赤字経営からの脱出を図るために、抜本的な改革を続けてきた町立中標津病院も例外なく物価高騰の煽りを受けていた。
インタビュー:石垣 敏(いしがき さとし)
町立中標津病院 事務長
ここ数年、赤字経営からの脱出を図るべく、抜本的な改革を進めてきた町立中標津病院。コロナ禍の中、改善の方向へ向かっていた。しかし、物価高騰によってその経営はどのような影響を受けているのか。
物価高騰が続いていますが、病院にはどのような影響が出ていますか
電気代と灯油代の年間負担の増加額は、来年度の値上がりも確実なものとなり、5、000万円ほど負担が増えると思います。電気代は2年前と比べ、ほぼ倍となっています。重油単価も昨年から比べると1ℓあたり20円近く上がりました。12月に行われた議会で補正予算を組みましたが、さらに値上がりが続けば対処は難しくなります。
医療の材料費も値上がりしています。例えば、カテーテル1本にしても、輸入品は代理店や卸を通して仕入れますが、1・5倍〜1・8倍ほど値上がりしています。特に海外製品の値上がりは著しいです。円安や物流の混乱、輸送費の高騰などさまざまな影響が考えられます。
診療報酬は、令和元年の決算に比べ、令和4年度の見込みで6億5、000万円ほど増加しました。しかし、支出も4億円ほど増えているのが現状です。
診療収入における材料費率は、一昔前は10%台でしたが、現在は20%を超えています。通常であれば、診療報酬が伸びたら、材料もほぼ同じ比率で伸びていくのですが、材料費だけが伸びている状況です。
現在、当院では経営改革を進めており、収益が増えているのですが、経費が増えることで利益は減ってしまっています。
コロナ禍の中で、一般の入院患者数に変化はありましたか
入院患者は増えています。2022年9月から、入院患者数1日平均110床を目指すプロジェクトに取り組んでいます。各診療科ごとに目標数値を取り決め、内科で50人から、整形で38人など、各診療科の先生方の責任において目標設定しました。10月以降(9〜11月)は110床を上回る数値で推移していますが、入院患者が増える以上に、経費負担が増えています。入院患者を増やしていくことは容易ではありませんが、先生方の努力が入院患者増へとつながっています。もちろん、誰でも入院させてしまうようなことはありません。入院患者が増えていることは、病院経営を考える上ではありがたいことです。
経費の増加に対してどのような対策を取られていますか
経費削減に力を入れています。薬の卸値、材料価格の交渉などをおこなっていますが、卸売業者から入ってくる金額が上がっているので、ディーラーの金額ももちろん上がります。交渉しても下がる余地がない場合があります。
マスクなどは安い商品に変えることが可能ですが、体内に留置する材料やカテーテルは、先生方の指定もありますし、違う商品に変えることは使用する機械に支障が出るので難しい問題です。
医療費は、診療報酬が決められていますので、患者さんの負担は変わりません。消費税が10%に上がった際に、医療費には税金が織り込み済みであると国が取り決めましたが、織り込まれてるという感覚はありません。病院の持ち出しが増え、損をしている感覚です。業界が違っていてもどこも同じような状況ではないかと思います。
価格高騰の影響は、さまざまな業界に及んでいますが、ここまで上がることは想定以上です。
円安が病院経営に影響することを、初めて肌で感じました。今後、円高に為替が振れても材料費は下がらず、高止まりの状況が続くのではないかと思っています。今年、2年に1度の診療報酬改定がありましたが、公立病院に限らず、民間病院でも厳しいところがたくさんあります。
外来の患者数は、コロナ禍の前のような状況まで増えることは難しく、減ってしまった受診回数は、戻らないと考えています。
また、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが2類相当から5類に引き下げられると、補助金が廃止されることが予想されます。コロナ病棟は閉鎖するかもしれません。
現在、コロナ病棟を確保するため、国から補助金の給付があります。当院は20床を持っており、1床あたり7万1、000円の給付があります。2022年4月から9月までに、約2億7、000万円、10月以降も延長されましたので、5億円以上の給付が見込まれます。
経営の改革も進めつつ、一般会計からの繰り入れを減らし、令和元年度末は8億3、000万円あった借入金は、今年度末に解消できるかもしれません。しかし、収入は上がっていても経費が膨らんでいるため、今後も物価高騰が続くことで経営が立ち行かなくなる恐れは未だ拭いきれません。
(取材/2023年1月12日)
経営改革に向かうも、町立中標津病院も例に漏れず煽りを受け大きな支出増となっていた。国からの補助もなくなるため、その影響も大きい。しかし、約8億あった借入金は解消されるかもしれない状況だという。地域のセンター病院としての役割を担う町立中標津病院の新たなフェーズが、これから始まろうとしている。