新たに設立された小規模保育施設かぽのとは
星の子保育園の閉園とその施設を利用して、保育枠の確保を目的に新たな保育所が開園した。
インタビュー:中標津こどもクリニック院長/医療法人社団なかよし理事長
栗山 智之(くりやま ともゆき)
こども園 かぽの 園長 高松 絵里子(たかまつ えりこ)
こども園 かぽの ファミリー・サポートセンターコーディネーター 寺沢 春香(てらさわ はるか)
かぽのを設立された経緯を教えてください
栗山 子ども子育て支援新制度が始まった平成27年、中標津町においても地域子育て支援事業として、かねてからお母さんたちのニーズの高かった病気の子どもたちを預かる病児保育事業、一時的に子どもを預かる一時預かり保育事業、保育を希望する方と保育を提供する方が会員組織を作り地域の方の相互援助活動による子育て支援事業であるファミリー・サポートに取り組むことが決まりました。こどもクリニックにおいても町から委託されたこともあり、保育士を確保して病児保育という新たな保育分野に取り組んできました。
令和4年度から一時預かり保育事業・ファミリー・サポート事業をこれまで実施してきたNPO法人が町の委託を受けないこととなり、子どもに関わる仕事柄、保護者から継続を心配する声が聞かれるようになりました。
同時に、事業を実際に運営してきたスタッフからも、今後の事業の継続について相談されてきた経緯があり、その熱意を受けとめ、町の将来を担う子どもたちのために必要なことであるならば応援したいと考え、病児保育同様にこどもクリニックにおいて保育事業を実施することの協議をしてきました。
そのような中で、星の子保育園さんが令和3年度をもって閉園することとなり、星の子保育園さんを利用する保護者やこれから保育園に入園させたいと考えてきた保護者の方から診察中に相談されることも多くなってきました。保育枠について町に確認したところ、3歳未満児の保育枠は待機も出ている上、星の子保育園さんが閉園することによる保育枠の確保が必要であるとのことでした。
同時に3歳未満児の新たな保育所を、自ら立ち上げ取り組みたいと希望している保育士たちがいるとの情報もあり、やりたいと考えているスタッフがいるならばその熱意を尊重していきたいと考えました。有志の気持ちをひとつにまとめ、星の子保育園さんの施設を利用し、3歳未満児の小規模保育所並びに一時預かり保育事業、ファミリー・サポート事業を実施したい旨の計画書を町に提出しました。
時間のない中ではありましたが、こども園かぽのとして、小規模保育事業、一時預かり保育事業、ファミリー・サポート事業を行うことになりました。
園長先生にはどのような流れで声がかかったのでしょうか
高松 みなさんの熱意を感じ取って栗山先生が新たに事業を始めようと考えていましたが、一時預かり事業や小規模保育を自分たちでやりたいという意志のある方はいらっしゃっても、短期間に立ち上げるには運営や経営、制度を考えるとなかなか難しく、私に園長として携わってくれないだろうかと声がかかりました。
町の子育て支援に長く関わらせていただいたこともあり、町になにか恩返しできるとしたらやはり子育ての分野なのかなと思いましたし、ちょうど退職のタイミングでもあったので決心をしました。
小規模保育所とはどのような施設になるのでしょうか
高松 星の子保育園さんのあった場所で始めた事業ではありますが、星の子保育園さんとは制度が違います。小規模保育園の定員は6ヶ月~3歳未満の19人です。星の子保育園さんでは園の判断で入園児童を決めることができましたが、かぽのは町が入園するお子さまを決めます。私たちが子どもを選んで入園させることはできません。
小規模保育は、厚生労働省が子育てしている方にも働いてもらうことができるよう平成27年にできた家庭的保育事業に位置付けられています。少人数を対象に0~3歳未満のお子さまを家庭的な雰囲気で保育を行い、3歳以上を対象にした施設につないでいく役割を持っています。
中標津町には3歳未満児の枠が足りていませんでした。星の子保育園さんに通っていた満3歳以上のお子さまは他の保育園や幼稚園に通うことも可能でしたが、0~3歳未満のお子さまは行き先がなくなってしまいます。その保育枠を確保することが必要だということになりました。4月からの受け入れに間に合わせることができるのか協議を続け、時間の余裕がない中、多くの方の協力もあり町の認可をいただくことができました。
一時預かり保育とファミリー・サポートも併設しているそうですが
高松 保育所は保護者の就労証明がなければ入ることができません。一時預かりにはそのような縛りはなくて、突然の用事など理由を問わずお預かりすることができるシステムになっています。この園では一時預かりの定員は1日10人で、これまで一時預かりをおこなっていたNPO法人で積み上げてきた基盤ができていたのもあり、平均で1日5人ほどの方が利用されています。
ファミリー・サポート事業は、地域の相互援助活動といわれていて、保育を利用したい方や保育を提供したい方双方の方々に会員さんになって頂き、会員組織をつくります。その間にコーディネーターが入り、利用したい方と保育を提供したい方とのマッチングをおこない、保育する事業です。
提供会員は保育士の資格がない一般の方でも研修を受ければ誰でも会員になることができます。子どもを預かって保育したいという方は、24時間の研修を経て保育を提供する提供会員になります。保育を利用したい子育て中の方がファミリー・サポートに登録し、その会員同士をコーディネーターが結びつけるシステムです。
都市部などでは提供会員宅で預かりをするのが一般的ですが、中標津町では提供会員さんのお宅で子どもを見てもらうことにすごく抵抗がある方がまだ多いので、この園でお預かりできるようにしています。
寺沢 提供会員は現在50名ほどで、平成27年からずっと継続で保育を提供していただいている方もいらっしゃいます。現在はコロナ禍ということもあり提供会員の人数を制限してきましたが、また少しずつ増えており、様々な年代の方に登録いただき、男性の方も数名います。
一時預かり保育は6ヶ月のお子さまから利用可能ですが、ファミリー・サポートは産まれてすぐの赤ちゃんから利用できます。マンツーマンでの預かりなので安心してご利用いただいています。また、小学生・幼稚園児のお子さまは習い事の送迎サポートを通年で利用される方が増えています。
「こども園」とつけた理由と「かぽの」という名前の由来は
高松 園のネーミングについては悩みましたが、かぽのでは小規模保育の他にもファミリー・サポートや一時預かりなどいろいろなかたちで保育をおこないます。小規模保育事業だけでしたら「保育所かぽの」という名前をつけることもできましたが、他の事業も並行しておこなうため「こども園」という冠をつけ今の名前になりました。認定こども園と間違われるのではないかという声もありましたが、お子さまが集まるところということで「こども園」を使用しています。
「かぽの」はハワイ語で『ありのまま』『正直』という意味を持つ言葉で、私たち自身が0~2歳のお子さまを預かるにあたって、大事にすべきことは家庭にいる時のような雰囲気です。子どもそれぞれの個性を尊重してあげられるような新たな保育づくりをしていきたいという思いが込められています。
今後どのような施設にしていきたいですか
高松 この保育事業を大切に考えている若い方たちがこの事業を継続できるように、始めるにあたって少しでも力になればという思いで携わりました。継続していくために、しっかり基盤を整備していくのが私の役割なのかなと思っています。
ただ、今後保育士が不足した場合に、いろいろ形態を変えながらやっていかざるを得ないかもしれません。それでもやりたいという意志があるかないかでは全然違いますし、やりたいという方々の意志に栗山先生同様、私も賛同したわけですから、その思いをつないでいくためにこの事業をふわふわしたものではなく、確立させていく必要があると思っています。
退職後に新たな事業に携わるということについては、引き時も意識しなければならないですし、とても勇気のいることではありましたが、世代交代をしながら保育のあり方を考えていけるところまで持っていかないと取り組んだ意味がないと思っています。
今のメンバーが中心となり繋いでいってくれると思います。
実際に小規模保育をやってみて、難しさも感じています。3歳未満の保育なので、3歳になった時点で幼稚園に行く子がいるので入れ替わりも激しいですし、そもそも家庭的な保育のあり方とは何かと、常に模索しています。
小規模保育園は19人なので、大きな集団ではありませんが家庭というには大きいため、家庭的保育事業をしていくために19人はとても難しい人数だと思っていますが、なるべく子ども一人ひとりのありのままを大切に、家庭にいるような空間での保育にこだわっていきたいと考えています。かぽのだからできる保育を、みんなで作り上げていきたいですね。
(取材/2022年7月25日)