災害時の使用を視野に入れたコンテナハウス利用の新しい形 ─ コンテナホテル
インタビュー:髙橋 宗靖(たかはし むねやす)
株式会社 高橋工業 代表取締役
コンテナを利用したホテルを始めようと思われた理由をお聞かせください
この周辺の地域課題として、どこの町に行っても自分のところ(各自治体)にホテルがなく、泊まるところが少ないという話を伺います。
ホテルを新しく建てるとなったとしても、需要の変動が大きいので、ピークをどう維持していけばいいのか?また観光とどうマッチングさせていくことが重要なのかとぼんやりと感じておりました。建物を建てる際に億単位の投資をするにしても、当社のような規模の会社では相当ハードルが高いですし、もしものことを考えると会社ごとダメになってしまうというハイリスクがあります。
コンテナを利用したホテルであれば、部屋数が足りなければ増やすことも可能ですし、いらなくなったら移動することもできます。また、事業投資の回収の見込みが立たなくなるようであれば、移動して再度ホテルとして機能させることも可能ですし、違う事業を展開することも可能ですので、事業投資のリスクが相当減らせると考え、コンテナを利用したホテルを運営することになりました。
今回、コロナ関連予算で事業再構築補助金を応募内容の変更が予想される前の第1回目に申請し採択を受けました。会社全体の売り上げの10%程度を新しい事業で稼ぎ出さなければいけない性質の補助金だったので、それに見合うボリュームの事業内容を作り込み、採択を受けることができました。
自社オリジナルで作っていたコンテナは改善を繰り返してきたので、事業開始当初と比べ規格などほとんど違うものになっています。
建物の仕様自体は大きく変わらなのですが、施工の手間をどう減らすか、どうすれば早くかつ安価にできるかなどを繰り返してきたので、ノウハウも溜まってきたと思います。
フロントとサウナもコンテナで設置される
なぜコンテナハウスを取り扱うようになったのでしょうか
新しい事業を始めようといろいろ模索していました。当該地域の課題である酪農家さんの問題をはじめ、様々な情報を聞いていた中で、2017年にコンテナサイズの木造住宅の取引をはじめました。しかし、実際に設置してみるとレスポンスが悪く、納品から設置までの時間もかかるので自社での製作を始めました。何もない状態から取引先をはじめ様々な企業に協力していただきながら試行錯誤し、自分たちでオリジナルのコンテナハウスを製作しました。
2019年に会社裏に設置されたコンテナハウス
2019年の4月には会社の裏にファーマーズヴィレッジという酪農家で働くスタッフの住環境を見直すため、自社基準のコンテナハウスを製作しました。
まずは1棟設置したのですが、他にも住みたいという問い合わせもあり、2棟3棟と設置し、その中でノウハウを構築していきました。入居者さんからも色々な要望が来るようになり、ショールームのように戸数を増やしていきましたが、「空いているなら住みたい」と、どんどん住む人が増えて、設置している10棟がほぼ埋まっている状態です。
コンテナの利点は移動が出来るところですが、自社で製作を始めてから寒冷地対策や設備的な対策、周辺環境、酪農地域であるがための臭気対策の問題など様々な課題があることがわかりました。当社のグループ会社にはLPガス会社があるので、ガス給湯器、乾燥機やガスストーブなど全てをガスで設備を整えることが可能で入居者のQOLの向上に役に立ちました。
弊社としてもグループ会社とのシナジー効果が出るので、住む人にとって非常に快適な住環境を提供することができました。
昨年は尾岱沼のキャンプ場に移動式のコンテナサウナを設置しました
2018年に胆振東部地震がありました。地震でブラックアウトした時にやはりお風呂に入れないことは相当なストレスだったと思います。
そこで災害時にお風呂に入れないことでのストレスをどう解消しようかと考えていた時に、コンテナにはユニットバスがついているので災害時でも対応できますし、半分くらい空間が空いていたのでサウナも付けちゃおうかなと思ったのがきっかけで制作しました。プールなどには採暖室という施設があります。サウナは採暖室という言い方ができるので、災害時にも使えます。
我々は、インフラ事業に従事している会社なので、例えば水やお湯が出ないとか、電気がないとなると相当厳しい環境になることを理解しています。
今回のコロナのように感染症で家族と離れて宿泊する必要がある時や、災害があったときにも町に貢献できるようにと、別海町と防災協定を締結しました。尾岱沼のキャンプ場に設置したサウナはすでにオープンしていますが、今後中標津町に開設するホテルに関してはガスの貯蔵施設を作り、外部電源がなくても72時間は運用できる設備をを追加で設置しようと考えております。
ホテルの宿泊システム
今回のホテルでは、40フィートのコンテナを14本使用しています。セミダブルサイズの部屋が12部屋と、ツインサイズの部屋が6部屋で、うちひとつがユニバーサルデザインの部屋となっています。コンテナは約18畳の広さで、セミダブルはその半分である約9畳の広さになります。
完全に無人のホテルで、フロントでのチェックイン、チェックアウトや部屋への入室にはタブレットや専用の鍵を利用します。サウナ室の利用も部屋番号を入力することで入室できる仕組みになっています。サウナ施設は男女兼用で、サウナ着で利用する施設になる予定です。
もちろん部屋にはテレビやユニットバスがついていますし、Wi-Fiも使用できます。年配の方たちの中には、自分たちはどうやって予約するのか?という声もありましたが、デジタルに詳しい方に予約していただくしかないので電話やFAXでの予約には対応しないことにしました。
セキュリティに関しては、ALSOKさんと契約をし、部屋の中にボタンを設置しております。緊急時にはボタンを押して頂ければ10分以内には現地に到着する体制を構築しました。
ホテルとして宿泊での利用はもちろんですが、拠点をここに置いて観光や仕事、またワーケーション的な利用方法も可能です。
部屋はほぼ完成していますが、外構工事や通信関係などの調整がこれから始まります。完全な無人ホテルをこの地域で開業するのは初めてのことなので、保健所とも協議調整をしながら進めているところでオープン日程は現在も調整中です。9月下旬にプレオープンし、10月から本オープンというような流れになる予定です。ビジネス客や観光の方が主なターゲットです。
料金はセミダブルルーム8,000円〜(1人利用)、ツインルームで16,000円〜(2人利用)を予定しています。サウナの利用込みの料金です。
ツインルーム
今後もコンテナを利用した事業計画があればお聞かせください
最終的にはこのホテルをベースに全国の自治体やホテル関係者へ販売することを考えております。自治体で運営するホテル施設やお試し住宅、災害対応施設に利用することが考えられますが、いかようにでもカスタマイズができます。オーダーがあれば希望に応じて作り、システムの運用まで行います。今回のホテルはショールームの要素も持っております。
特に災害に対応できる施設として、このコンテナを利用した宿泊施設は今後、自治体で必要になってくるものだと考えております。災害時に電気が止まってしまった場合にも使用できるように72時間は使える発電機と貯蔵施設を用意しておけば高齢者や入院されている患者さんも安心して利用できます。
使用されない状態で置いておいても価値がないので、通常時は宿泊施設として観光や交流人口を増やすためのホテルなどで利用し、災害時には避難場所として活用できるハイブリッドなかたちがいいかと思っております。そうすることで関係人口や定住人口を増やすことにも繋がるのではないでしょうか。
省力化・省人化・機械化、DX化させていき、いかに経費をかけず運用できるかをコンセプトに掲げ、自治体で収益を立てることが可能になるビジネスモデルになればと考えています。
数億かけて施設を作り利用されなくなった時のことを考えると、その後の利用方法はなかなかうまくいかないことが多いと思います。コンテナのように設置や移動が容易にでき、色々と融通が利く商材であれば、2次利用、3次利用も考えられます。最終的に物置としての使用もできますし、長く使える可能性が高いので、メリットが非常に大きいと思います。
少額投資でも回収が可能なビジネスモデルに今回の施設がなればと考えています。
(取材/2022年8月26日)