コロナ禍の裏側|ワクチンの管理と集団接種の体制の構築。
初めての大規模接種の裏側

コロナ禍の裏側|ワクチンの管理と集団接種の体制の構築。<br>初めての大規模接種の裏側

保健センターとしての機能を維持しながらもワクチン接種のための事前準備や会場の運営をおこなう

インタビュー:石山 卓也(いしやま たくや)
        町民生活部健康推進課 予防係長
        中標津町保健センター


集団ワクチン接種に向けて保健センターではどのような動きをされていたのでしょうか

 私たちは予診票・接種券の管理・発送、ワクチン・システムの管理、しるべっと集団接種会場の設置・運営や、こどもクリニックさんの個別接種も含めて予約管理など、接種の実働部隊として、接種全般にかかわる調整を行いました。

 国で対策本部(新型コロナウイルス感染症対策本部・令和2年3月28日)が設置された際に、47都道府県と全国市町村に対策本部を設置するよう指示が出ました。中標津町では新型インフルエンザ等対策本部が中心となりその役割を果たしてきましたが、ワクチン接種の動きもあり、ワクチン接種に特化した中標津町新型コロナワクチン対策室を令和3年2月に保健センター内に立ち上げました。

 新型インフルエンザが出たときにも同じような動きがあり、その時のマニュアルを全国の都道府県、市町村でも持っています。役場内である程度の役割分担は出来あがっていました。ただ感染拡大のスピードと数が段違いでしたので、そのマニュアルでは対処しきれませんでした。今回のように集団接種会場を設けるなどの想定はなく、予診票を作ったり、対象となる町民全員が接種できる体制を準備するなど今までに経験がない対応をしなければいけませんでした。

 国からの指示があり予診票を作成したのですが、名簿作成などの業務は1月ぐらいからすでに始まっていました。3月には発送できるようにという指示でしたので、急遽作ることになった上に、国から示された統一様式や特殊の接種券シール等の印刷もあり、市町村個々での対応では間に合わない状況となり、国の方で手配をすることになりました。

 急いだ割にはワクチンが確保できず、接種券はまだかまだかと結局、保健センターで保管されている状況でしたが…。

 2月ごろは、それに加えて、コロナが全国的に広がり、マスク不足となる状況もありました。医療関係者や介護事業所の消毒液の不足など、いろいろな衛生用品が買えなくなって接種だけではなく、様々な課題や相談が保健センターにありました。

 5月末から一般の接種が始まりましたが、接種のための事前準備には苦労しました。ワクチンをマイナス80度で保管しておくためのフリーザーは、国から保健センターに2台提供されましたが、停電に備えた設備はありませんでしたので、コロナの交付金で発電機も設置しました。

ワクチン接種に関して心配される方も多かったのではないでしょうか

 持病を持っている方から接種してもいいものなのか悪いものなのかという相談がありました。コロナにかかってからのリスクを考えれば受けた方がいいという方もいらっしゃいますし、どうしても病気の治療のためにワクチンを打てないという人もいらっしゃいます。そこは保健師でも対応しかねるところがあるので、かかりつけの医師がいる方には、医師に相談して接種した方がいいと思いますよとアドバイスさせていただきました。その他の相談には保健センターの保健師が応じました。

 ほかにも、ワクチンだけに留まらず、コロナ禍でなかなか外に出なくなってしまい、引きこもりっぽくなってしまった方も多かったので、精神的なケアを行うことも多かったです。妊婦さんたちも大事な時期だから外に出づらく、精神的に追い詰められていた方も中にはいたと思います。

特に大変だったことはありましたか

 予約を受けるために電話を4台設置しましたが、コールセンターの電話がつながらないなど、予約の電話がパンクするような状態でしたし、手慣れていないのもあってスムーズに行かないという混乱はありました。

 ネットでも予約できるようにしましたが、65歳以上の人だったので、スマホを持っていないとか使い方が分からないという電話もいっぱいありました。また、導入したシステムでは1回目と2回目の接種の予約を同時に予約できるようになっていたのですが、2回目が都合が悪いからなんとかならないかという方も結構いて、入院等による突然のキャンセルの電話もありました。

 1番大変だったのはやはりワクチンの管理です。小さい箱に入っているのですが、195本(バイアル)で、1本で6人分なので1,170人分になります。最初の頃は注射器が全国的に足りなく、本当に最初の頃は6人のところが5人分しか取れなかったりもしました。

 国に手配したフリーザーが届くまでは、大きい箱にドライアイスが入っていて、その下の方に小さなワクチンの箱が入った状態で届くのですが、その箱では3日間の保管が限界でした。国からは5日おきにドライアイスを配送すると案内がありましたが、地方の町なのでそれが届くタイミングと合わなかったらどうしようと不安はありました。結局ワクチンが届く前に冷凍庫が届いたのでよかったです。

 ただ発電機が設置されるまでは、1箱、2箱と保管する数が増えるたびに、停電になって温度が下がってしまい廃棄したというニュースが出ていたこともあって、もし停電起き温度が下がってしまったら、途中でコンセントが抜けたら、と気が気でありませんでした。

 また、ワクチンを箱から出す際に温度が下がってしまうから1日に2回しか開けてはいけないという話がありました。
でも1日に接種できる人数には限りがありますし、会場に持っていくためには小分けにしなければいけません。1箱をその日に使ってしまうならいいのですが、予約で200人だったらその分のみ約30何本を分けて持っていくことになります。温度が下がらないよう短時間で慌てて出して詰め、またしまってという感じでした。

 あとからフリーザーが2台になったので、片方ずつ開けて随分楽にはなったと思います。後で溶かしても1ヶ月間は保つという話で、保存期間も最初6ヶ月と言っていたのが、最近になってから9ヶ月と伸びていきました。最初の頃は無駄にならないように必死でしたね。

 会場で急にキャンセルが出たとか来れなくなったと聞くと、ワクチンを余らせないよう65歳以上の方が対象だとしても急遽職員に接種してもらったり、とにかくワクチンに関しては苦労しました。

現場では混乱はありませんでしたか

 5月24日から高齢者の接種が始まりましたが、5月20日くらいの会場の設営と同時にシミュレーションを兼ねて会場に従事する人たちの分を先行接種としておこないました。

 実際に席に座って、名前を呼ばれ先生のところで問診を受け、接種してから待機してみて30分で何人接種できるのかできるかを試してみました。

 実際はじまってみると最初は1時間あたり15~20人ぐらいしかできなかったと思います。でもだんだんみんな慣れてきて、その翌週くらいからは30人ほどできるようにはなりました。年配の人と若い人だとやはり動きも違いますし、服を重ね着してきている人が多くて脱いで打つまでにかかる時間が長かったように思います。だんだん暖かくなるにつれて、皆さん薄着になってくるので7月~8月は結構スムーズに接種していただけたかなと思います。

 会場の体制も国から提供された配置図面はありましたが、それぞれの会場によって作りが違いますし、急遽パネルを置いたり、テーブルがあった方がいいことに気付いたり、多少途中で変えたりと試行錯誤しました。ただ、一度始まってしまうとなかなか変えられないですし、当然イスも1人来るたびに、拭いて消毒して、とやっていたので時間がかかったところもあったと思います。

現場で接種に携わったのはどのくらいの人数がいたのでしょうか

 しるべっと集団会場の平日であれば問診をおこなうお医者さんが1人、ワクチンを打つ看護師さんが2人、ワクチンを希釈する役割は保健センターの保健師が3人、ほかに受付や誘導、接種後に予診票に接種券のシールを貼って接種済み書を渡す人、さらにそれを機械で読み取る人、接種本部2名を合わせて、15~16人は携わっていたと思います。日曜日は、若干数が増えています。やはり、高齢者の方で予診票を書いていない人も多かったので、その状況に合わせて、役場職員を加配するなど、臨機応変な対応が求められました。

 アナフィラキシーショックを起こして倒れた人はいませんでしたが、ワクチンを打つということに対する恐怖心や極度の緊張で、調子が悪くなって倒れてしまった人が何人かいました。中には救急車も呼ばなければいけない時もありました。とにかく大事に至らず済んでよかったです。

 15分~30分待機の時も会場が別にあればよかったのですが、全部同じホールの中でおこなったので接種できる人数は30分で35人がギリギリだったと思います。

3回目の接種がそろそろ近づいています

 前回は暑くなりすぎてエアコンを入れたりしましたが、今度は逆に寒い時期になります。天候により、予定通り接種が進むのか心配しています。

(取材/2021年12月27日)