老舗和菓子屋がプロデュースする
本格甘味茶屋が中標津町に
インタビュー:長谷川 淳(はせがわ じゅん)
株式会社 標津羊羹本舗 代表取締役社長
なぜ「和」をコンセプトとしたお店を出そうと思ったのでしょうか
中標津町やこの地域に、和菓子やお茶の文化を通し、楽しんでいただける場を提供するお店があるべきだと考えていました。またそれを提供するのはどこなのかと考えた時、この地域で長く和菓子屋としてやらせてもらってきたうちの会社の役割だと感じていました。構想は随分前からありましたが、具体的な時期などの計画は明確にはありませんでした。しかし経営していた洋菓子店 花心亭を閉店することとなり、そのタイミングで構想をかたちにすることにして、今年の7月29日にグランドオープンしました。
お茶と和菓子は切っても切れない関係で、お互いに引き立て合います。和菓子を提供するということはお茶も一緒に提供することになります。それにはこの場所を憩いの場として提供し、飲んで食べてもらうことが必要なんだろうと思っていました。
もともと持っていた構想では、うちは和菓子屋ということもあり方向性は「和」で考えていましたが、今回洋菓子屋だった花心亭の建物を引き続き利用することになったので、外観全体が洋の雰囲気の建物に和のテイストを入れて「和洋折衷」をコンセプトに店舗デザインを行いました。
ソフト面では「地域の方々においしいあんとお茶を届けたい」という思いで『ユーアンチャ』という店名にし、「和」をこの地域の人たちに感じていただくのがコンセプトなので、あえてコーヒーはメニューに入れない決断をしました。
メニュー構成はどのように決めましたか
試行錯誤を繰り返し、最終的なかたちに決まるまでには随分時間がかかりました。とりあえず思いついたものを書き出して、そこからいかに絞るかという作業を繰り返しました。実際採用しなかったメニューもたくさんあります。
メニューを決め、そのメニューを組み立てていく上でアイスクリームや牛乳が必要になったのですが、同じ使うのであれば地元の良質なものを扱おうという思いが根底にありました。「良質なものであるならば」という条件が自分の中にはあったので、実際にアイスクリームや牛乳を試作で使用した時に納得のいくものができたので採用しました。
普段から思ってることなのですが、ある程度のレベルではあっても良質ではないのに、地元の物だからという理由だけで最優先して使うことは、ものづくりをする上においては僕は違うと思っています。地元のものを消費するためだけならいいと思いますが、食べ物や飲み物を提供するということは違うと思っていますし、やはり食べ物はおいしいものを提供することが最優先にあるべきだと思います。
地元の良質なものは、今後もメニューによっては取り入れていきたいと考えています。
お茶も沢山の産地の銘柄を試飲してこだわりをもって選んでいます。本当においしいお茶をこの地域で飲んだことがある人は多くはないと思うので、できる限り日本茶のおいしいものを提供できる場をつくりたいという思いで、自分なりに試飲した中で甘味と合うものを探して選びました。
あまり多くの種類のお茶を置くとお客さまが迷うと思うので、香りがとても良いものと、味が深いものの2種類にしようと決め、それぞれ絞った中で、煎茶は2種とも埼玉県狭山産、抹茶は京都宇治産を現在は使用しています。お茶の淹れ方は、日本茶アンバサダー協会のジュニアアンバサダー認定講習を妻と娘と3人で受けて淹れ方を1から学びました。
抹茶に関しては、お店で点てて提供しています。ラテについても、抹茶の風味を最大限に引き出したものを飲んでもらいたいので、点てたての抹茶をミルクと合わせてラテにしています。
お茶の香りと味を最大限に引き出すため、抹茶をはじめお茶は全て注文が入ってから淹れる
プレオープンからグランドオープンまで2ヶ月の間がありました
6月からのプレオープン中に来てくれたお客さまには、本当に感謝をしています。ある意味、試行錯誤している商品を提供させていただきましたし、商品もサービスもグランドオープンに向けて失礼のないようにと努め、随分とレベルを高めていくことができた貴重な時間でした。
グランドオープンの後も、お客さまのニーズがまだ掴みきれていません。想定外のことや予定通りにはいかないことがまだまだあると感じています。
物販は長年手がけてきているので、お客さまが欲しいと思うものやニーズはわかっていて、大体万全な状態で対応できますが、飲食を提供する経験が浅く、なかなか読み通りにいかないので、あたふたすることが多いです。
ただ、これまで和菓子屋として商品を提供してきたことを武器としてメニューを作り上げているので、役に立っていると感じています。
コロナ禍の中でのオープンになりました
第6波の収束が見えていて、ある程度世の中が普通に戻りかけている状態で7月末のオープンを迎えられると思っていたので、想定していなかった第7波で読みが外れてしまいました。
グランドオープンしてまだ2日(取材時)なので、影響があるかないかはわかりませんが、あるとすればこれからだと思います。
メニュー構成はお茶とあんこがメインで年配の方々にも楽しんでらえるようになっていますが、年配の方は重症化しやすいと言われているので、外出を控えている方も多いと思います。そういう部分でいくと影響がある可能性は十分考えられます。
感染予防として、とにかく換気には気をつけています。窓も開けられるようにはしていますが、換気システム付きのエアコンを設置しているので基本的には窓を開けなくても換気ができています。コロナウイルス対応として設置しましたが、仮に今後違うウイルスが出てきたとしても対応できるので、設置できてよかったと思っています。
テーブルも当初の設計では9つあったところを7つに減らしてできるだけ間を置けるような配置にして、席数を減らしました。
標津羊羹本舗の商品を購入できる店内の一角に設置されたスペース
「和」を意識し、全体的に落ち着いた雰囲気の店内
物価高騰の影響はありますか
もちろん物価高騰の影響はあります。燃料、ガスと電気の価格が上がっていますし、原材料も概ね上がってきています。お茶は今回初めて購入しているので、比較できませんが、あんの原料は砂糖と豆がほとんどで、特に砂糖に関しては大幅に上がっています。小豆は相場で動くので、今の物価高騰と連動して大幅に価格が上がることはありません。輸送コストが上がることで、その分乗っかってくるかなというレベルなので、まだ大きな影響を受けていません。
ただ、販売の方は包装資材ひとつとっても毎日のようにメーカーから値上がりの通達が来ているので、かなり影響を受けている状況です。可能な限り販売価格を変更せずに我慢しようと考えています。値上げすることでお客さまが来なくなるからという理由ではなく、企業として自社努力ができるうちはするべきだと思っているので、提供する側としてぎりぎりまでは我慢をします。それでもある程度積み重なったところで企業として成り立たないところまでいくようであれば、値上げせざるを得ないとは思っています。
町の中心地での店舗についてどのように感じていらっしゃいますか
ずっと考えていた構想をこの場所で営業することで、地域、特に中心市街地の活性化に繋がればと思っています。大きな町の中心市街地がどんどん寂れていく中で、文化会館や商工会もあり、まだまだ町の中心になり得る場所だと思うので、活性化への一助を担うことができればという思いがあります。僕はこの店舗のある辺りで生まれ育ちました。カトリック幼稚園に通い、小学校6年生まで生活していた場所なので、個人的な思い入れもあります。そういう意味でもいい場所かなと思っていますし、ここでお店をできることがうれしいです。
バイパス沿いは時代の流れの中で発展していますが、どこにでもある街並みになっています。地域の住民にとって便利なものが揃うということは全然マイナスではなく、町にとってはいいことですし、町の魅力のひとつです。でも北見や釧路などある程度の規模の町に行くと、同じような光景が広がっているので街並みとしては魅力がありません。違う意味で中標津としての色を出せる、魅力的な街が作れる可能性が中心市街地にはあると思います。
バイパス沿いは発展していけばいいし、それによってこの商圏人口約7〜8万人の人が集まってくるわけです。
それとは別に中心市街地に魅力ある店が集まり活性化することができれば、バイパス沿いに集まってきた地域の人たちを、こっちに引っ張れるような大きな魅力になるのかなと思っています。
牛乳の消費応援を目的とした商品を開発されました
地元の牛乳を使用した商品を作りたいと思い牛乳寒天を作りました。名前は「牛乳寒天」ですが杏仁豆腐に近いものです。違いは一般的な杏仁豆腐の配合より牛乳の比率を高くしていて、牛乳の他にも生クリームも入れるので牛乳を使用する割合が高くなっています。杏仁で牛乳臭さはだいぶなくなっているので、食べやすくなっています。
実際商品化する際に色々な人に食べていただきましたが、牛乳が得意じゃないけど食べやすいという方は結構いらっしゃいました。杏仁豆腐には赤いクコの実が乗っていますが、牛乳寒天ではその代わりに小豆を1個乗せました。
これが売れれば牛乳の消費に少しは貢献できるでしょうし、この地域のものを使っているというストーリー性もあります。この地域の良質なものを使って作っているので、販売する意味がある商品だと思っています。
(取材/2022年8月1日)
【店舗情報】
甘味茶屋 U an cha(ユーアンチャ)
営業時間 U an cha 11時〜16時/標津羊羹本舗店舗 11時〜18時
定休日 日・月曜日(祝祭日の場合営業、翌日振替休日)
TEL 0153-72-5866
標津郡中標津町東1条南2丁目1(旧 花心亭)
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