医療法人 樹恵会 石田病院
院長 石田 康雄
はじめに
『人生100年時代』とは、人生が100歳まで続くということがごく当然となる時代のことです。
2016年に出版された著書「LIFE SHIFT─100年時代の人生戦略※」が世界中で話題となり、日本でも広く知られるようになりいろいろな方面でとりあげられるようになりました。
100年という長い時間を過ごすため、これまでの人生設計が将来通用しなくなると述べています。例えば「健康」・ 「経済」・「働き方」・「セカンドライフ」の問題など多岐にわたって指摘されております。
2018年の日本人の「平均寿命」は男性81・25歳、女性87・32歳(図1)で、今後も 伸びていくことが予想されています。驚くことに2007年生まれの子供の半数が107歳まで生きるとする研究や1977年以降に生まれた女性の2人に1人は100歳を迎えることができるという報告もあります。一方で2040年には全世帯の4割強が高齢世帯(65歳以上)が単身世帯になるというデータもあります。また介護を受けたり、 寝たきりになったりせずに生活できる「健康寿命」は、2016年は、男性 72.14歳、女性74.79歳(図2)でした。意外にも「健康寿命」が短く、「健康寿命」がどれだけ「平均寿命」に近づけられかも大きな課題となってい ます。いかに長く健康でいることができるかが豊かで有意義な人生をおくる大きなポイントになると思います。
ここでは健康問題、特に医療と介護が大きくかかわる認知症について述べていきたいと思います。
加齢と切り離すことができないのが認知症です。認知症の最大の原因が加齢であり、そのため誰にでも起こりうる身近な病気なのです。「自分だけは」とか「自分の親だけは」というような他人ごとではありません。2016年の朝日新聞によると65歳以上の高齢者のうち認知症の人は15%で、2012年時点で 462万人にのぼるとされております(図3)。また90歳以上の人の約半数が認知症といわれております。2025年には約700万人以上となると予想され、高齢者の約20%(5人に1人・図4)が認知症を有する時代になるとされております。
認知症の増加が社会的な注目を集める中、認知症になっても住み慣れた地域で、いつまでも安心して自分らしい暮らしが継続できるように、厚生労働省では2015年「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」を策定し、それを包含する形で、今まさに全国で地域包括ケアシステム(「住まい」「医療」「介護」「予防」「生活支援」 が切れ目なく一体的に提供される体制・図5)の構築が進められています。さらに政府は2019年の今年、認知症対策「共生と予防」を柱に新大綱を決定しました。
なかなか新しく有効な抗認知症薬が開発されない状況や、最近は認知症が発症する前に予防するワクチン開発に研究が向かっており、今後急増する団塊の世代や団塊二世(1971〜1974年生まれ)の人たちがワクチンの恩恵を受けられずに認知症になる可能性があり、認知症の人たちと共に生きる環境の整備や可能な限り予防する取り組みを進めていくことが最重要となったのです。
そのためにはまず認知症とはどういう状態なのかを多くの人たちに理解してもらうことが重要だと思います。他の疾患も同様ですが、早期診断、早期対応が最も重要です。認知症になることが、決して恥ずかしい特別なことではないし、偏見や差別を受けるものではなく、高血圧症や、糖尿病と同じ一般的な病気であると認識してほしいと思います。運転免許証の更新の問題もあります。
今回の連載にあたっては、認知症の基礎的なことと予防の方法を理解していただいて、できるだけ多くの人が 実践していただけるように説明していきたいと思っています。そして来るべき『人生100年時代』に『認知症の人と共に生きる時代』あるいは『認知症でも住み慣れた地域で安心して暮らせる時代』が実現できればいいかなと思います。
認知症とは
認知症とは、「脳の変性疾患や脳血管障害などによって、記憶や思考などの認知機能の低下が起こり、6ヶ月以上にわたって、日常生活や社会生活に支障をきたしている状態」と定義されています。よく言われることですが、認知症は病名ではなく、状態(症状)を表すものです。「認知機能低下」とは、理解力や判断力、記憶力や言語理解力など認知機能に係る能力が低下している状態のことを指します。認知機能が低下することで日常生活に様々な影響を及ぼしている状態が6ヶ月以上継続している状態を「認知症」といいます。
認知症と正常のいずれでもなく、以前と比較して本人、情報提供者(家族など)、熟練した臨床医のいずれかによって指摘されうる認知機能低下があるが、日常生活はほぼ自立している状態を軽度認知障害(MCI)と呼び、 早期診断・早期対応という意味(少しでも進行を遅らせる、あるいは社会に受け入れられ安心して暮らせる)で 近年注目されております。 最近では、さらにもっと前、つまり認知症が発症する前(プレクリニカル認知症)に診断してワクチンを打って予防する方法が考えられています。
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次回は認知症の原因疾患や症状などについて説明したいと思います。
※LIFE SHIFT─ 100年時代の人生戦略
著 /リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット
翻 訳/池村 千秋
出 版/東洋経済新報社
出版日/2016年11月3日
医療法人 樹恵会 石田病院
院長 石田 康雄
昭和59年 埼玉医科大学卒
平成元年 埼玉医科大学大学院卒 学位取得
平成2年 飯能市立病院 副院長
平成3年10月 石田内科医院 副院長
平成11年1月 医療法人樹恵会 石田内科クリニック 院長
■専門医など
日本内科学会認定医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本東洋医学会漢方専門医、日本人間ドック健診専門医、日医認定産業医、日医かかりつけ医制度研修終了、日本温泉療法医
■認知症関連
平成27年 認知症サポート医
平成30年 認知症初期支援チーム
令和元年 日本認知症予防学会専門医