この地域を襲う物価高騰の波|地域の産業生き残りをかけた未来志向の経営方針と

この地域を襲う物価高騰の波|地域の産業生き残りをかけた未来志向の経営方針と

試練が続く地域の一次産業。
困難の中でも持続可能な酪農業を目指す

インタビュー:中洞 裕(なかほら ゆたか)
株式会社アグリライフ 代表取締役


物価高騰による影響

 今年は「穀物高騰」「資材高騰」「牛の価格が安い」と3つ大きな波がきました。値上がりは今に始まったことではありませんが、ロシアのウクライナへの軍事侵攻を機に配合飼料や穀物、重曹、資材などの物流が止まっているので取り合いになっています。2020年頃から上がり続けていましたが、今が頂点で終わるのではないかと見ています。

 穀物に関してはアメリカのシカゴ相場が下がりました。トウモロコシが豊作だったのと、ウクライナが穀物の出荷を再開したので少しずつ下がってきています。ただ、木材の不足やコンクリートや鉄の価格高騰がまだ続いているのと、為替がまだ弱いので経費は全体で約15%上がっています。TRMセンターの餌を使っているのですが、月額で約15%上がっているのでその上がり幅は数百万円にもなります。どう補填するかが非常に悩ましいところです。

 どの農家さんにとっても今年相当大変な年です。乳価は上がらない上、経費は上り為替が安いから資材も上がる。肉牛の値段も下がっています。

 餌の高騰で国からの補填があったので、皆さんなんとかそれで乗り切ろうとがんばっていらっしゃると思うのですが、うちはTRMセンターから餌を買っているので直接補填金を受け取っていません。

 昨年から牛乳を売っているほかにもうひとつの収入源として、F1牛の販売をしています。しかし1頭約30万円だったものが約10万円以下、場合によっては数万円にまで価格が落ちています。それが数ヶ月続き上がる見込みがないので、全体で数千万円の収益になるはずだったのが3分の1にまでになりましたが、なんとか補填できました。現状はなんとかなったとはいえ冬まで保つかはぎりぎりかなという状況です。これからも不安材料は増えていきます。天候不順が続いて一番草が長引いたのと、二番草も天候が良ければいいのですが不安要素として残っています。牧草をまくラップなど資材も上がっています。今年はなかなか厳しい闘いになると思いますが、赤字にならないようにしたいと思います。

継続可能な経営スタイルを模索

 牛舎は10年以上経っていて返済がもうすぐ終わるので次の投資計画ができますが、大きい牛舎などの施設を建て、その返済が始まった人たちはかなり厳しいと思います。4月くらいから、次の経営年度になる前に今年はさすがに厳しいと、売ってしまったり、経営持続できない人たちは離農してしまいました。

 若い人たちとみんなで協議しながら、今後どうやって利益率をよくするかを考え実行してきました。今までやっていなかった和牛の受精卵を入れて販売単価を上げるようにしたり、今の牛をなるべく殺さず維持できるように投資をして施設を作りました。

 昨年から獣医や人工授精師の資格を持っている人たちが牧場にいます。外部に委託すると経費も結構かかるので、できる限り自分たちでできるように進めています。これまで通り外部委託していると経費増に対して収支が合わなくなってしまいます。牧場で完結できるように自分のところで産ませて成長させ、妊娠、分娩する作業を自分たちでできるように進めてきました。機械の購入も農協などを通さず直接交渉して購入しています。僕だけがお金がないのならいいのですが、牛もいますし従業員がいるので路頭に迷わせるわけにはいきません。

 従業員は現在フィリピンの方が6人、ミャンマーの方が2人、日本人が11人ぐらいいます。それでもまだ足りないので、もっと増やさなければいけません。時間を超過してしまう人たちもいるので、その負担を少し軽くしたいと思っていますし、最低賃金も上がりますが、対応可能な力を保った経営をしたいと思っています。

 持続可能な経営スタイルを模索しながら進めないと厳しい時代です。農協や国の補助を当てにする、誰かに依存する経営スタイルはよくないと思っています。できるだけ自分達で自立して立てるような会社を目指して行きたいと考えています。

(取材/2022年8月23日)