何かをはじめるきっかけとなる場所に

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レンタルスペース開業、町に新たな文化を

インタビュー:白土 幾美(しらと いくみ)
IsLAND STUDIO


 2022年1月11日、標津町にレンタルスペースアイランドスタジオがオープンした。運営するのは、標津町出身でピアニストとして活動していた白土さん。実家の電気店「(有)標津電気商会」を改装し、新たな挑戦をスタート。
 全国を駆け回り活動してきたアーティストが思い描く、地元を舞台にした新たなストーリー。
これまでの活動や、レンタルスペース開業への思いなどを聞いた。


お店を始めるまで

 標津町出身で高校を卒業するまでは標津に住んでいました。小学1年生からエレクトーンを始め、高校まで習っていたこともあり、高校卒業後は東京にある専門学校の電子オルガン科に進学。小さな頃から母が病気がちだったので、学生時代から家事はよくしていました。進学後も母の病気がひどいときには帰省して家や家業の手伝いもしていました。
 専門学生時代にピアノに目覚め、卒業後はアメリカ留学が決まっていました。しかし母親の体調が優れず標津町に戻り、2年ほど家業の事務仕事を手伝いました。その後、留学で渡米し寮生活を送りながら学校へ通いました。英語はほとんどわかりませんでしたが、生活に困ったことはありません。
 ある時、ピアノのレッスン室で遊んでいたら先生が来て「ビッグバンド・ジャズのバンドに入らないか」と声をかけてもらいました。驚きましたが、そんなチャンスは滅多にないと思い、ありがたくお話を受けました。先生のおかげで推薦のようなかたちでバンドに入れました。アメリカでの生活は1年ほど続きましたが、母の体調が悪くなり、また標津に戻ることになりました。

ミュージシャンとして

 アメリカに戻ろうとも考えましたが、その後は東京へ行きました。アメリカよりもまずはこの国を知りたいと思いました。アルバイトしながら求人誌でピアノを弾けるところを探しました。まだ不景気な時期ではなかったので、ピアニストの募集はすぐに見つかりました。そこでさまざまな出会いがあり、人との繋がりもでき、ミュージシャンから伴奏の声がかかったり、お店のオーナーさんから仕事頂いたりとフリーのピアニストとして活動していました。ホテルやラウンジ、ライブハウスで演奏はもちろん、精神病院のロビーで演奏したこともあります。
 レッスンはしていませんでしたが、ツアーの一環として小学校でライブをした後にプロのミュージシャンからちょっと指導を受けましょうみたいな企画で吹奏楽部の子どもたちに教えたことはありました。
 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、音楽活動は自粛を余儀なくされました。演奏の契約をしていたホテルも、こんな時だからこそ音楽の力が必要だと、ミュージシャンを応援するためにじっと耐えてはくれましたが、仕事は少しづつ減りました。コロナウイルスの影響は長く続き、今後生活も厳しくなるだろう。両親は80代と高齢になってきたこともあり、これが最後というつもりで2020年7月に標津町に戻ってきました。

お店を始めるきっかけ

 標津町に戻ってからは、両親の介護に追われていました。母が鬱病を患っていたので、外に仕事に出ることもできません。それでも私がそばにいるだけで、姉や兄弟の負担も減らすことができ、親も安心してくれるかもしれないと介護が生活の中心でした。このままではいけない。夢がない、先が見えない状況に不安を感じていました。自分で仕事をしなければ生活もできません。
 子どもの頃、標津町には娯楽や文化的なものを楽しめるところがないと不満を感じ、早くこの町を出たいと思っていました。地元に楽しい場所をつくりたい。自分のやりたいことは何かと考えた時に、イベントを企画する会社をつくろうと考えました。コロナウイルスの感染拡大で、旅行や遠出などに規制がかかり、ここで楽しめるものを増やすことで町のためにもなるかなと。当初は屋外イベントを中心に考え、屋内でイベントを開催するのであれば町の公共施設を利用しようと考えていました。
 2021年2月頃に、中標津で行われた起業家セミナーに3日間参加しました。その時にレンタルスペースという構想が浮かび、3日目の帰りには保健所にレンタルスペースを作るには何が必要かを聞いていました。
   ミュージシャン時代に貸しスタジオを利用したことはありましたが、レンタルスペースは利用したことも見たこともありませんでした。音楽メインのスタジオにしてしまうと、人口規模的に経営は難しい。町民や近郊の方にも利用して欲しかったので、幅広くいろんなことに使い勝手が良いように想定し準備しました。プロジェクターを付けて、動画配信やオンライン会議などにも対応。絵画やヨガ教室、パーティーやミーティングなどなんでも使える空き箱のような施設を作ってみようと思いました。
 実家は電気屋さんをやっていたので、荷物も多く後片付けが大変でした。2021年10月文化の秋にオープンを考えていましたが、プレオープンは12月。2022年1月11日正式にオープンしました。

ここはどんな場所か

 今のところピアノやバンドの練習、展示会や美容コンテスト、展示販売会などの利用があります。ピアノ教室もやっていて現在2名にレッスンしています。大人の方で初心者でも、楽譜が読めなくても通えますかといわれたことがあります。私はそういう方に増えて欲しいのでもちろん大歓迎ですとお答えしました。歳を取っても楽しい気持ちになることは必要ですし、ボケ防止にも楽しみを作ることはすごく良いことだと思います。ここは発表できる場としても利用できるので、昔バンドやっていてもう一度始めてみようですとか、何か始める人のきっかけとなり、趣味を持つ人が増えるとうれしいです。

 オープンしてから利用者優先で、自店で主催するイベントは控えていましたが、これからは自分の好きなことをもっとたくさん取り入れていこうと考えています。まずはこの場所を知ってもらい、様々な企画を通してこんなこともできそうだなとイメージしてもらえる取り組みをしていきたいです。

 今年の11月には、はじめて私も参加する音楽イベントの開催を予定しています。

今後の活動

 小さい頃は標津町民は少し冷めている印象がありましたが、標津に戻ってきて若い世代が熱くがんばっているのにびっくりしました。地元ではありますが、戻ってきた頃は孤独にがんばるしかないと思っていましたが、賛同してくれる方、協力してくれる方がどんどん繋がっていって、今はまだ序の口だけど希望は持てると感じています。必死で町をなんとかしようという熱い思いを持っている人たちがいるので、町は昔よりも明るい感じがします。
 この場所ができたことで、子どもたちが夢を描いたり、行動が変わったり、地元でも楽しく充実して遊べるんだよっていうことが伝えられるような活動を目指していきたいです。

(取材/2022年7月28日)