福祉施設取るべき行動を
近隣の施設とともに模索。
クラスターを施設で起こすわけにはいかない。
交錯する情報に振り回されながらも対策と対応に追われた
福祉施設の苦悩とこれからを聞いた。
インタビュー:大内 哲也(おおうち てつや)
社会福祉法人 標津福祉会 法人本部 施設長
コロナによりどのような影響がありましたか
一度新型インフルエンザの時にも経験しているのですが、その時はおよそ半年くらいで通常に戻ったと記憶しています。通常のインフルエンザは例年11月後半からひどい年で3月いっぱいまでで、一時的に面会禁止にし、職員もその時期は手洗いうがいなどをおこなうなど気をつけて対応しています。しかし、新型コロナウイルスがまさかここまで大変なものだとは思っていなかったのもあり、最初はほぼインフルエンザの対応と同じようなイメージでの状態から対応は始まりました。
普通ではないと気づいたのは、マスクが手に入りにくくなり、いつも通りに買えなくなったあたりです。これまで職員のマスク着用を1年を通しておこなったことは今までありませんでした。夏だと暑いので、職員が脱水になる恐れもあります。感染症が流行る時期、インフルエンザやノロウイルス、O-157が流行った時にもマスクの着用、手洗いをおこなうよう指示を出していましたが、今回は1年通してマスクをする状態が続いています。
今まで体験したことのない感染症ですから、すべてにおいてどこまで対策を講じればよいのかわかりませんでしたし、その対策にしても継続できないことには意味がありません。高齢者が利用する福祉施設に勤めている職員として一般の人以上に、また、違った気のつけ方をしなければいけなかったので、非常に大変だと思います。
緊急事態宣言で学校が休校になりました。それに伴い児童館やこども園も休みになりました。どこにもお子さまを預けられない状況です。職員の中には小さなお子さまがいる方も多くいますので、仕事に来れない職員が出てきて、一気に人員不足になりました。
新型コロナウイルスの感染の流れは完全に未知のものだったのもあり、デイサービスなど通所の施設は利用人数を1日25名から15名の利用に制限をしたり、週2回、週3回利用していた方には週1回の利用に制限。また、利用を一時停止にしたりしました。徐々にどういうものかが知られて、どういった対策を行うのがいいのかが少しずつではありましたが、徐々に通常の利用になってきました。毎日のように保健所がどう発表するのか、振興局別に毎日チェックして一喜一憂しています。
通常の利用といってもある程度感染予防のルールを守って利用していただく必要がありました。どうしてもクラスターが発生している地域からの家族の往来や宿泊、娘さんや息子さん、孫、ひ孫が来て利用者さんのところに泊まるなどの事態がでてきます。申し訳ないとは思うのですが、通所の利用の方には健康観察期間としてご家族が来た日から一定期間は毎日熱を測っていただき、なんともないようであれば期間完了後から利用してもらうようにしていただきました。
施設は利用者が生活しているところです。職員の中にはご家族を定期的に病院に連れて行かなければいけない人や、自身が釧路の病院に行かなければいけない人などもいます。いくら釧路の病院でクラスターが出ているとはいえ、一定期間仕事を休んでもらうことは、人材不足でなかなかできないという状態でした。
年末年始の時も職員ご家族が札幌や東京などにお子さまが専門学校や大学、就職していらして年末年始に帰省したいという話になります。もちろん強制はできませんが、できれば違う時期に来てほしいことをお願いすることしかできない状況でした。また、職員の方の他地域からの出入りが分かっているのであれば、PCR検査は自費で受けることができるので、それで陰性かどうかを確認していただきたいともお願いしました。
職員にもいろいろな方がいるので、自ら気をつける職員もいますし、他の職員に来ないで欲しいと考える職員もいます。どうしてもお子さまや親戚が地元に来る職員とは意見が分かれるような状況でした。
そのたびに私としては通知やお願いという形をとる必要がありましたし、そのことでの職員のストレスも大きいものでした。私への風当たりもいつも以上に大きかったと思います。
どのような対策を取ってこられたのでしょうか
もともと感染症対策自体はこれまでもおこなってきたこともあり、昨年の新型コロナウィルスが話題になりはじめた頃は正直悠長に構えていたところがあります。しかし、根室で感染者が出ました。また、高齢者の死亡率が高いという情報が出はじめ、これはいつもとは違うとその対策を模索しはじめた頃、昨年の2月に医療(標津病院)と行政(保健センター)を交えて協議し、人の出入りや感染予防などを一気に進めなければいけないという話になりました。
厚生労働省や道から対策に関しての指針はきます。しかし、このような取り組みをしてほしい、気をつけて欲しいという旨の指針だけであって、あとは各事業者の判断になります。
うちは老人ホームもあれば、ショートステイ、デイサービスもあります。もし利用者が感染するとすれば、家族の面会は禁止にしていますので職員か通所の利用者、ショートステイ利用者、どうしても出入りしなければいけない業者さんです。皆さんに協力していただいて、施設に入る前に検温してチェックをさせていただいています。利用者さんには利用しない日でも1日1回は検温してもらうようにしています。今では我々職員だけではなく、利用者の方の意識もずいぶん変わってきたと思います。
ホームでも基本的には重体な方以外は面会禁止です。仮に医者から宣告を受けて、会わせてあげてくださいという時はベッドサイドまで行くことになるのですが、予防衣やフェイスシールドなどを着用していただいて、他の元気な利用者さんに感染しないよう注意を払っていただくようにしています。
元気な利用者さんは面会中止ですから、ご家族に会えないことでどうしても不安になったり、ストレスを感じてしまいます。幸いIT関係の導入に関して医療機関や福祉施設に対して国から助成金が出ましたので、どうしても声が聞きたい、顔が見たいという方へ少しでもご家族とお話しをしていただけるようタブレットを購入し、画面を通して面会できるようにしました。
また、入苑されている方のストレスの要因のひとつとして買い物ができないことがあります。今まではカウモン号という商工会で運営している販売車が来ていたり、町のお店の方にちょっと来てもらうということがあったのですが、それが一切できなくなってしまいました。
また、多くのボランティアの方が集まって行われる行事も1年間一切できませんでしたので、人との交流も少なくなってしまいました。こども園のお子さまたちに発表会のお遊戯を見せてもらうこともできませんでした。今はお互いに気をつけていかなきゃいけないので仕方ないことではあるのですが。ただ、発表会の時の様子を撮影したDVDをもらったり、窓越しでプレゼント交換したりすることはできたので、多少は利用者さんに喜んでいただくことはできたかなと思います。
施設の運営を維持するためにどのような工夫をされていますか
老人ホームに関しては感染対策以外、大きく変わることはなかったのですが、デイサービスセンターなどは利用の制限を設けましたし、利用者さんの中には自主的に利用を控えている方もいらっしますので昨年と比べると大幅に落ち込みました。
そういった面での行政からの措置は今のところありません。一般のお店や企業と一緒で、国の持続か給付金のみです。しかし、前年度と比較して50%以下になった月はありませんでした。
そうはいっても大幅に落ち込んだことには違いありませんし、通常ではない状態で職員にもずいぶん無理をさせた面も大きく、ご家族にご理解いただくのも難しい状況です。今回の新型コロナウィルス感染拡大の影響で、利用者さんを放っておいてレベルが落ちたとか言われてしまった施設も実際あったようです。そうなると事業所として存続できなくなってしまいますので、利用者さんに対しても、職員に対してもそうならないよう努力は続けたいと思います。
ただ、標津病院や行政とも連携しているので、情報やアドバイスは早くに入ってきます。また、物資の確保に関しては優先的に動いてもらいました。まずマスクの確保が難しくなり、次に消毒用のアルコール。現在はニトリルグローブという、食事介助でもおむつ交換でも必ず感染予防のため使用する使い捨ての手袋が手に入りにくくなっています。一年前と比べると値段も3倍になっています。使い捨てにするものなので、ないと非常に困ります。
他地域の施設ですが、感染してしまった利用者がなかなか入院ができずに施設内で療養していたところ、大量の感染者と死亡者が出たことがありました。退職者や離職者が多く出たところもあります。基本的には指定の医療機関に陽性者は入院するという形にはなっていますが、この地域でも感染者が増えて自宅療養の方が増えるような事態になれば、同じような事態が起こらないとも限りません。高齢者は指定医療機関に入院をすることができるようになればと思います。地域の保健所や行政の判断・指揮になってくると思います。
人的な支援という部分でも、都会のように多くの施設がある地域ではありません。お互いの施設間で人材を回すことも難しいので、今いる職員でがんばるしかありません。経営状況も厳しいのは確かですが、なんとかこらえることができる状態です。どうすれば利用者さんに以前と同じサービスの提供をし続けられるかどうかが今は最優先だと考えています。
コロナ禍の前から、介護職員の人材不足は全国的に問題になっています。この地域でも、常に人を探しているような状況です。それプラス今回のコロナの影響で人員の確保が非常に難しくなっています。コロナだから辞めるという人は今のところいませんが、もともとの人材不足で疲れているところに、今回のことで色々と大変さがプラスされたことで職員は非常に疲れていますし、ストレスを抱えながら働いています。買い物や趣味まで気を付けなければいけませんし、ご自身だけではなく同居の家族に対しても気をつけてもらう必要があることも大きいと思います。
職員のモチベーションを保たなければいけません。多くの求人が出ていますので、いろいろな仕事に就くことが可能です。別に介護の仕事でなくとも、と考える方がいつ出てきてもおかしくはありません。職員の心に訴えかけるだけではモチベーションは保てないと考えていますので、それなりの処遇改善ができればと思います。
今後の課題と取り組んでいることはありますか
今後もこの状態は続くと思います。いざ感染者が出たとなったときに「根室管内」ではなく、せめてどこの町から出たのかを知らせてもらえればと思います。感染した方や濃厚接触者がどこにいるのかがわからないのはなかなか運営していく上で不安です。
感染者や濃厚接触者はだれなのかはもちろんなのですが、感染経路が不明という場合にもデイサービスやショートステイを止めるか止めないか判断する必要があります。もし標津町内で出たとなれば、最低でも1日は情報収集のために止めることになると思います。情報収集の後に問題ないと判断すれば再開することになります。
管内で感染者が出ると、いろいろ噂が聞こえてきます。出たという話がなくても聞こえてくる場合もあります。その噂に振り回されることが多いです。いろいろな方がいるので仕方がないのかもしれませんし、当然なことでもあるのですが、「こんな状況でもまだ施設をやっているのか」「なぜ施設をとめないのか」という方もいらっしゃいますし、職員の中でも濃厚接触者に対しての対策に関してそれぞれの感覚で意見を持っています。そこはきちんと知識として周知していかなければいけないと考えています。
特に職員には正しく判断して欲しいですし、そうでなければ施設として一度決めたこともなかったことになりかねません。噂に振り回されるのではなく、正しく恐れて、正しく対処できるよう施設としても職員に知ってもらう必要があります。
昨年、中標津町のりんどう園さんが音頭をとってくださり、根室管内1市4町のすべての福祉施設合同でウェブを利用した新型コロナに関する研修会が行われました。他にもさまざまな研修を行っています。昨年は札幌や釧路へ行っての研修はほとんどおこなわれませんでした。ウェブ研修会が増えていますので、職員が参加できるようにパソコンなど環境を整えました。
また、これだけいろいろなところでクラスターが発生しているので、自分のところでいざ感染者が出た場合を想定して対応できるよう準備しています。すでに施設の中を区切り、感染した利用者さんと他の利用者さんが接触しないよういつでもレッドゾーン、イエローゾーン、グリーンゾーンというように施設内を分け、さらにビニールなどで仕切りを作れるようにしました。
その際、事前に肺や心臓に病気がないか?基礎疾患はどうかなどアンケートを取りましたので、健康に問題のない職員を専属で配属することになります。ただ、やはり職員も怖いとは思います。実際そのような状況になった場合は、防護服を着て、テレビなどで見るような病院の処置室に近い状態になります。
現在、感染予防と感染した場合の2種類を並行して取り組んでいかなければいけません。今後も近隣施設同士で連絡し合って、どういった対応をしているのかを聞きながら国や道の指示にしたがって進める必要があります。