「コロナ禍」における認知症の人とその家族に及ぼす影響について③
医療法人 樹恵会 石田病院
院長 石田 康雄
令和2年の春以降、新型コロナウイルス感染症の影響で、社会生活が一変し、経済活動をはじめ多方面で重大な影響を受けております。「with コロナ」と表現されているように、「終息」ではなく「収束」ということで、元の生活に戻るということは当面は困難と思われております。たとえワクチン接種が行われたとしても、常にコロナを意識した生活様式を継続あるいは修正していくことを私たちは与儀なくされるのではないでしょうか。
福祉や介護の活動は、基本的に人とのふれあい、支えあいのなかで安心や信頼を紡ぎあげていく継続的な活動であるはずです。人との距離感としては、まさに「三密」があたりまえに受け入れられてきたと思いますが、この「三密」 とは全く相反するソーシャル・ディスタンスが前提となる社会に変わってしまいました。人間としての尊厳を保つということを基本に自分らしさを尊重するという生活様式は二の次となり、私たちはコロナと折り合いをつけながら日常生活を送ることを戸惑いながら(工夫しながら)活動しているのではないでしょうか。
コロナ禍によって、認知症の悪化、BPSDの悪化、虐待の増加、さらに施設ではクラスターの発生、そして多数の入居者が犠牲になっている現状があります。この感染症が長引くほどまさにパンデミックの状況になっています。これらを解決する方法は、ワクチン接種しかないのかもしれません。はやくワクチンによってこのコロナ禍がおさまっていくことを願うばかりです。それでもなお忘れてはいけないことは常にコロナを意識した生活様式を継続していかなければならないということと、どのように折り合いをつけていけばよいのかだと思います。
さて今回は、行動・心理症状(以下 BPSD)について説明していきたいと思います。BPSDは、認知症の人のQOL(Quality of life、「生活の質」)を下げ、介護者が疲弊する原因となるため、的確な診断と対応が求められています。繰り返しになりますが、BPSDは、認知機能障害(中核症状)を基盤に、身体的要因 (発熱や疼痛、薬剤など)、環境的要因(不適切なケアなど)、心理的要因(性格など)などの影響を受けて出現し(図1)、 様々な症状を呈します。「認知症の人」に必ずみられる症状とは限りません。国際老年精神医学会によると、BPSDとは、「認知症患者に頻繁にみられる知覚、思考内容、気分、行動の障害の症候」と定義されています。
行動症状としては、焦燥性興奮、攻撃性(暴言・暴力)、不穏、徘徊、脱抑制などがあります。心理症状としては、不安、 不眠、抑うつ、幻覚・妄想などがあります。
BPSDにはいろいろな分類が知られています。
(A)国際老年精神医学会による分類(表1)
①よく見られて介護者を困惑させるが比較的対処しやすい症状として泣き叫び、ののしり、無気力(アパシー)、繰り返し質問、つきまとい(シャドーイング)。
②しばしばみられ処置に悩まされる症状として誤認、焦燥、イライラ、逸脱行為、性的脱抑制、部屋の中を行ったり来たりする、易怒性、喚き声。
③最も厄介で対処が難しい症状として幻覚、妄想、抑うつ、不眠、不安、攻撃、徘徊、不穏。
以上でBPSDの分類について、前半の説明をおわります。次回、後半の説明をしたいと思います。
医療法人 樹恵会 石田病院
院長 石田 康雄
昭和59年 埼玉医科大学卒
平成元年 埼玉医科大学大学院卒 学位取得
平成2年 飯能市立病院 副院長
平成3年10月 石田内科医院 副院長
平成11年1月 医療法人樹恵会 石田内科クリニック 院長
■専門医など
日本内科学会認定医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本東洋医学会漢方専門医、日本人間ドック健診専門医、日医認定産業医、日医かかりつけ医制度研修終了、日本温泉療法医
■認知症関連
平成27年 認知症サポート医
平成30年 認知症初期支援チーム
令和元年 日本認知症予防学会専門医