中標津ブランドのパンで
経済活性化を図る

中標津ブランドのパンで<br>経済活性化を図る

中標津ブランドのパンで経済活性化を図る

町のパン屋と農家のタッグでお互いのこだわりが活きる

インタビュー:安田 隆(やすだ たかし)
        株式会社 万両屋 代表取締役
        佐々木 大輔(ささき だいすけ)
        有限会社 希望農場 代表取締役


希望農場産の小麦粉はこれまでの小麦粉と違う特色はあるのでしょうか

安田 パンを作った時のできあがりに他の小麦粉とそんなに差があるわけではないのかなとは感じてはいます。特別香りが良かったり、特別でふくらみが良かったりということではありません。ただ中標津は小麦には適さないと言われていたのに、大変な苦労や努力をして作り上げた小麦粉です。そんな生産者の努力と苦労を美味しさに変えたいと思いました。この小麦粉で安定した商品を作りたかったので食パン作りに取り組みました。品質が安定してきているので、安心して使っていけます。

佐々木 僕が怖いのは品質はもちろんですが、安定した出荷です。単一地域で、しかも単一農場の小麦粉というのは、天候による収量や成分値の違いで極めてリスキーなので、全国的に見ても希少です。ビジネス的にも非常に難しいのですが、地域の自給力や地粉による食文化の創造に繋がることを期待してのチャレンジです。天気さえよかったら大丈夫だとは思っているんですけど結構ドキドキします。

 万両屋さんをはじめとして、春よ恋という春まき小麦を使っていただいているのですが、秋まき小麦の方はもう間違いなく採れます。収量も春まき小麦の2倍です。農家経済を支えるんだったら秋まき小麦を作るのが間違いありませんし、春まき小麦はリスクが高く収穫するのがとても難しいのですが、パンの特性を考えた時にパン屋さんが求める味や香りは春まきの小麦が向いています。

安田 正直他の小麦と比べて高いんですね。でも使い続けることで生産量を増やすことができるようになれば安くなっていくのかなと思っています。何としても利益を出していただかないと続かないことなので、うちの商品の生産量を増やしていこうと思っています。実は自分の小麦粉でパンを作るというのが昔からの夢でした。そんな時に小麦粉を作ってくれたので非常に幸運でしたし助かっています。

佐々木 僕はもともと酪農で牛乳を搾っている立場にいます。地域の牛乳をもっと飲んでくださいとお願いするだけではなく、食べるという形になるとこの地域が本当の意味で酪農地帯になるんじゃないかと考えています。小麦粉があればパンやピザ、麺になり、それらを使用した料理には乳製品が使用されるので、自ら選んで食べてくれるようなものになると思い小麦の生産を始めました。ただ、やはり大変な苦労はあります。中標津で小麦を作っている人はいませんでしたし、粉にすると回収するのが大変になるのでリスクがあります。冷害や災害で小麦が全滅してしまうようなことになると、お付き合いしていただいている加工業者さんに原料が届けられないという危険要素もあります。

 今はありがたいことに収穫ができています。現在は使っていただいている方々のぎりぎりの量ぐらいを何とかコントロールしながら出荷しているという状況です。

 農業や、僕らの酪農もそうですけど、順調なんて言葉は基本的になくて、日本国内だけではなくて世界も含めた様々な需給と供給のバランスの関係で成り立っています。余ったから捨てるような話が出てきたりすごく理不尽なんです。

 僕らは牛乳を搾ったあとはどこに行くかわかりません。汲んでいかれたらそれで終わりという商売です。小麦を作って粉にまでしたら、パンがやピザ、麺ができました。そうなると食卓に並びます。初めて自分が作ったものがこういうふうに食べられる感

覚、初めて農業を楽しいなと思いました。僕は農業を好きでやっているわけじゃなかったですし、今も好きかどうかわからないですが、農業ががんばれば地域が豊かになるんじゃないかと思っていますし今後も続けていきたいと思っています。

 安田社長がどんどん小麦粉を使ってパンを作ってくれるので、僕は楽しくてしかたないです。その代わり商品が増えるたびに緊張もします。来年小麦失敗したらどうしようって思ってしまいます。

新しくチョコレートを使用した生食パンの販売が始まりました

安田 実は数年前からチョコレート食パンという商品はあり、本州の方に出荷していたんです。それを従来の生食パンと同じように中標津の食パンにしようと思い、希望農場産の小麦粉と中標津の生クリーム、牛乳を入れた生食パンのチョコレートバージョンを今回商品化しました。もともと第2弾として、もっと牛乳を入れてバターを使ってみるなどなかしべつ生食パンのグレードアップ商品は考えていたんです。

 そもそも中標津産の牛乳や乳製品を使用して商品化したいという思いからはじまっています。今までは牛乳やチーズ、じゃがいもくらいしかありませんでしたので、最初はブルタージュをブランディングして、中標津の牛乳とチーズを使ったお菓子を開発しました。その後、小麦粉ができたということでなかしべつ食パンを開発しました。パンに繋がってよかったなと思っています。

 ビターな感じのチョコレートを使っているので甘すぎず、大人の人は食べ飽きないで食べていただけるかなと思います。実際、試作を食べる時についつい結構食べてしまうくらい美味しくできたかなと思っています。

それぞれのプロフェッショナルが集まってできた商品ですね

佐々木 本当にたくさんの人が協力してくれなければ、こういう商品が生まれなかったと思います。はじまりは標津羊羹本舗の長谷川社長です。社長とのある会話がきっかけで小豆を作り始めました。それを長谷川社長があんにしてくれました。素人が初めて作ったあずきで中標津あんぱんが作られたのでとても嬉しかったです。そのあんぱんに使用するパンを作るのに安田社長に連絡がいったのがきっかけでいま取引させていただいています。

 あんぱんやパンを食べたら牛乳だよねというイメージです。それはもう僕の思った通りのイメージですし、万両屋さんも標津羊羹もやはりこの町のブランドであり老舗の方々なので、僕が何かしなくても、きちんとブランディングしてくださいます。僕がやることは毎年畑できっちり小麦を作るということと、僕じゃない人でもきちんと小麦粉を作れるような状況を作って継続できるようにする。常に中標津の小麦粉があるようにすることまでが僕の仕事かなと思っています。僕は生食パンを人に配るんですが、他の生食パンよりも美味しいと言ってくれる人の方が多いです。

 中標津町の経済が良くなって欲しいというのが僕の願いです。もちろん町の人に食べてほしいんですけど、万両屋さんの生食パンや標津羊羹のあんぱんを通して中標津という町を知ってくれて、人が動くことで経済の活性化につながるのであれば嬉しいです。

安田 タイミング悪くコロナ禍になってしまったので、地方から人を呼びたくて中標津をアピールしているんですが今は状況的に来いとは言えません。でも結構ネットを見てくるのだなあと思うのですが、見たことのないナンバーの車がたまに止まってなかしべつ生食パンを買っていきます。物産展などでも結構売れています。コロナ禍の中なのでこちらから出向くことはできませんが、外で売っている数は結構多いし増えてもきています。新たな契約も増えていて、定番商品として置きたいと言ってくれている百貨店もあります。自分で出すとなると大変な経費がかかるのでありがたい話です。

(取材/2021年12月21日)