人口減少対策に新たなアプローチ
人口減少にどう立ち向かうか自治体の地域再生策とは?
インタビュー:西山 一也(にしやま かずや)
標津町役場企画政策課 係長
標津町の現在の人口状況について教えていただけますか
標津町の人口は減少していますが、国立社会保障・人口問題研究所の推計を下回らない形で推移はできています。国の予測よりも減少が抑制されているとの状況で、これは評価に値すると思います。
平成26年に標津町で人口減少時代に挑戦する政策パッケージが策定され、この取り組みは平成27年の国の地方創生の方針よりも1年早くスタートしました。生活に特化した政策をまとめ、ライフステージに応じた切れ目のない支援を提供することが当時の方針でした。この政策は見える化され、さらに拡充も行われました。国よりも少し早い取り組みの効果が、今になって少しずつ現れている可能性があります。
現在では、こども園の無償化や医療費の無料化、出産祝い金の支給などが各自治体で広く行われていますが、当時はまだそれほど進んでいませんでした。標津町が早くから子育て支援に力を入れていたことが、子育て世代の減少を抑制する一因となりました。
一方で、人口減少が大きいのは主に20歳前後の世代です。高校卒業後の進学先がこの地域になく、専門学校や大学への進学、そして町外での就職が求められることが一番大きな要因と考えられます。この課題は標津町だけでなく、この地域全体の共通の問題でもあります。
人口減少が地域社会に与えている影響について教えていただけますか
漁業と加工業を合わせた水産業と酪農業が、この地域の基幹産業であり、これが元気でなければ全体的な活気が生まれません。しかし、基幹産業の担い手が次第に減少しており、産業界が少しずつ元気を失っている状況です。これが飲食店や運送業、ガソリンスタンドなどにも影響を与え、収入が減少すれば地域全体で人口流出が進み、負のスパイラルが始まると危機感を抱いています。
担い手の不足が最大の課題であり、これが解決されなければ地域全体の発展が難しいと考えています。公共交通も人手不足で運行が難しくなり、路線や便数の削減が進んでいます。これにより、以前は可能だったことが実現困難になっています。
標津町役場も例外ではなく、新卒者の採用が難しくなり、計画通りの採用が行われていない状況です。担い手不足を補填するために社会人を採用すると、若い世代が不足してしまい、年齢構成が偏ることが懸念されています。
今は問題が表面化している状況ですが、将来的に20年後や30年後においてもこの課題が解決されないと、深刻な影響が及ぶ可能性があります。このような状況に対処するためには、担い手確保の戦略や地域全体の発展を考慮した施策が必要とされています。
人口減少時代に挑戦する政策パッケージにおいて今後どのように取り組んで行かれますか
政策パッケージを継続していくには、財源の活用が重要です。不要な部分は無理に行わず、その分の財源を効果的なところに集中的に使うことが必要です。税収が冷え込む中で、新しい取り組みに予算を充てることは難しい状況ですが、効果的な政策を打ち出すことが求められています。
例えば、標津町では新しく川北にコワーキングスペースが開業しました。これを軸にして関係人口を増やし、標津町の魅力を広めるために、ふるさと納税や地域の既存産業とのシナジーを活かした取り組みが必要です。情報発信が弱いと感じる中で、公式の媒体が限られている状況では、新たな情報発信の手段を模索し、認知度向上に努めることも重要です。ユーチューブ動画作成やSNSを活用など、多岐にわたる手法でアプローチしていくことが考えられます。
これらの取り組みが成功すれば、地域への投資となり、新たな活気を生む可能性があります。ただし、標津町が知名度を上げ、魅力をアピールするためには、継続的で戦略的なアクションが求められると思います。
人口減少対策や地域振興において、展望や目標を教えてください
人口減少は全国的な現象であり、この状況を逆転させるのは容易ではありません。そのため、減少を一定の範囲で受け入れつつ、実現可能で効果的な施策を選択していくことが重要です。今後は関係人口を増やす方向に焦点を当て、転入だけでなく関係性を築く取り組みを進めます。特に、道東地域は広大で未開発の土地が多く、規制も比較的緩やかなため、企業にとって魅力的なテストフィールドとなり得ます。革新的な技術や試験を実施し、国内外の企業にPRすることで、地域振興に寄与できる可能性があります。
広告予算が限られている中で、発信メディアを活用して関係人口を増やす施策が求められます。観光や体験メニューを積極的にPRし、魅力をアピールすることで、標津町の魅力を広く知らせることが期待されます。地域の特産品や観光スポットを強化し、観光地としての地位を確立することも重要です。
「鮭の聖地」が日本遺産に認定されたことは素晴らしいポテンシャルを示しています。標津町はこれを有効に活用し、観光客の受け入れや教育旅行など多岐にわたる活動を展開することで、地域振興に大きく貢献できるでしょう。
(取材/2024年1月24日)
基幹産業の減少、若者の流出といった厳しい状況に直面しながらも、標津町は知恵と情熱で挑戦を続けている。独自の政策パッケージや新たなチャレンジを通じて、地域への新たな息吹をもたらすだろう。