深刻な人手不足の中でも、子どもたちが社会へ巣立つまでを共に
インタビュー:千葉 雄樹(ちば ゆうき)
合同会社リーブス・グロウ(児童発達支援・放課後等デイサービス たいようとクローバー) 代表
児童発達支援と放課後等デイサービスとは具体的にはどのような支援をされる事業ですか
会社設立が令和元年の7月でそこから準備期間、そして事業所として開所したのは令和2年の2月になります。
児童発達支援は、就学前の幼児さんを対象に個別や小集団の療育※1を行います。放課後等デイサービスは、18歳までの小中高校生の集団での療育を行うのが主な内容になります。中標津には、当社の他に、町で運営している「児童デイサービスセンター(児童発達支援)」と、事業団※2で運営している「放課後等デイサービスとらいあんぐる」の3事業所があります。それぞれ特色が違いますので、利用を希望される保護者さんはそれぞれ見学などをしながら自分達の生活や子どもの特性などに合わせた事業所を選択して利用しています。例えば、町で運営している児童デイサービスには専門職(臨床心理士など)がいますが、送迎サービスがありません。当社では送迎サービスを行っているので、例えば親御さんが働かれていて、町の児童デイサービスに連れていくことが難しくなった子が当社を利用するなどそれぞれの生活状況に合わせられるようにしました。とらいあんぐるさんとはあまり活動内容は変わらないかも知れませんが、そこにいる職員の持ち味や雰囲気、そういった所を保護者の皆さんは選んでいると思います。
中標津町の人口や支援を必要としている児童の割合に対して、子ども達を支援する事業所は少ないので、その中で一役を担うことが出来れば…という思いで運営しています。
僕自身とらいあんぐるで事業所長をしていたのですが、需要があるにも関わらず受け入れの枠が足りない状態で、さらに今まで以上に受け皿を増やしていくことが難しかったこともあり、独立してこの施設を開設しました。
しかし、まだまだ支援者が足りていないのが現状です。需要に合わせれば、もう1ヶ所増やせたら…という希望はあるのですが、それを支えるだけの職員がいないので、そこがネックになっています。
施設を成立させるためには、児童発達支援管理責任者(以降 児発管)というサービスを提供するにあたって管理をする人と、保育士(児童指導員)の数が足りていないといけませんので、人材が不足しているために日数なども含めて、利用者の希望を100%受け入れることは難しい状況です。この制度が始まってからだんだんと児童発達支援や放課後等デイサービスでの療育に対して、質を高めなくてはいけなくなっているからです。そういった点でどうしても資格が…という形になってきているので、なかなか人口の少ない都市には難しい面もあると考えています。
そしてその児発管自体も3年から5年の経験がないと取ることが難しくなっているので、なかなか支援の手を広げていくのは大変だと思います。
この職種を続けて行くに当たって、やりがいは大きく感じています。この施設に来られる方々は障がいがあったり、困り感があったりと、子どもの現在の状況や先々に悩みを抱えています。それは子ども自身であったり、保護者(家庭)であったりとそれぞれですが、こちらの施設に通いながら(子どもの)状況の改善や(保護者の)悩みを聞いてあげること、そしてそれを共有していきながら、(保護者と職員が)一緒に子どもの将来に向かって進んでいくことが出来る、それは一人一人と深く関わり、出来なかったことが出来るようになったり、安心してこちらの施設に来て過ごし、精神的な安定をもたらすことが出来たりと目に見えるように成果を感じることもあります。
それとは反対に悩むこともあります。その理由の一つに切れ目がないからということがあります。例えば小学1年生から入って高校3年生までいるという形になると、12年いるパターンの子もいるわけです。その中でサービスを提供する目標(プラン)を立てて取り組んでいきますが、小さい目標(スモールステップ)をこなしながら、大人になった時に社会生活で困らないようにと考えながら、プランを立てていくこと自体も大変ですし、長く取り組んでいくと(障害特性が大きくは変わらないため)マンネリ化を感じてしまうこともあります。「自分のやっていることは果たしてこれでいいんだろうか」と感じてしまうんです。障がい自体が消えて無くなる訳では無いので、一緒に関わりながら特性の理解を促したり、その対応策を見つけ出したり、その時々の対応のベストを尽くしながら、その子と向き合っていく、それが大変なことでもあり、『やりがい』なんです。
学校であれば、何年かで卒業して、新しい子が入ってきてどんどん入れ変わっていきますが、こういった施設では新しい子は入ってきても、学年の途中で抜け出ていく子というのは少ない傾向にあります。大人になって社会に出てから、笑顔で仕事や生活をしていることが出来れば、僕たちが支援として行っていたことは間違っていなかったんだと思えると思います。
支援の体制に特徴があったりしますか
制度に合わせた職員の人数で、定員の10人を見てくださいという決まりになるので、1人で何人まで見るという事はありません。当社の施設では、あくまで職員全員で、1つのチームとして子ども達を見る(対応する)という形になります。大人とは違い、子どもの場合は個別的なお勉強(課題)はあっても、基本的にはそこに遊びがあり、行うことの『楽しさ』が一番大事になると思います。人との関わりを大事にしながら『遊ぶ』なので、人と一緒に過ごす「楽しさ」を知ることや「人との適切なコミュニケーション方法」を知ってもらうことが療育の目的のひとつになります。ここに通いながら、どうすれば自分の思いを言葉にできるか、社会生活を営む上でのうまくいかない部分を適正な方に持っていく方法を伝えるということが大切と思っています。認知の低さや集中力の短さからその方法を知らなかったり、伝えるための言葉が分からない、相手の気持ちを読みづらいという子も多いので、どうしたらその相手と仲良く出来る方法があるのか、選択肢の少ないその子達にとって、選択肢を広げてあげること(知らせてあげること)が出来れば生きやすさに繋がって来ると思います。例えば、お友達とのトラブルがあった時などには、相手に「ごめんなさい」と伝えることや、どのようにしたら自分の気持ちを整理することが出来るか、方法の選択肢を伝えつつ、どれが1番君に合うだろうねと話しながら、その子が決めて行動に移せるようにお手伝いしています。
また、施設内での遊びだけでなく、運動として外に出ることも多くあります。近くの児童公園へ行き遊具で遊ぶことや、運動公園まで行って散歩することもあります。運動が好きな子は、野球場で野球やキャッチボール、それからサッカーなどをすることがあります。施設の立地が良く動きやすい場所です。夏休みなどには時間もあるので、車に皆で乗って西春別駅前の鉄道公園まで遠出して散策したこともあります。低学年から高学年までみんなで行きます。
障がいを抱えている子達は、運動が苦手な子も多いのですが、体の筋力が弱いと集中力が続かなかったりするので、勉強に支障が出る場合もあります。そのためにも出来るだけ体を動かす機会を持てるようにしています。
支援で難しいところはどんなところでしょうか
障害者と健常者の境目は存在するようで存在しないと思っています。検査をすれば数値として出て、そういった目安の中で「障害」と診断されますが、黒か白かといったことでは無く白と黒の中間(グレー)もあり、そういったことからも自閉症スペクトラムと呼ばれていることは大半の人が知っていると思いますが、制度や世間の目はそれが白か黒かに分かれている気がします。それこそグレーゾーンの子達の将来の方が心配だったりします。
言葉にすると難しいのですが、情緒的な障がいがある子でも知的に高ければ高いほど、見えない部分である情緒面などの気持ちの部分が、社会的には本人の中で1番のネックになります。例えば自分の気持ちのキャパシティが小さかったりすると、その後社会で働くようになった時に多くを求められ過ぎてしまっても断れず、ストレスのはけ口や抜き方を知らない、全て自分のストレスとなって心身を崩してしまうこともあります。その難しい部分をなんとか上手く社会と繋がりながらやっていく方法をもっと知らせてあげられたらと思っています。
みんな本当に真面目なんです。真面目で、素直で、言われたことは一生懸命やろうとするんだけれども、やっぱり上手くできなかったりして…そうすると大きなストレスなってしまいます。大人も子どももやらなくてはならないこととして、社会から求められている訳ですから、怒られることもある訳です。ここは頑張らなくてもいいところや皆と一緒に取り組む方法など、自分だけで抱え込まずに、そして追い込まずに、自分を大切にしながら生きていくことが大事なのかなと思います。
その人の器(キャパシティ)が破裂してしまうと精神的に崩れて過ごして行くことも出来なくなってしまうので、バランスを保ちながら、自分の困っていることを言葉にして伝えられるのかなど、そういった逃げ道を知ってもらえればいいなと思っています。
ここを卒業した子達が笑顔で過ごしている、そういった将来像を見据えながら、僕達は子ども達に接していきますし、ここでの活動を糧に社会に出て楽しく笑顔で過ごしてくれれば嬉しいです。
(取材/2022年1月20日)
※1 療育
障害のあるお子さまやその可能性のあるお子さまに対し、個々の発達の状態や障害特性に応じて、今の困りごとの解決と、将来の自立と社会参加を目指し支援をすること。
※2 事業団
社会福祉法人 北海道社会福祉事業団。