国の対策で一時貸し付けの制度が設けられた。
幅広い年代への救済と、極端に緩和された貸し付け条件との葛藤
インタビュー:千野 智彦(ちの ともひこ)
社会福祉法人 中標津町社会福祉協議会地域福祉課 課長
加藤 聖士(かとう きよし)
同 地域福祉課 相談支援係 主事
伊藤 真琴(いとう まこと)
同 地域福祉課 相談支援係 主事
社会福祉協議会で用意されていた支援制度にはどのようなものがあるのでしょうか
新型コロナウイルス感染症の影響で失業したり仕事が減ったことで収入が減った方のために、生活の立て直しを図るため一時的に資金を貸し出す制度として、従来よりあった生活福祉資金貸付制度のうち「緊急小口資金」「総合支援資金」の2種類が特例として厚生労働省によって設けられました。
「緊急小口資金」は、一世帯につき20万円を1回限りで無利子、保証人不要で借りることができます。償還は据置期間が終わってから2年以内になります。
また、それでも生活が困難な方は「総合支援資金」を利用していただくことができます。こちらは単身世帯で月15万円以内、2人以上の世帯であれば20万円以内を3ヶ月分まで借りることができます。こちらも条件があり、それに当てはまらなければいけません。償還は据置期間が終わってから10年以内と長いのが特徴です。
この貸付は新型コロナウイルスの感染拡大が始まってすぐの令和2年3月25日からスタートしました。
貸し付けの実績は緊急小口資金が80件、総合支援資金は37件あり、合わせて117件の方に貸しています。相談だけの方も含めると130件にはなると思います。
私たちも当然返してもらう前提で話をするのですが、従来の貸付制度とはかなり違い、今回の特例の支援資金は「新型コロナウイルス感染症の影響で収入が減少したかどうか」が大きな基準になります。非常に幅広い方が要件に該当するため、償還はあとからゆっくり考えるというような通常ではありえないくらい条件が緩和されていたと思います。
所得が低い方々だけが対象の制度になるわけではないということでしょうか
当初の目的はそうだったかと思います。ただ、償還できるかどうかを詳細に聞くような申請方法ではないのもあって、「月の収入が2~3万円減ってなんとなく生活が苦しくなってきた」そういった方にも貸した例がありました。
申請の際には身分を証明できるものや住民票と合わせて、収入減がわかるような給与明細書などを提出してもらうことになっています。ただ始まった頃には当然全ての書類を提出してもらっていたものが、収入減の要件に関しては申請のための条件がどんどん緩和され、収入減を証明できるものがない方は申立書を1枚書くだけで申請できるようになりました。書類にご自身で記入するだけで申請できてしまう。私たちもその辺がジレンマで、本当に必要な方に届いているんだろうかと思うこともありました。
私たちの役割として本当に困っている方の相談に乗るのが仕事です。貸したら返してもらう目処が立つ方にお貸しするのが本来貸付の基本であり、償還が難しい状況なのに貸してしまうことで生活がより苦しくなったら本末転倒だと思いますが、それ以上にスピード感や幅広い層への支援が必要だった、ということでしょうか。
生活保護の方は借りられないのですが、生活保護に近い方もいて、月の収入は手取りで10万前後くらいの方が多かったです。生活が苦しく、生活保護も考えた方が良さそうな方何人かにはアドバイスをさせてもらいました。
コロナ禍の前までは年間で数件あるくらいの貸し付けで、本当に資金的に生活が困難な方にしっかり話を聞いて、必要と判断された場合に貸すことをこれまで行なってきましたが、正直、私たちのやっていたのは何だったんだろうと思ってしまうくらいです。
本来、私たちが行っているのは本当に困っている方々の最後の砦のようなところです。収入のある方であれば、車を購入したり、家を建てる際に銀行などで借りることができるので、私たちのところには来ません。貸付の実績がこれまでなかったわけではありませんが、実際は経済状況とか世帯状況によって返済してもらう目処が立たない方が多いので、借りない別の方法で、何か方法はないだろうかという支援にシフトしていくことも多いです。
現在、今回の緊急小口資金の貸付に関して、令和3年度と令和4年度の住民税非課税世帯は免除の話が出ています。今後手続きの詳細について正式に決定されると思いますが、免除に該当しない方々からの償還がどのくらい可能なのかは正直未知数です。
新規申し込みは3月31日で終了予定となっており、総合支援資金については最大で月20万円を3ヶ月分借りることができますが、コロナ禍が長引いているためにその後延長貸付及び再貸付がありました。最大借りることができた場合、緊急小口でまず上限20万円。次に総合支援資金20万円3ヶ月分で上限60万円。延長貸付と再貸付で60万円が2回。最大で200万円になります。それが住民税非課税世帯であれば償還が免除になります。
相談に来られた方の年齢層は幅広く、20代から80代の方までいらっしゃいました。緊急小口は全体で1,215万円。総合支援資金は2,419万円。全体で3,634万円を貸付けています。
多くの方が令和5年より償還が始まりますが、不安が大きいことも事実です。
(取材/2022年1月24日)