認知症の症状の特徴
医療法人 樹恵会石田病院
院長 石田 康雄
今回から数回にわたって「認知症」の原因の90%以上を占める脳の変性疾患であるアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症および血管性認知症の症状の特徴について簡単に説明していきたいと思います。これらの疾患の症状の特徴を捉えることは、重要で診断や治療、介護の方針などに役立ちます。
1、アルツハイマー型認知症(AD)
ADは物忘れから始まることが多く、見当識障害 (時間、場所、人)、判断力低下などの中核症状である認知機能が低下します。その後、症状の進行とともに、介護への抵抗、不穏、せん妄、易興奮、徘徊、拒否、失禁、などの行動・心理 症状(BPSD)が加わってきます。「病識の欠如」が特徴的で自分は病気であるという認識は失われていきます。その後は3~5程度で自立生活が困難となり8年程度で介護困難となることが多い疾患とされています。
a 物忘れ、近時記憶障害
初期において最も特徴的な症状です。昔のことはよく覚えているが最近のことは覚ていない、必要な日時や出来事を忘れてしまいます。同じことを繰り返して言う、尋ねる、置忘れなどがあります。また「振り向き徴候」や「取り繕い」が特徴的にみられます。
b 見当識障害
年月日や時間、季節、場所、人物などがわからなくなります。まず時間の見当識が障害され、その後場所がわらなくなります。
c 判断力の低下
新たな出来事に対する理解や判断が難しく、また同時に複数のことができなくなります。
d 視空間認知障害
図形をうまく描けなくなる。車の車両感覚や位置感覚も鈍るので運転が難しくなってきます。
e 計画や遂行障害
何をどうするのかと言った計画性や種々のことを総合的に判断し計画を立てて実行することが困難になります。例えば仕事や家事が以前のようにはできなくなります。
f 言語障害
思ったことが言葉に出にくい。物の名前がわかりにくくなり、言葉の理解力も低下します。
g 行動・心理症状 (BPSD)
認知症が進行する過程で、幻覚、妄想、徘徊、不安、焦燥、うつ、せん妄、暴言・暴力、不穏・興奮、拒絶・抵抗などの精神症状や異常行動が出現してくる場合があります。ものとられ妄想の頻度が高いのが特徴的です。
h 局所神経症状
認知症が重度になり経過が長くなると、筋強剛 (筋肉がこわばって固くなる状態)などの椎体外路症状(筋緊張の亢進など)、ミオクローヌス(体の一部がピクッと動く)、てんかん発作をきたす場合があります。
2、レビー小体型認知症(DLB)
DLBはパーキンソン病と認知症の両方が初期から起こる病気で、幻視を伴う特徴があります。パーキンソン徴候は振戦(体の一部が不随意にふるえる) が少なく、筋固縮や寡動が主体となります。抗パーキンソン病薬のレボドパ(L・DOPA) に対する反応が弱いという特徴があります。
a 初期からパーキンソン徴候を伴う場合が多くみられます。
b 繰り返し現れる具体的で明確な幻視が特徴的で、見えるものは人物、小動物、虫などが多く、種類や色、形を明確に述べ、覚醒レベルの低下時や夕方など薄暗い時間帯に起こりやすい傾向があります。誤認が幻視につながっていることもあります。
c うつ症状で始まるか、或いはうつ症状を伴うことが多く、レビー小体型認知症の約40%に初期症状としてうつがみられます。
d 認知機能障害はアルツハイマー型認知症に比べて軽度で、改定長谷川式簡易知能評価スケール〔HDS─R〕あるいはミニメンタルステート検査〔MMSE〕は比較的高得点のわりに社会的、職業的困難が強い傾向があります。
e 日や時間によって症状が変化し、よい時と悪い時の差が大きい (日内変動)。
f レム睡眠行動障害を伴うことがあり、夢に反応して大声をあげたり、暴力的になったりすることがあります。
g 向精神病薬に対して過敏性があり、少量の抗精神病薬で過鎮静など著名な副作用がみられることがあります。
h 便秘、神経因性膀胱、起立性低血圧などの自律神経障害をともなうことが多い特徴があります。
3、前頭側頭型認知症(FTD)
脳の前頭葉と側頭葉に病変が強く表れる認知症です。
FTDは臨床概念として用いられ、神経病理学的には、前頭側頭葉変性症(FTLD)と呼ばれることもあります。多くは65歳未満に発症する若年性認知症であることも特徴のひとつです。認知機能の低下だけでなく、行動障害、言語機能低下、運動機能障害などさまざまな症状を呈する場合があり、病初期より病識は欠如している場合が多く、多様な神経変性をきたす疾患群です。FTDの病型には次の三つがあります。
① 行動異常型前頭側頭型認知症 (bvFTD)行動の異常が強く出る場合
a 早期の脱抑制、社会的に不適切な行動、礼儀やマナーの欠如、衝動的で無分別や無頓着な行動
b 早期の無関心又は無気力
c 社会的な興味や他者との交流、または人間的な温かさの低下や喪失
d 単純動作の反復、強迫的または儀式的な行動、常同言語。
e 食事嗜好の変化、過食、飲酒、喫煙行動の増加、口唇的探求または異食症
f 神経心理学的検査では、記憶や視空間認知能力は比較的保持されているが、遂行機能障害がみられる
② 意味性認知症(SD)言語の障害と行動の障害が前景に立つ場合
a 物品呼称の障害と単語理解の障害
b 特に低頻度で低親密性のものに対する知識の障害、失読、失書
c 復唱、発話(文法)は保たれる
③ 進行性非流暢性失語症(PNFA)言語の障害のみが目立つ場合
a 言語の障害が初発症状で最も顕著、日常生活の障害の主要原因
b 発話における失文法、努力性で滞りのみられる発話
④ 脳血管性認知症(VaD)
a VaDの認知機能障害はまだら状で記憶や知的能力の低下があるが、病識や判断力は比較的よく保たれます。
b 突然発症、段階的な増悪、局所的神経徴候がみられます。
c 高血圧や一過性のうつ症状、情緒不安定、再発する脳梗塞により生じる一過性の意識混濁やせん妄を生じることがあります。
d 人格は比較的よく保たれていますが、無感情、抑制欠如、自己中心性、妄想的態度、易刺激性、病前性格の先鋭化などの人格変化がみとめられることがあります。
以上で「認知症」の主要な原因疾患の特徴をまとめてみました。医学的な用語を多用し、非常に分かりにくかった面もあるかと思います。実際に認知症の人(当事者)と接した時に、多彩な症状の表現として医学的用語が特に医療や介護の場では共通の言葉 (道具)として役に立っていると思います。しかし認知症の人「当事者」にとっては、冷たく感じられ、看過しがたいものとして捉えられるかもしれません。つまり重要なことは、認知症の人(当事者) それぞれが、当然ですが個人差があることを医療者や介護する人、そして社会全体が理解すること(医学的用語を使って一言で済まされないということ)が重要であると思います。
次回は「認知症」の治療について説明したいと思います。
医療法人 樹恵会 石田病院
院長 石田 康雄
昭和59年 埼玉医科大学卒
平成元年 埼玉医科大学大学院卒 学位取得
平成2年 飯能市立病院 副院長
平成3年10月 石田内科医院 副院長
平成11年1月 医療法人樹恵会 石田内科クリニック 院長
■専門医など
日本内科学会認定医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本東洋医学会漢方専門医、日本人間ドック健診専門医、日医認定産業医、日医かかりつけ医制度研修終了、日本温泉療法医
■認知症関連
平成27年 認知症サポート医
平成30年 認知症初期支援チーム
令和元年 日本認知症予防学会専門医