一人でも多くの命が助かれば。プチプチで防災スーツを開発

一人でも多くの命が助かれば。プチプチで防災スーツを開発

インタビュー:篠田 静男(しのだ しずお)
株式会社 篠田興業 代表取締役


メロディーロードの技術を開発し、特許を持つ標津町の篠田興業が、業務用の気泡緩衝材(通称プチプチ)を使用した、救命胴衣補助具を開発した。
気泡緩衝材で全身を覆うため、水に落ちても全身が浮かび、海水の侵入もしづらくなる。従来の救命胴衣と併用して着用できる防災スーツとしての活用を見込む。
独自性のある製品はどのようにして生まれたのか。


なぜ防災スーツの作製を

 知床半島沖で観光船「KAZU 1(カズワン)」が沈没する悲惨な事故がありました。あの当時にニュースで、水温5度の海水に救命胴衣を着て入った場合、5分持たないだろうといっていました。

 本来、国土交通省は1時間以内に救助に行ける体制をとっていますが、今回の事故は間に合わなかった。仮に1時間で行けたとしても、たぶん助からないだろう、5分で意識を失ってしまう。それを聞いた時に、せめて1時間浮いていることができて、冷たい水から逃れられれば、助かる可能性はあるだろう。分野は違いますが、自分にできることはないかと思案しました。

▲気泡緩衝材を使用し、開発された「アノラッコ」。


 プチプチでおなじみのシート状になった気泡緩衝材があり、これであれば浮く、断熱効果も多少はあるだろうと思いました。完全ではありませんが、助かる可能性があるかもしれない。試作を繰り返し、10月に防災スーツが完成しました。

 昔、防着や雨がっぱのことをアノラックと言っていました。着用時の見た目がラッコに似ていたので、ラッコとアノラックを合わせて、「アノラッコ」という名前をつけました。

どんな商品ですか

 救命胴衣は漁船なり、船に乗っている人が落ちてしまったときに浮くことを目的としており、海水の温度から身を守るということは想定していません。ウェットスーツやドライスーツは海に入ってもあたたかいように、断熱性がありますが、高価です。観光船や釣り船に揃えるとなると100万単位の費用がかかります。救命ボートも高価で、さらに備え付けるには船を改造しなければなりません。それらを搭載しなければいけないとなると、観光船や漁船を運営する事業者は、コスト負担を強いられます。

 気泡緩衝材を使用することでコストを抑えることができ、簡単に着れて浮ける、断熱効果も期待できるので救助を待つ時間をしのぐこともできます。気泡緩衝材は丸い形の気泡が独立しているので、一部が損傷してもある程度の浮力は維持できます。

 国土交通省に問い合わせ確認したところ、救命胴衣を着用できるなら、扱いは衣服と考える、作っても問題はないと解答をいただきました。

今後の課題

▲標津漁港で行われた海中実証実験。



 防水性、強度を高めることです。胸の部分にマジックテープを使用しているので、水が入ってしまします。ジッパーに変更することで、多少防水性は高まると考えています。

 現状は、手はロープを掴むなど、指の可動が必要になると思い、手首にバンドをして水の侵入を防ぐようにし、手は覆っていません。手足の冷えを防ぐため、靴、手袋付きの袋状に改良も思案しています。防水性を高めるため、コーティングを施すこともできますが、コストが上がってしまいます。過剰品質にならないようにコストの折り合いをつけ、改良を施したいと思います。

 2023年3月を目処に、商品化を考えていますが、製作の精度を考えると、メーカーに引き受けてもらえることが一番です。コンビニエンスストアなどで見かけるレインコートを販売しているメーカーに問い合わせをしましたが、ほとんどが海外生産のため、発注ロット数が大きすぎて依頼できません。手作業にはなりますが、自社で受注生産の対応をしていく予定です。

これからのものづくり

 ものを作ることが好きなので、いろいろなものを作ってきましたが、どれも新しいことではないと気付きました。過去に同じようなことは考えられています。昔の人は頭が良かったので、そんなものを作っても売れないとわかっていたのだと思います。

 平成17年にメロディーロードをつくった時は、観光資源として活用したいと大きな期待を感じましたが、「通り過ぎるだけだから費用対効果が見えない」ですとか「道路の音が鳴るからなんなんだ」と批判の声も受けました。

 自分が考えられることは、何も新しいものではない、過去に考えられていたが、ビジネスにならないから商品化されなかったもの。そこに気付かなければ、モノを作っても売れない、ただ無駄にお金をかけるだけです。

 アノラッコも、観光船などに新しく備え付けるとなると経費がかかりますし、ビジネスとして成立はしないかもしれません。災害時の避難所で防寒対策としての活用など、緊急時に少しでも助けとなれば良いと思います。

(取材/2022年12月21日)


悲惨な事故を繰り返さないことが一番だが、万が一の備えとして、人命救助に活用されることを期待したい。


【企業情報】

株式会社 篠田興業
TEL 0153-82-2179
標津郡標津町南2条東1丁目2-1