JA道東あさひ新組合長就任コロナ禍での就任。強い農業と強いJAであるための思い
新組合長が考える農業の未来、そしてJAが抱える問題。これからの地域の基幹産業を支える存在としてどのようにあるべきかを聞いた
インタビュー:浦山 宏一(うらやま こういち)
道東あさひ農業協同組合 代表理事組合長
これまでの経歴と就任の経緯をお聞かせください
平成21年に4JA(上春別、西春別、別海、根室)の広域合併によりJA道東あさひは発足したのですが、私はその1年後の平成22年から当組合の理事に就任しました。また平成25年から28年までは代表理事専務を務め、その後に代表理事は一端退きましたが、当組合での理事として職務は継続しておりました。
今年6月、JA道東あさひの発足以来、長きに亘り代表理事組合長を務められてきた原井松純さんが退任されることになり、今年6月7日に開催された第13回通常総会において改めて理事として選任され、その後の理事会において私が代表理事組合長として就任することになりました。
非常に大変な時期での就任になりました
生産抑制
昨年度は生乳の生産余剰が危惧される状況となり、期中から生産を抑えてもらいたいという指示はありましたが、それはあくまでも努力目標であって義務ではありませんでした。学校給食などへの供給が止まる時期には、生乳生産に対して受け入れる側でその処理能力を上回る可能性があるという見通しから、可能な限り生産を抑えて欲しいとお願いしてきた経過にあります。
しかし本年度は組合員皆さんの令和3年度の実績に対して、2.3%の一律減産をお願いしなければならない状況となりました。厳密には去年の生産目標数量と、年度末の生産見込みを予測した中で生産抑制をお願いしています。
現在、生産資材をはじめ、ありとあらゆる価格が高騰している中で、組合員の皆さんには2.3%の生乳生産量の減産を求めなければならず、量目で稼ぐことができないという状況です。
「JA道東あさひ」が行う支援策
このような環境の中で、経済的側面、経営支援的側面など、今年度私どものJAで取り組む経済支援対策として、総額で2億2、000万円の組合員への経済支援を行うことにしています。私どものJAでは生乳を出荷している生産農家は約470戸おりますが、生産規模の違いや利用量に応じて支援対策を行う仕組みとしています。
平行して取り組まなければならないことは、今一度組合員の皆さんに経営収支を精査して頂くことです。無駄や無理がないか、例えば飼料給餌一つをとっても適正な状態なのか、土壌分析を行い、その分析結果に基づいた施肥によって減肥も可能となるかなど、誰もがこれまで行ってきたことではあるのですが、このように基本的なことについても精査してもらう意識醸成が必要だと感じています。
組合員の皆さんには経営収支の管理について今一度内容の精査、確認を願い、経済性や作業効率、結果として利益率がどう変わるかなど、JAとしてはこれら経営分析を行うサポートにも取り組んで行かなければなりません。
酪農を取り巻く環境により経済情勢はこれからも変わっていくでしょうから、今は辛抱の時だと考えていますが、今後改めて生産向上に取り組むために経営の足腰の強さというものは保って行かなければなりません。今はJAからこのようなことをメッセージとして強く組合員の皆さんに伝えて行くことが大事なことだと思います。
営農の継続を支える
危惧しているのは、若い経営者や設備投資を終えたばかりの方々など、生産規模、生産向上を目指すため経営投資を行い、今後利益の幅を広めつつ将来的な償還に充てて行くことを想定する経営者にとって、現在の経済情勢はやはり厳しい実態があります。このような環境下にあっても大事なことは、経営者の皆さんに高いモチベーションを維持してもらうことだと考えています。そのためにもJAによる経営支援の方策が重要になると考えています。
例えば、これまである程度の年齢までご苦労されながらも経営されてきたご夫婦で、あと5年ぐらいはがんばろうと考えていた人でも「このような状況なら今の段階で酪農経営に終止符を打とうかな」という考えを持つ人が出てくることも想定しなければなりません。
JAの事業運営を進めていく中で、全ての組合員の皆さんがこれまで同様に経営継続ができるかというと、時として必ず大きな経済情勢の変化は起こり得ますので、やはり思い描いていたような経営にはならない実態は現実として発生してきます。その際に発生する様々な負担をいかに最小限に抑えることができるか、いかに経営を継続して頂くか、持続的に地域が再生産に向かって行けるのかを考えサポートに努めて行くことがJAの使命であるのだろうなと私は思っています。あくまで主役は組合員の皆さんですから。
組合が抱える課題や問題をどのように解決していきたいと考えられていますか
広域合併による組合員との距離感
4JAの広域合併を経て13年が経過しましたが、組合員皆さんのそれぞれの心情の中では、今でも旧JAは自分たちのJAという複雑な気持ちがまだ残っているのではないかと思っています。私どものJA道東あさひは1本所、4支所を設けており、本所は別海支所を兼ねていて、上春別支所、西春別支所、根室支所と、旧JAの事務所を現在は支所として旧JAのエリアを管轄できるよう機能を持たせています。基本的に組合員への大概の対応についてはそれぞれの支所で完結できるように内規や機構、体制は整えているのですが、本所については他の支所と一部異なる状況もあります。
合併以前のJAであれば、組合員、組合員ご家族、職員が、お互いをあたり前に知り得ていたこともあって、とても接点が近い関係性であったと思います。このことからも組合員の皆さんもJA事務所に足を運ぶことに負担や不安など感じることは無かったと思いますが、今現在は本所と支所は距離的にも離れていますし、支所が管轄する組合員の皆さんが本所を訪問しても職員も組合員もお互いに顔もわからないという状況は当然あります。他の支所間についても同様のことが言えます。このことによって業務に支障が出ることはありませんが、旧JAとは異なりローカルな範囲での事業運営にはなりませんので、そのような面でJAと組合員との関わり方は少し変わって来たと言えます。
合併前のJAは各々に特色があったでしょうし、私の出身である旧JA上春別では組合員懇談会やJAの通常総会などは8割、9割の出席率でした。合併後も地区別懇談会などは各支所、地区毎で毎年実施しているのですが、開催時期もあるのでしょうが地域によっては出席率が2割ぐらいまで落ちてしまうこともあります。これは溝ということではなく、ある意味合併を経てJAとの距離感ができてしまっているのではないかと考えていて、広域合併を経て間もないJAが経験する共通の課題ではないかと考えています。
合併以降、本・支所間での職員の人事異動も活発に行っていますし、現在では合併を経験した職員も全体の半数程度になっています。まだ一定程度の時間は必要だとは思っているのですが、これから先は組合員、職員ともに旧JAという思考は時間の経過とともに無くなると思いますし、組合員、役職員ともに、あたりまえに私どものJA管轄の広域一円で広く関わりが持てるような関係性が自ずと構築されて行くのだと思います。
昨年、一昨年とコロナウイルスの感染拡大の影響に配慮して、例年実施してきた組合員との懇談の場となる地区懇別談会などは止む無く中止してきた経過もあって、今年度は8月~10月の期間の中で役員による全戸訪問を実施することにしています。現在またコロナ感染が広がりを見せてきておりますが、JAが積極的な訪問活動をすることで、万が一組合員の皆さんが感染してしまうと酪農経営自体に大きな影響が出てしまうので、万全の対策をとりながら全戸訪問は実施する方針としています。
今の段階でコロナ禍が完全に終息するということはなかなか想定できないので、今後はウィズコロナの環境の中で様々な事業活動をどのように取り組むべきかということを考えなければなりません。世界情勢、経済環境など様々な背景から非常に厳しい時代に代表理事組合長という責任ある役を仰せつかったなと感じていますが、どのような状況下にあろうとも、JA組織、組合員、役職員はもちろんのこと、地域住民の方々とも協力しながらこの難局を乗りきって行かなければならないと考えています。
人材確保
現在は人材確保も重要な課題と捉えています。現在私どものJAには約350名の従業員がいて、この内正職員が260名程度です。これだけ大勢いますので個々の人材育成は重要なポイントになります。職員には高いモチベーションを持ち働いてもらえる職場環境が必要だと考えていますので人材育成の手法がとても重要になります。JA職員としての業務、或いは自身のキャリアプランなど、それぞれが目的意識を持ち、指示待ちではなく自ら考え自ら行動できる職員を育てることが理想になります。
しかし、現在多くの組織から同様の話を聞くのですが、新卒採用後の離職も非常に多い内容なのですが、私どものJAでも入組して数ヶ月で辞めてしまう職員も実際にいます。全てが時代性、環境性などと言うつもりはありません。就職活動を行う学生さんや若い年齢層の人たちが望む制度、或いは高いモチベーションを持ち働いてもらえる職場環境とはどのようなものか改めて理解に努めることが必要なのだと思います。
今の若い世代の人たちの考えや想いを傾聴したうえで、これからの時代を担うJA職員を育てるためにはどのような環境づくりが必要なのか、制度の見直しなども含めて誰もが打ち解けやすい職場環境を意識していかなければならないのかもしれません。
現在はコロナ禍にあることも起因して、以前は対面で行っていた新卒採用者の面接などはWEB面接が主になっています。学生さんにとっては出向く負担も少ないので、新卒採用の応募など、私どものJAでは毎年多くのエントリーを頂いていますが、なかなか雇用までに結びつかないのが実態です。コロナ禍にあり難しいことではありますが、職場体験なり、インターンシップの受入などにもう少し力を入れていきたいと考えています。実際にJAが行う業務を体験して興味を持ってもらえれば最終的に雇用に繋がるケースもあるのかもしれません。また現在はインフラ整備も進みインターネット社会なので、ホームページの在り方やSNSを活用しての情報提供などを重視したいと考えています。
私どものJA道東あさひが所在する地域の紹介や、JAの様々な事業についても目に留めてもらえることを意識して紹介するなど、上手にPRができればと思っています。まず皆さんにはホームページなどを見てもらい興味を抱いていただけるような、誰もがわかりやすい表現とメッセージが求められるのだと思います。広い視点を持ち、対外的にもっとPRをしながら、幅広く人材を募らなければなりません。時代背景もあり雇用は以前より難しさを感じていますので、厳しいながらも次世代を担っていく人材を確保し、育成して行かなければなりません。組織を動かしていくのは人です。人材確保、育成の内容によって結果が左右されてしまうので、環境の変化を真摯に捉え、組織として改善に繋げるべき点を考え、人材をどう確保し育てて行くかなど、これらを意識して取り組むことにしています。
JAは地域にとってどのような存在であると考えますか
JAというのは時にはインフラでもあると考えています。
強いJAと言うと誤解されかねませんが、JAは協同組合ですが、基本的にある程度の事業利益を確保して自己資本を充実するための事業運営をして行かなければなりません。
JAの財務状況を充実させることで、大きな環境変化、経済情勢の変化に対しても必要に応じて、ケースバイケースで組合員への経営支援対応が柔軟に行えるのです。そのためにも十分な体力を養う必要があります。例えば生産に伴う設備や機械をある程度JAが負担や整備を行って、組合員の皆さんの労働面や費用面の負担を軽減しながら、酪農であれば搾乳にある程度特化してもらえるようにする、そのような支援ができれば更に生産に繋がる環境づくりに取り組むことも可能となります。
これは極端な話ですが、JAに十分な財務上の体力があれば、仮になんらかの事情で酪農経営を諦めざるを得ない農場があったとして、土地、施設を含め全てJAが一時取得し、酪農経営を継承したい就農希望者に継承の目処がつくまでの間、その農場をリースするということもできると思います。そうすることで施設や農地も有効利用できますし、地域としての生産力も大きく落とさずにすむことになります。
このように個人ではなかなか対応できない部分をJAが担い、就農人数や生産力を維持していくことに寄与することも必要ではないかと考えています。財源を地域に還元しながら、地域全体の酪農や酪農関連産業も含め、地域産業の発展のためにもJAが中心となり、連携を図っていくことなどは大切なことだと思います。
最後にメッセージがあればお願いします
牛乳を飲んで、加工品を食べて欲しいと思います。
日本人は食文化が米なので、欧米並みの乳製品の消費量に結びつけていくということはなかなか難しいと思います。そんな中でも今は乳製品がとても多様化しています。おやつ感覚で食べることができるチーズなどの乳製品をはじめ、各メーカーの商品はとても充実しています。
贈答品などは海産物なども多いのでしょうが、多くの皆さんに乳製品をもっと利用して頂ければと思います。私たちはこの酪農産業がこの地域経済を支えているという思いと、その役割を担っているという自負がありますし、他の産業、業種に関しても多くの関わりを持っていると思っています。別海町や中標津町には十勝並みに大手乳業3社があります。このような地域だからこそ日常の食卓にも乳製品をもっと取り入れ、今までコップ1杯の牛乳を飲んでいたところをプラス1杯でも良いので飲んで頂きたいですね。その1杯を増やすことが地域を豊かにするという思いを持って飲んで頂ければ大変嬉しく思います。
(取材/2022年7月26日)