町立中標津病院の中でも感染症対策を専門でおこなう
医療安全対策室。 最前線の現場での状況を聞いた
インタビュー:山田 真紀(やまだ まき)
町立中標津病院 感染対策室 室長
安全対策室とはどのようなことをしているのでしょうか
平成25年頃、病院に『医療安全対策室』を設置するよう厚生労働省(以降 厚労省)からの指示がありました。その頃、私は携わっていませんでしたが、町立中標津病院(以降 町立病院)にも医療安全対策室が設けられて、医療事故の防止や適切な医療の提供と、感染対策を行っていました。感染対策室という独立したものはありませんでしたが、感染対策自体はコロナとは関係なく病院でおこなっていたことになります。感染対策室として独立したのは2年ほど前からです。そんな中コロナの感染拡大が始まりました。
感染症指定病院※1は地域ごとに1軒と国が定めていて、根室管内は市立根室病院、釧路管内は市立釧路総合病院になります。町立病院は対象になっていないので、建物の造りから既に違い、陰圧感染隔離室などの感染症に対応した医療システムを持っていませんでした。
コロナ禍が始まった頃の状況は
医療は厚労省の管轄で動いているので、今回のように「武漢で何かわからない肺炎が出たらしいぞ」となった後に、厚労省からの通達を受け病院が動くことになります。
私個人でも2月(2020年)に神戸でおこなわれた学会に出席した時に、CDC※2の方が来ていて日本でも恐らくその感染症が流行るので対策を練ったほうがよいとお話がありました。その後、厚労省から病院へ次々に通知が来るようになりました。はじめは根室が受け入れ先となりましたが、根室市を管轄とする根室保健所と、中標津と標津、羅臼、別海を管轄とする中標津保健所があり、4町は中標津で受け入れることになりました。指定病院ではない町立病院にはすごくハードルが高かったです。
一口に「肺炎」といってもすぐに診断がつくわけではありません。原因となる菌やウイルスがわかればこの人は◯◯肺炎だと言えますし、誤嚥が原因であれば誤嚥性肺炎と診断できますが、菌がわかるまでにすごく時間がかかるものもあります。
新型コロナウイルスの疑いがある人をすぐに検査したいと思っても、PCR検査はまだ町立病院ではできませんでしたし、検査のためには札幌に送る必要がありました。指定病院ではないので一般の個室しかありません。結果がわかるまでに約3日かかりましたが、隔離するための設備がなかったため入院してもらう場所がありませんでした。
患者を断らないのが病院のスタンスでしたから、患者さんを中標津で診られないとなると、ほかに受け入れ先がなくなってしまいます。それでは困ると当時の副院長(現院長)にとりあえず患者さんの検査結果が出るまでの間、一時的に隔離できる場所を作ってほしいと提言しました。設備を整えながら4階の使用していない一般病棟だった西病棟の奥の部屋に個室を作り患者さんを見ました。2020年の3月頃です。
当時は空気感染などさまざまな感染経路が疑われていた時期でした。万が一を考えると、できるだけの防護をしなければ受け入れはできません。すでに根室は受け入れできる状況ではありませんでした。
当時すぐに受け入れられる体制が整っていたのは、大学病院のようなところだけだったのではないでしょうか。根室には感染症の病床はありましたが、使ったことはなかったという話でした。どこもどうしたらよいかわからなかったと思います。不安で対応が遅くなってしまったということはあったと思います。
感染管理認定看護師の資格をもっているとお聞きしました
感染管理認定看護師※3の資格を授与されたのは2020年です。試験勉強をしながらコロナのための対策とシステムを整えていたので、大変だったのを覚えています。試験も感染拡大の影響で延期が続きました。この資格を持っている看護師は釧路にはたくさんいらっしゃるのですが、現在、根室管内では私だけになります。過去には1人いましたが、その方が辞められた後、対策室を引き継ぎました。あまりにも専門性が強すぎて応えられないことが多かったので、資格を取ることにしました。コロナがあったからではなく、感染症対策をおこなう上で必要だったからです。一度病院を辞めて資格を取ろうとも思いましたが、病院側もフォローしてくださったのでがんばれましたし、勤めながら試験を受けることができました。
地域でも感染者が出るようになりました
これまでに100人近くの患者さんを診たと思います。町立病院には約90人が入院しました(※取材時)。自宅待機の場合は、保健所の方が毎日連絡をして、何かあった時には病院で対応していました。自宅待機の方が7日間経過しても、痛いところがあれば痛み止めを出し、苦しい時には病院に来てもらってレントゲンを撮ったり採血をしました。この地域は、都市部で感染者が増えてから大体3~4週間後に感染者が増えて来ます。重症の方はさらにその後で増えていきます。世間から1ヶ月ほどずれて増えてきます。
ゴールデンウィーク明けとお盆の帰省で増えました。年末からも全国的に増えており、中標津町でも1月6日以降爆発的に増加しています。
多い時でどのくらいの患者さんを診ていましたか
外来自体は10人ほどで、入院は最大13人です。もう少しで満床となる時は、保健所が根室や別海に入院できるよう頼んでくれました。
陰圧感染隔離室はコロナの感染拡大が始まる前から、結核の患者さんが来た時に隔離入院できるところがないので導入を検討していました。高額なので導入を先送りしていましたが、今回コロナの関係の国から補助金で、導入することができました。最初に4床、2021年3月頃に空床となっていた部屋に6床を増やして10床にしました。ところが5月連休ぐらいに再び感染者が増え、病院に入院することができなくななり、自宅待機になってしまう人もいらっしゃいました。
病院側の判断ではなく、保健所が対応してくださいました。10床でも足りなかったこともあり、16床に増床しました。
家族で入院できるようにしたことはよかったと思います。家族の中に赤ちゃんがいるご家族もいらっしゃいました。お父さん、お母さんが大丈夫でも赤ちゃんが感染したら当然入院しなければいけません。お母さんとお父さんの感染でも赤ちゃんも入院になります。最終的には病床は20床になりました。
外来の抗体カクテル療法をするときは、30分は隔離された状態で点滴をしなければいけません。普通の外来では場所がないので、この病床に来てもらい、様子を見て大丈夫なようであれば帰ってもらうようにしています。
どのような治療を行っていましたか
最初は治療法もなく、抗菌薬を出したり対症療法をおこなっていました。
インフルエンザで使用するアビガンという薬があるのですが、容量を増やして飲むと試験で効果があったから使用してもよいという話を受け、アビガンを使用していました。効いているのか効いてないのかはよくわからない状態でした。やはりインフルエンザと同じで早期に抗ウイルス薬を飲ませなければ、飲んでも効き目はよくわかりません。
それぐらいしか方法がなくて、その後も様子を見ながらの状況でした。5月の連休の時に肺炎がひどくなってしまった人がいらっしゃいました。その時、初めてエボラ出血熱に使う点滴をその人に投与して治療しました。本来エボラ出血熱の薬は日本にはありません。私もそんな薬?と思いましたが、国で認証されている薬でしたし、院長先生がこれも抗ウイルス薬だからと国が保管していたものを送ってもらいました。5日間点滴したところ、症状が改善され「ものすごくよくなりました」と言って退院されました。よくなったと言っても息切れしながらの状態ではありましたが、そのあと無事社会復帰しました。
薬を肺炎の治療に使用することで早期に症状を緩和できるようになりました。院長の方針は、これ以上悪化させないことを目標に、大した症状でなくても早期に治療をおこないます。新型コロナウイルスは1週間ほどで突然悪化します。悪化すると看護師の手も必要以上にかかります。患者さんも辛いですし、治りが悪くなってしまうと、病床も埋まってしまいます。悪循環になるので先生方は早期治療を徹底しましょうとこれまでやってきました。
厚労省の診療の手引きができてから、治療方針のフローチャートに沿って治療をしてきました。
薬の用意や治療は全て院長の指示でおこない、検査室や院内の薬局などチームで活動することができました。
以前から感染対策チームがありました。検査技師・看護師・薬剤師・記録をとってくれたり他の病院と連絡を取ってくれる事務と、医師が入っているチームがあり、協力しあって治療にあたることができました。
PCR検査が実施できるようになる前は、当院にLAMP(ランプ)という検査方法があったので、早期からおこなっていました。その後、抗原定量検査も増やし、抗原定性検査も増やしていきました。薬局もアビガンを入手するため、大変な中で尽力してくれました。届出など素早く対応してくれましたので、入院されたいた方は恵まれてたと思います。札幌のような非常に多くの感染者を診なればいけないところでは入院すらさせてもらえないので、すごく苦しい状態で2週間ほど過ごさなければなりません。
自宅待機になった方の中にはまだ手がしびれるという方はいらっしゃいましたが、退院してから後遺症で辛いという患者さんは今のところ1人もいません。やはり早期治療をおこなうことが大切だと思いますし、入院できることでも安心できると思います。
カクテル療法は7月19日に特例承認されてからすぐに使用しています。8月に来た患者さんで外来治療が可能な方にも使用しました。
ただ、これもすぐに届かないんです。最初発注してから3日しないと来ないと言われました。7日以内に使用しましょうとなっている上、発症してから2~3日経過後に感染したことがわかるのに、その後3日もかかったら意味がありません。病院同士で取り合いになって、在庫を抱えたら治療したいときに使えなくなる人が出かねないと、いまだ国で管理しています。自由に買えない薬を使用しているんです。
治療の内容よりも、感染しないためにはどうしたらよいのかを考えることが大事だと思っています。感染してからは病院で対応します。ですが、病院で治療しなくてもいいように、辛い思いをしなくてもいいように感染予防をしていただけたらと思います。
検査はずっとやっているのですが、陽性者は10月を機にいません(※取材時)。最後の方はワクチンを接種していない方でした。ワクチン接種の強制はできませんし、確かに副反応はあります。正直私も打ちたくはないです。ワクチンを打つことで辛い思いはしたくありませんが、ワクチンを打てば少なくとも当院では重症化した患者さんはいらっしゃいません。ワクチン接種はしておいた方がよいと思います。
ピーク時はどのような状況でしたか
新型コロナウイルスが流行り始めた頃は、看護師の中にも危険な仕事をしたくないという方がいました。もともと防護服については教育されています。それでもやはり未知なものに対しての不安があり、それが怒りになってしまいます。反発する方もいました。でも、今では外来の看護師さんたち全員が検査をできるようになり、安心して任せることができるので、私は発熱外来に直接関わらないようになりました。
コロナ病床は管理職で回しています。当院はまったく使っていない病床をコロナ病床にしています。外来もあり、一般の全ての病床をフルに使っているので、看護師は余っていません。課長や部長までが土日祝日も対応していますし、ずっと電話も持ち歩いて、家でも電話を受けて呼ばれたら病院に来たりしています。医者も土日病棟が終わった後に来てもらい、中には入りませんがリモートで応診したり発熱外来の患者さんを診てもらいます。
入院に関しては、普通病棟の看護師さんはコロナに直接は関わらずここまできました。ですが全く関係ないわけではありません。一度検査をして陰性であることを確認しても、何か症状や検査結果に気になるところがあれば隔離してすぐ再検査します。お産でも発熱があったらドキッとしますし、面会を禁止しているので旦那さんに付き添ってもらえないという状況もあり、看護師が背中をさすってあげたり付き添ったりしています。一般病棟でも患者さんをコロナから守らなければいけない状況です。クラスターを起こさないためにも、みんながフェイスシールドをして作業しています。看護師が濃厚接触者になって仕事を休むことになると大変です。看護師が感染しないための対策をとってます。
コロナ禍でも他の感染症はありましたか
たくさんありました。病院の中で怖いのはまず耐性菌です。薬剤耐性菌の監視やインフルエンザもそうです。インフルエンザは流行らなかったので良かったです。
ほかにも人にうつすような菌やウイルスがありますし、感染すれば隔離することになります。ただ、麻疹や結核、水痘など感染力が強いものしか空気感染はありません。それ以外の感染症は普通の病床で個室にして、看護師が手を洗い、エプロンをつけ、マスクをすることで伝播しないので、対策を取らせています。
最初の頃よりも入院日数が短くなっています
感染性がなくなるまで10日間の入院でしたが、その縛りがなくなりました。病院に入院して抗体療法をすることが条件でしたが、症状がなくなり、悪化しない状態になった方で家で隔離できる環境があれば退院できるようになりました。次から次と患者さんがくるので、症状が重い人が入院できるように、ベッドコントロールできるようになりました。
コロナは感染初期にウイルスが出ているので、5日もすればかなりウイルスの量が減っています。よほど濃厚接触しない限り、人にうつさなくなります。ピークは発症前2日、発症後緩やかに5日ぐらいまでで、発症した日がピークです。今日熱が出て、具合が悪いという日が1番ウイルスが出ていると思います。発症前に人にうつしてるかもしれない不安があるので、いつも以上に気を遣って対策をしてほしいと思います。
コロナ禍で思うことはありますか
みなさんすごくがんばっていたと思います。町民のため、もしくは国民のために私たちができることはきっとまだあります。病院間の連携は、うまくいっていないことが浮き彫りになりました。せめて看護師だけでもつながっていたらよいと思いました。保健所の計らいで他の病院の看護師とZoomで会議をしたり、交流をするようになりました。町の病院は儲けるための病院ではないので、未曾有の事態があったときに動けるようにしなければいけません。お互い協力し合えるよう、もっと連携をとれるとよいと思います。
(取材/2021年12月23日)
※1 感染症指定病院=感染症指定医療機関
感染症予防法で規定されている感染症の中で、危険性が高く特別な対応が必要な感染症の患者を治療する医療施設。特定感染症指定医療機関4医療機関、第一種感染症指定医療機関56医療機関、第二種感染症指定医療機関351医療機関(令和2年10月1日現在) 。
※2 CDC
米国ジョージア州アトランタにある疾病対策予防センター。アメリカ国内・国外を問わず人々の健康と安全の保護を主導する機関で健康に関する信頼できる情報の提供と、健康の増進が主目的としている。
※3 感染管理認定看護師
日本看護協会が認定する、専門看護師、認定看護師、認定看護管理者の3つの資格のうちのひとつ。教育機関は全国で8教育機関(2021年4月現在)。