認知症の医療と介護『人生100年時代』

認知症の医療と介護『人生100年時代』

「認知症の人 本人の声を活かす」という動きが少しずつ始まっています②

医療法人 樹恵会 石田病院
院長 石田 康雄


 今回は前回に引き続き、行動・心理症状(以下 BPSD)の2回目として幻覚、誤認、妄想、徘徊、不安、焦燥、うつ、アパシー(無気力)、暴言、暴力、不穏、拒絶、性的逸脱行為などを説明していきたいと思います(1〜4は前号参照)。

(5)不安・焦燥

 「不安・焦燥」は、中核症状である見当識障害、記憶障害、失認・失行・失語、実行機能障害に施設入所や入院などの環境の変化や叱責などのストレスが加わって起こります。やっていることに確信が持てないという不安、同じ間違いをくりかえして注意される、元の自分を取り戻したいという焦りが生じ、暴言や暴力などの介護への抵抗や徘徊に結びつくこともあります。

  「不安」は、記憶障害や見当識障害などにより的確な状況判断ができないために起きややすくアルツハイマー型認知症や血管性認知症で高頻度に見られます。一人になるのを極端に怖がったり、介護者につきまとったり、心配事を繰り返し質問して介護者を困惑させることがあります。

 「焦燥」は、焦燥性興奮と呼ばれ、場にそぐわない発言や行動などのうち意識障害に起因しないものを言います。不平や不満を言う、大声をあげる、無視する、室内をうろつくなどの言動で、ときには暴力的になることもあります。中等度以上のアルツハイマー型認知症に多くみられます。

(6) う つ

  「うつ」は、気分の落ち込みと興味や喜びの喪失があり、食欲の減退、睡眠障害、自律神経症状、気分の減退、注意力及び思考力の低下、罪業感、自殺企図などを伴います。

  うつは認知症と間違われることが多く、認知症様症状を示す場合に「うつ病性仮性認知症」とよばれます。アルツハイマー型認知症では、うつ病10〜20%にみとめられ、抑うつ気分は、約半数にみとめられます。レビー小体型認知症ではうつから始まることが多いと言われています。記憶力の低下を自覚したり、家人に指摘されたり、非難されて落ち込む原因となります。配偶者の死など喪失体験が誘因となることもあります。「うつ病性仮性認知症」と「認知症」の鑑別点を表1に示します。

(7)アパシー(無気力)

  「アパシー(無気力)」は、うつと誤診されることが多く、長年の趣味、家事、身の回りのことなど日常の活動に興味を示さなくなり、意欲が喪失し関りを避け、発動性が低下します。うつ病とアパシーの鑑別点を表2に示します。

(8)暴言・暴力

 「暴言」は、施設に入所している認知症患者の約20%、「暴力」は、認知症患者の40%に認められると言われております。対人関係の不得意な男性患者に多く、性格変化を伴う前頭側頭型認知症に多くみられます。アルツハイマー型認知症では初期から中期にかけてみられ、塩酸ドネペジル(アリセプト)の副作用としてみられることもあります。 幻覚、妄想、誤認介護者の態度(失敗の指摘、叱責、無視など)や破局反応(突然の怒りの爆発)が関与しています。

(9)不穏・興奮

 「不穏」は、穏やかでない状態で、落ち着きがないことをいいます。怒りの表情や態度、抵抗の有無、感情の身振りで評価します。

 「興奮」は、気持ちの高ぶりを抑えられないことを言い、感情を制御できないために激しい行動をとり、焦燥、攻撃性、せん妄などに伴います。

(10) 拒 絶

 「拒絶」は、介護者に非協力的な態度や行動を示して拒否することで、血管性認知症や前頭側頭型認知症では早期から、アルツハイマー型認知症では中期以降にみられます。服薬、更衣、入浴などの拒否により介護困難となり、暴力行為に発展することがあります。

(11)性的逸脱行為

 露出する、触る、抱きつく、性的な言葉を発するなど、問題になる行動に対しては毅然とした態度で臨むようにすることが基本となります。 

 以上でBPSDの説明を終わります。


医療法人 樹恵会 石田病院
院長 石田 康雄

昭和59年 埼玉医科大学卒
平成元年 埼玉医科大学大学院卒 学位取得
平成2年 飯能市立病院 副院長
平成3年10月 石田内科医院 副院長
平成11年1月 医療法人樹恵会 石田内科クリニック 院長

■専門医など
日本内科学会認定医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本東洋医学会漢方専門医、日本人間ドック健診専門医、日医認定産業医、日医かかりつけ医制度研修終了、日本温泉療法医

■認知症関連
平成27年 認知症サポート医
平成30年 認知症初期支援チーム
令和元年 日本認知症予防学会専門医