「認知症の人 本人の声を活かす」という動きが少しずつ始まっています①
医療法人 樹恵会 石田病院
院長 石田 康雄
令和3年10月6日の東京新聞によりますと、「日本認知症本人ワーキンググループ(東京)」が今春行った調査では、介護保険事業計画の施策を策定するために認知症の人の本人の声を「特に聴いていない」市区町村は約3割にとどまったということです。新たな介護保険事業計画を策定するため、認知症の人を委員に起用した自治体もあるようです。ある都市では、認知症の人の具体的な意見として、「水道の蛇口を閉め忘れたら、もう蛇口を触らないでと言われる。同じ失敗でも、認知症でない人はそうは言われない」「だから失敗したことを隠したくな る。認知症の人は皆そうだと思う」「認知症になってできなくなることはあるけれど、新しいことにチャレンジしたい」。これらの意見から介護保険事業計画として「認知症の人のよりよい暮らしと活躍」を重点課題の一つに設定。その取り組みを進めるため「認知症施策推進基本計画」も新たに作り、第一の指針として「認知症・認知症 の人への先入観の払拭」を掲げ、「認知症の人が『迷惑をかけて申し訳ない』と思わないような街づくりを」など、 認知症の人の声を受けた施策となったということです。
東京都練馬区では、認知症の人が語り合う 「本人ミーティング」では、「道に迷っても困らない、『認知症です』 と言える街づくり」などを望む声が出たといいます。これを受け、交流や介護予防の拠点「街かどケアカフェ」を増やし、認知症の人本人や家族の声を聴く場所の拡大を介護保険事業計画に盛り込みました。
政府は、「認知症の人本人の視点を施策の企画・立案や評価に反映するように努める」と明記。行政が本人と一緒に施策を練り上げる姿勢を求めています。
各地で公演活動をしている若年性認知症の丹野智文さん(47)は「行政が本人の話を聞こうと変わってきてい るが、本人と一緒に何かをしようとまでいっていない。その人の力を信じて、一緒に作り上げていくのが最終目的ではないか」と指摘した。以上新聞記事より1部を抜粋させていただきました。
真に認知症の人を理解するということは、認知症の人との対等なかかわりの中で生まれてくるものではないかと思いました。そうでなければ、認知症の人の本当の気持ちを引き出すことはできず、形だけのもの、表面上だけのもの、実効性に欠けるものになってしまうのではないでしょうか。認知症の人の本当の気持ちを引き出すにはどうしたらいいかということも忘れないようにしたいとおもいます。
今回は、行動・心理症状(以下 BPSD)の2回目として幻覚、誤認、妄想、徘徊、不安、焦燥、うつ、アパシー(無気力)、暴言、暴力、不穏、拒絶、性的逸脱行為などを説明していきたいと思います。
(1) 幻覚
「幻覚」とは、現実の外的刺激に関連しない知覚認知をいい、現実にないものが見える「幻視」と、聞こえないはずのものが聞こえる「幻聴」があります。レビー小体型認知症は、8割に幻視がみられ、明確かつ鮮明に色や形を言うこ とができる特徴があります。
(2) 誤認
「誤認」とは、現実の外的刺激に対する誤った知覚認知で、知覚対象が実際にある点で幻覚とは異なります。誤認に は人物誤認、場所誤認、養生症候群(いない身内が家にいる、亡くなった身内が生きているなど)、TV誤認(テレビの場面を現実のものと取り違える状態)、鏡現象(鏡の中の自己像を他人と認識)があります。レビー小体型認知症に高率にみられます。
(3) 妄想
「妄想」とは、間違った推理に基づく誤った確信で、正しい論証により訂正できないものをいいます。アルツハイマー型認知症の約半数にみとめられ、「ものとられ妄想」が最も多く、「被害妄想」、「見捨てられ妄想」「や「嫉妬妄想」などがあります。統合失調症の妄想とは異なり、変化しやすく、短絡的で対象が家族や介護者など身近な人であることが多く、家族や人間関係の悪化につながります。
(4) 徘徊
「徘徊」は、どこともなく歩き回る状態ですが、目的を忘れたり道がわからなくなり結果的に迷子になりやすくなります。そのため安全面での心配や見守る介護者に多大な負担がかかります。記憶障害、実行機能障害や地誌的見当 識障害などの症状に、焦燥や不安が加わることによって起こります。アルツハイマー型認知症では、初期から徘徊が出現し、中期以降に顕著になります。レビー小体型認知症ではいわゆるレム睡眠時行動障害により睡眠中に大声を 上げる、部屋の中を歩き回るなどの行動がみられます。また特に前頭側頭型認知症(ピック病)では、常同行動や強迫行動によるもので、その一つが周徊といわれ、同じルートを何度も歩き続けますが、アルツハイマー型認知症と異な り道に迷うことはほとんどみられない特徴があります。 徘徊をはじめとする行動・心理症状は、夕方から夜に悪化しやすく「夕暮れ症候群」と言われています。
医療法人 樹恵会 石田病院
院長 石田 康雄
昭和59年 埼玉医科大学卒
平成元年 埼玉医科大学大学院卒 学位取得
平成2年 飯能市立病院 副院長
平成3年10月 石田内科医院 副院長
平成11年1月 医療法人樹恵会 石田内科クリニック 院長
■専門医など
日本内科学会認定医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本東洋医学会漢方専門医、日本人間ドック健診専門医、日医認定産業医、日医かかりつけ医制度研修終了、日本温泉療法医
■認知症関連
平成27年 認知症サポート医
平成30年 認知症初期支援チーム
令和元年 日本認知症予防学会専門医