高さに関しても触れつつ、今後の変化に期待感を込めています。

逆に今回のことで得られたことがあったとお聞きしました

初期の段階で北海道でも独自の緊急事態宣言が出されたこともありました。北海道知事にとっては困難な判断であったと思われます。この時、介護現場や医療機関、保健所なども大変だったと思います。この苦労は計り知れないものがあり、飲食業界をはじめ、他の業種も甚大な影響を受けました。

介護現場ではハイリスクな高齢者を感染症から守る使命があります。長い人生を送り、最終的には亡くなるため、その間の「生活の質」「高齢者の今」、ここを何よりも大切にすることが大事です。介護の本質は人間関係であり、利用者さんへの寄り添う支援が肝心で、私たちが考えなければならないのは高齢者のための感染対策です。ただし、ハイリスクという言葉を使えば、高齢者の普通の生活もハイリスクに含まれてしまいます。高齢者の普通の生活を守ること、これが私たちの仕事です。

この3年半の間、感染症対策のために人間関係や接触の制限が続きました。私の親もこの状況で、地方の病院にて亡くなりました。病院での面会制限や介護の難しさ、人との繋がりの大切さを痛感しました。家族や職員、地域の方々との関係は介護現場の中心であり、感染対策を行いつつも、この人間関係を大切にすることが重要です。普通に行えることが制限される中で、介護の本質や価値について考えさせられました。人と人との分断を経て、介護の仕事が何であるべきかという問いに向き合いました。2009年に起きた新型インフルエンザでは、今問題となっている課題が全て議論されたと思いますが、せっかくの総括・教訓が今回の新型コロナウイルス対策に活かされていなかったのではないでしょうか。

多くの人々が困難な状況を経験しました。この経験を無駄にしたくないとの願いがあります。将来もまたパンデミックが起こる可能性があると考えます。どのような状況でも今回の経験を生かして備えることが重要であり、そのために国や組織はしっかりと対策を練る必要があるでしょう。どのような人が重症化しやすいか、感染が広がりやすい場面などが明らかになりました。この知識は、私たちだけでなく、全ての国民にとって重要なものです。この経験を踏まえて、自主的に対策を進める環境を整えることが必要で、ここは国が汗をかく領域だと思います。

今後の対策を考える上で、国は積極的な行動を起こすべきです。当たり前だったことができなかったり、手を握れず会えないまま亡くなるケースもありました。こうした経験を通じて、次に備えることは重要です。

デジタル化の要となるのは、開放感をもたらすデジタルトランスフォーメーションです。例えば、オンラインツールの利用(Zoomなど)が今では当たり前になっており、私たち協議会の役員もビジネスチャットを使用して会議を行ったりしています。ただ、こうしたツールの導入は、心情に変化をもたらした要因があったからこそ、その投資は非常に大きかったと感じています。これまでにも存在した要素ではありますが、おそらくこうした状況でこれが急速に広まったと言えるでしょう。

ただ、これにより、便利さが飛躍的に向上した反面、結果的に直接的な交流の機会が減少し人間関係は希薄になってしまいました。

しかし、この状況の反動として、今こそ直接人々と対話する機会を大切にすべきだと感じるようになりました。この変化を受け入れた上で、人々との交流を大切にしようという意識が芽生えたと思います。

現在は面会制限が解除され、家族や利用者との対話が再び可能になっています。特に家族同士の絆が深まる様子を見て、喜びを感じています。家族が集まり、手を握る姿を見ることで、喜びと感動が広がっていると表現しています。このような変化が、親子関係の回復や強化にも繋がっていることを感じています。

自分自身の人生においても、良い意味で変化が訪れました。以前は、後悔したくないからこそ、人と会うことやコミュニケーションが大切だという意識はありましたが、今と比較すると希薄だったかもしれません。それについて改めて考えることで、自身の気持ちも変化しました。会えるうちに会おう。感謝の気持ちを伝えよう。この変化が、何か良い方向に導いてくれるのかなと思います。

また、私たちの世代には、職場を休むことに対する抵抗が強い傾向があります。感染の可能性が高い場合でも、会社側が仕事を休むことを受け入れやすい環境を整えることが重要です。こうした取り組みが促進されることが必要だと考えています。体調が優れない時には休暇を取ることも、仕事を休むことも自然なことであり、そうした選択肢があることが当然だと思います。このようなことを率直に言いやすい雰囲気や、会社全体での風土が整っていくことも重要です。寝ずに仕事をすることが褒められるような風潮を変え、職場環境を改善することが望ましいと思います。

コロナ禍の前と後で変化したことはありましたか

経験を持つ幹部職員や看護師たちは、対策を進める際に自身の経験を活かしています。特に利用者さんや家族の意見に耳を傾けながら、対策を進めることの重要性を強調します。我々は普通の施設での意見対立を乗り越え、円滑なコミュニケーションを心掛けています。隔離が難しい状況下で限られた状況で対策を行う必要があります。

これからの道筋として、国や組織は過去の経験を踏まえ、未来への準備を進めるべきです。この経験を無駄にせず、より良い未来のために取り組む姿勢が不可欠です。

ここ数年の間、感染症の存在は以前から知られていましたが、新たな状況も生まれました。例え感染症が下火になっても「喉元過ぎれば熱さ忘れる」ということではなく、将来にわたるパンデミックの可能性に備え、具体的な指標をもとに議論し、対策を進めることが肝要です。

また、医薬品の開発やワクチンの普及も進展し、多岐にわたるアプローチが取られています。ただし、ワクチンに関しては賛否両論があり、現場では多様な意見が存在します。

制限された面会や家族とのコミュニケーションに直面しながらも、オンラインを通じて家族との絆を保ち、感謝の気持ちを伝える試みが行われました。これらの取り組みが家族に感動を与え、困難を共に乗り越える力となりました。こうした経験を通じて、新たなアイデアや対策が生み出されました。

感染症対策の観点から、これまで取り組んでいなかった側面や日常生活での対策も再評価されました。利用者さんや家族とのコミュニケーションを大切にし、定期的な情報共有を行う努力がなされました。職員一人ひとり直筆で心を込めて書いた手紙を通じて気持ちや情報を伝えることで、物理的な距離を感じさせずに絆を保持するアイデアが展開されました。

こうした取り組みは、将来の対策や状況にも適用できるものと言えます。感染リスクを最小限に抑えながらも、心のケアとコミュニケーションの大切さが一層浮き彫りになりました。現場の職員たちの献身と創意が、より良い状況を築くための道を切り開いてくれることでしょう。

(取材/2023年8月7日)