郊楽苑の経営を語る。

郊楽苑の経営を語る。

赤字経営だったふるさと交流館の運営を引き継ぎ
厳しいながらもサービスを提供し続けた真意と
突然の町直営への宣告。
12年間の軌跡とその内情を聞く─

株式会社郊楽苑 代表取締役社長
藤代 幹良 (ふじしろ みきよし)


第三セクターから民間、そして再び町の直営へ
─ふるさと交流館(郊楽苑)運営 12年間の軌跡

なぜ第三セクターだったふるさと交流館の経営を始めることになったのでしょうか。

 当社は、平成21年から賃貸契約で5年間、指定管理者として6年間、ふるさと交流館の運営をおこなってきました。

 町から直接聞いたわけではないので、あくまで僕が思うところですが、ひとつは町民の憩いの場としての福利厚生の建物であるということ。もうひとつは経済活性の一助になるための建物であること。この施設の目的はこの2つだと考えています。

 12年前、僕はあるホテルで総支配人として経営に携わっていましたが、その後別な会社の支店長をしていました。その頃ある方から、ホテル経験があるからこの施設を買わないかとお声がけがあり、当時の町長にお会いしました。

 値段を聞くと2,000万円だということでした。しかし毎年の固定資産税が2,000万円かかると。毎年その金額を払い続けるのはさすがに難しいと思いましたが、一応検討するだけしてみようと思いました。

 話を聞きに行ったときには書類は一切用意されていなかったので、町に決算書を見せて欲しいとお願いしました。最初は渋られました。第三セクターとして町はもちろん、町内の各団体や銀行が出資しているわけです。それでも見せてほしかったです。もし買うとすれば、採算が合うかどうか事前に計算しておきたいですから。

 いずれにしろ固定資産税が高いので、買えないことを伝えると、施設を貸すので運営してほしいという話になりました。月の金額を聞くと年間150万円でよいという話です。その時点で渡されたのは、決算書ではなく試算表でした。その試算表を見ると売り上げが約2億円ありました。多い時で約2億6千万円、徐々に落ちていって一番落ちた平成20年度でも約1億3千万円の売り上げです。その時点で僕は疑うべきだったのかもしれません。しかし、その試算表を見てざっと計算したところ、約1億2千万円の売り上げがあれば赤字にならない、これであれば大丈夫だと当時の僕は判断しました。そこで当時の町長と副町長にできると思いますと伝えました。

 町民からはいつ再開するのかと言われていたようです。お客さまにもいろいろな方がいらっしゃいますし、必要としている方も多くいらっしゃいます。そこですぐ営業を再開してほしいということでした。色々準備もありますし流石にそれは難しかった。お話をいただいたのが5月か6月です。しかも改装をしなければいけませんでした。そこで約7千万円ほどかけて改装し、施設をきれいにしました。10月にグランドオープンで進めていましたが、温泉は急ぐだろうと思い温泉だけ9月から再開しました。

 ここの施設は宴会場がひとつ。宿泊が12室、レストランがひとつ。採算が合うわけがなかったんです。しかし、町民のための施設ですし、後継者不足を解消するための交流施設でもあったはずなので、良しとしたのではないかと考えています。実際多くの方の結婚が成立していますので、その記念の施設でもあります。ロビーには記念碑もあります。

 そもそも採算が合うとか合わないとか以前の話だったのでしょう。また、元々地元にあった宿泊施設をこの施設が圧迫することがないように配慮したために、このような規模の施設になりました。そもそもホテルとして考えると、2階にレストランがあるのも間違えていると思います。

運営がはじまってからの経営はどのようなものでしたか?

 最初は色々やりました。バイキングもやってみました。やはりお客さまには喜んでほしいですし、何より経営ですから赤字にするわけにはいかない。しかし、1年間経ってみると、売り上げが全然予定には届きませんでした。バイキングは連日多くのお客様に利用していただきました。もちろん温泉も利用していただきました。 

 ところが、1年運営をした結果約9千万円しか売り上げがなかったはずです。ほぼ満度にお客様は利用してくださった。では試算表にあった1億4千万、2億はどこから出てきたのか、町長と副町長にそのことを話しました。すると、当時の担当者に頭を下げられたんです。なんとか勘弁してほしいと。話を聞くと以前は自衛隊が利用していたが、演習後にそのまま温泉に入りにきて汚いと町民から苦情があったので中止にしたということでした。

 正直コミュニケーション不足だったと思います。僕もまさか町のような公の方から嘘や誤魔化しがあるとは全く思っていませんでした。でも正直に教えてほしかったと思います。いまさら言われてもすでにはじめてしまっていました。改装もしましたし、設備投資もしました。すでに運営から手を引く判断ができる段階は過ぎていました。

 その後、第三セクターではないけれども、指定管理者制度があるからすぐにでも切り替えたいという話が町よりありました。すぐにと言われ5年間待ちました。そして指定管理者制度に移行しました。

 5年間、毎年3~4千万円もの赤字の状態で経営しました。3千万円としても5年間で1億5千万円の損失。それは全て自己負担です。しかも当時は賃貸契約です。本来は改装などにかかる費用は大家である町が負担すべきだったはずです。さすがにそれを伝えたところ、約7千万円かかったうちの4千4百万円は負担してくれました。

指定管理者制度に移行後、どのような経営をされてきましたか。

 職員には、「指定管理制度という形で船出することになった。けれど今うちには潤沢な資金があるわけではなく、大変な思いをさせるかもしれない。それでもいつか日が登るときまで手を携えてがんばろう」という話をしました。職員のほとんどは別海町民です。町のこの施設のために安い給料しか出すことができませんでしたが、身を粉にしてみな非常にがんばってくれたと思います。

 福利厚生だけでもしっかりとしようと思いましたので、ごはんはホテルで食べてもいいことにしました。シェアハウスを用意して、遠方からきた方には住むところも用意しました。もちろんそれだけではありませんが、考えうることはしたつもりです。

 指定管理者に移行した際に、指定管理料として約3千2百万円受け取ることになりました。

 後に役場から、過去の売り上げや損益がわかる表をもらうことができました。第三セクターの頃は最低でも5千万円、一番高い時で1億円が町から支払われています。それだけの赤字で20年間経営を続けてきたわけです。表をよくみると人件費も非常に高かったです。現在のうちの人件費の約3倍近く。官と民の違いがありますから人件費に違いが出るのはわかります。そこではなく、それだけ人件費を圧縮できたということです。他の経費に関しても同様です。そのこともあって後に指定管理料は3千8百万円に上げていただくことができました。税抜きです。その金額でこれまでやってきました。
そもそものこの施設の目的があります。自社で損失が出たとしてもその目的のためにやってきました。

数々の商品開発をおこなってきたのはどういった理由からでしょうか。

 以前、お土産になるものを何かつくってほしいと、前水沼町長から言われたことがありました。どんなものがよいのかを聞くと、農業や漁業の一次産業の町だからそれに関連したものがよいということでしたので、酪農の方向で考えてみました。そこで出た案はチーズを作ってみてはどうかということでした。しかしチーズはメーカーをはじめ農家さんも独自に作っているものがあります。しかし、作られているのは全て日本で一般的なウェットチーズです。

 それであればドライチーズを作りましょうという話になりました。輸入物はありましたが、この地域ではドライチーズはまだ作られていなかったので商品化を進めました。

 それが「ショートチーズ」です。作るにあたって地元の牛乳を消費しなければ意味がありません。この話を聞いた当時の道銀の支店長が、何度かこれはとてもいい牛乳だから使ってみて欲しいと持ってきてくださいました。しかし、最初は脂肪とタンパク質が分離してしまいなかなかうまくいきませんでした。最後に持ってきてくださった牛乳でやっとうまくいきました。

 完成した商品を評価してもらう必要がありましたが、今まで日本にはなかった商品ですからなかなか評価するのが難しかった。

 そこで、ある北海道大手の会社の取り計らいで、北海道大学のヨーロッパやアメリカをはじめとした11か国の留学生をたくさん集めてくださって、そして試食してもらいました。その中でも興味を持ってくれたのはチーズの食文化が長い欧米の留学生でした。混ざりけのない純なもので、素晴らしいドライチーズだと評価してくれました。今まで日本国内で食べたドライチーズの中で最高だと言ってくれた学生さんもいました。それで商品化に踏み切りました。

 すると全日空さんやJR東日本さんなどいろいろなところからお声がかかり取り扱ってくださいました。このドライチーズの商品化は随分と施設の売り上げの補填に貢献してくれましたし、前町長は非常に喜んでくださいました。今後、別海町をどういった方向の道へ進めるべきなのかを考え、導こうとしていた方だったと思いますが、商品開発に成功したすぐ矢先にお亡くなりになりました。ほかにもジンギスカンや化粧水など様々な商品を開発し、その売り上げで施設運営のために補填してきました。

 他の自主事業をしているのに、とよく言われますが、企業としてはグループ会社であり、別の会社です。そこの売上からこの施設の赤字補填を行なっていました。

来年度より町の直営になることについてどう思われていますか?

 今自治体に求められているのは、目的をきちんと持って自活ができるかどうかだと個人的には考えています。実際道内にもそれで財政難を乗り切ろうとしているところが多くあります。

 そのひとつがふるさと納税だと思います。ふるさと納税による金額が半端ではない自治体があります。桁が違います。近くですと根室市や白糠町です。根室市にいたっては一昨年には60億円はあったと思います。ふるさと納税に関しては賛否両論ありますが、それを利用し町の財政を健全化しようと考え実行するのは方法のひとつだと思っています。

 町自体が自分で稼ぐという考え方を持つことが今後の自治体のあり方のひとつだと思います。3割自治と呼ばれてしまうような財政状況の自治体は全国に多くあります。国の地方交付税などを当てにしても、今後立ち行かなくなる時期がいつかきます。ただでさえコロナ禍での町政は非常に大変だと思います。こんなときだからこそ本気で自活することを考える時期がきているのではないでしょうか。

協議会の場を設けられないことについてお聞かせください。

 昨年の9月に指定管理者制度を次年度より停止する旨の通知が届きました。
 町側でこれまでの経緯をどこまでご存知かはわかりませんが、この指定管理料を削減するために指定管理者制度を停止するということでした。

 しかし、過去第三セクターでかかっていた億単位の経費を3,800万円の指定管理料にまで 圧縮したこと、そして数年後には指定管理料なしでも運営できる目処が立ったことをもっと評価してほしかったです。

 何より一方的な通知ではなく、協議の場を設けて欲しかったです。企業も職員も町の建物を管理するためにある機械でも歯車でもありません。もういらないから捨てようでは済まされません。

 当社としては、今までがんばってきた職員を手放さなければいけません。株式会社郊楽苑の事業そのものがなくなるわけですから。こういったコロナ禍で職を失うわけです。今まで必死に町の施設のために働いてきた職員です。もちろんそのような事態にはしたくありません。

 9月の通知後、協議の場を設けてほしいと再三申し入れをしてきましたが、全て拒否されています。これまでに申し入れは3度おこなっています。

 1度目の申し入れは10月22日付で提出しました。事前の協議がなかったことや報道から得た情報から今回の措置に及んだと認識したこと、町民アンケートでは回答のあった約6割が存続を望んでいること、従業員の整理解雇をおこなわなければならないこと、そして数年後には指定管理料が0円になる見通しが立っていることなどを記載しました。

 10月30日付で回答があり、管理運営には感謝しているが老朽化によりかかる費用が膨らんでいる上、営業にも支障をきたすことが申し訳ないので、期間満了をもって終了し、協議会は開催しないとするとのことでした。

 2度目は11月17日付で再度協議の申し入れを提出しました。協議を行わないのは不誠実であること、ふるさと交流館の管理のほかにも当社が自主事業を行なっているのは赤字補填の目的もあること、またそれを町議会でまるで自主事業を行なっているにも関わらず、町の予算を使って赤字経営をしていると答弁したこと、過去かかっていた経費を圧縮した上での現在の指定管理料であることを評価されていないこと、雇用に関しても町は一切関係ないとする趣旨の回答は理解できないことを記載しました。

 11月27日付の回答書には、感謝はしているが従業員のことは町としては何も言えない、指定管理の方針は町が決めることであるとだけありました。

 12月2日付で3度目の協議の申し入れを行いました。指定管理に関する基本協定書に、条件や内容が変化する場合は双方で協議する旨が決められていることを記載し、拒むことは基本協定を守っていない旨を記載して提出しました。

 12月11日付の回答では、あくまで決定権は町にあること、そして雇用に関しても町が関与することではないこと、そして基本協定の違反には当たらないとのことでした。

 これまでの経営に関しても役場の方と協議したことはほとんどありませんでした。個人の方々は流石に把握できませんが、町でこの施設を利用することはほとんどありませんでした。町の施設なのにです。そして今回も協議をしない姿勢を貫かれています。

 こういう事態になったことは非常に残念でしかありません。提携や委託など、双方があって成り立っている事案は必ず何かしら協議の場が設けられるのが当然です。新年度も公募が行われ、当社が指定管理者から外れてしまうのとは内容が異なります。あまりにも一方的なので、1月20日付で弁護士を通して書面を送らせていただきました。あくまで協議と交渉をおこなってほしいこと、拒むことは不当であることを伝えるためです。

 まだ町からは回答がありませんが、基本協定には疑義が生じた際や協定で定められていないことが生じた際には協議の上で決定する内容が書いてあるのです。

 本意ではありませんが、もう町の姿勢は変わらないのだろうとは思います。しかし、そうだとしても協議の場は設けるのが普通です。お互いで話し合いをおこない、運営や経営に関するさまざまな事案を決めるのが、当然のことです。
 もう2月になってしまいましたが、誠実な回答があることを期待しています。