認知症の医療と介護『人生100年時代』

認知症の医療と介護『人生100年時代』

「コロナ禍」における認知症の人とその家族に及ぼす影響について

医療法人 樹恵会 石田病院
院長 石田 康雄


新型コロナウイルスから命を守るためには

 糖尿病や心臓病、腎臓病などの基礎疾患がある人や、高齢者が新型コロナウイルスに感染すると重症化するリスクが高いと言われております。また認知症の人は基礎疾患を持っていることが多く、認知症の人やそのご家族は、不安を感じでいるのではないでしょうか。この新型コロナウイルスから命を守るためにはどうすればいいのでしょうか。

 新型コロナウイルスの流行により外出が減ると趣味等の集まりが中止になり、身体的、知的、社会的活動が大幅に減り、認知機能や生活機能が低下するとともに、行動・心理状態(BPSD)が悪化する恐れがあります。

 認知症の人は、感染予防のための自己管理が困難なため、新型コロナウイルスのへの感染リスクが高まってしまいます。そのため手洗いやアルコール消毒といった衛生対策は当然ですが、家族や介護者の感染予防も非常に大切となります。マスクをすることも重要ですが、かえってしないほうが、よい場合もあるかもしれません。それは煩わしさからマスクを必要以上に触ってしまったり、いつもの相手の顔をマスクで覆うことで認識できなくなって不安になったり、声がこもり聞こえにくくなり、理解ができなくなる可能性が高まってしまうからです。

また夏には、マスクをするころで熱中症のリスクがより高まることが懸念されています。

 新型コロナウイルス感染症の症状として知られている発熱や呼吸困難、嗅覚・味覚障害といった症状は、認知症の人には自覚しづらいことが知られています。そのために周りの人が早期に気づくことが大切です。気づくためのポイントは、食欲低下、ぼうっとしている、活気がないなど、いつもと違う様子を感じたら特に注意して観察する必要があります。

 外出を控えることで、活動長が低下しストレスや不安感が増してきます。このために認知機能の悪化や意識の低下、妄想、暴言、暴力などの症状もみられるようになり、介護者の大きな負担となってしまいます。このような症状の悪化を予防していくために、なるべくいままで通りの生活を続けるようにしましょう。密集・密閉・密接の3密を避けながら外へ散歩するなどの運動を転倒予防にも気をつけながら行いましょう。通所サービス、訪問介護、訪問看護、訪問リハビリなどの介護サービスも感染予防に注意しながらこれまでどおり継続すべきです。健康な方でさえストレスが大きい状況の中で、認知症の方やご家族は本当にご苦労されていることと思います。少しでも早くこの新型コロナウイルス感染症が収束するように患者さんやご家族だけでなく皆さん一人ひとりの協力が必要です。一緒に乗り越えていきましょう。

「認知症」の症状と分類

 それでは今回は、認知症の症状の続きを説明していきたいと思います。

 前回は認知症の症状について、脳の萎縮などの器質的な変化によって出現する中核症状と、これに随伴する症状として行動・心理症状(BPSD)(以下BPSDと略します)に分けて簡単に説明いたしました。

 今回は中核症状について症状を8つに分類(表1)して前半5項目について少し詳しく説明したいと思います。

「認知症」の症状

① 記憶障害

 記憶障害(もの忘れ)は、新しい情報を学習(記銘・保持)したり、以前に学習した情報を思い出し(想起)たりする能力の障害です。記憶障害(もの忘れ)には、脳の加齢変化によるもの(生理的もの忘れ)と認知症の症状によるもの(病的もの忘れ)があり、診療上鑑別を要します(表2)。高齢発症のアルツハイマー型認知症のほとんどは記憶障害で始まり、初期では記憶障害が主症状となります。記憶は記銘すべき内容や貯蔵する時間により分類されています(表3)。特にアルツハイマー型認知症では出来事の記憶であるエピソード記憶が障害され、意味記憶も徐々に低下していきます。エピソード記憶では特に近時記憶が損なわれます。

② 見当識記憶(失見当)

 見当識とは今が何年の何月、何日、何曜日なのかという時間、今自分がいる場所がどこかという場所、この人は誰なのか人物を同定する能力であり、この能力の障害が見当識障害です。時の見当識、場所の見当識の順で障害されることが多いようです。見当識は記憶、注意、視覚認知と行った様々な認知機能によって維持されており、単一の認知機能ではありません。

③ 言語障害(失語・失書・失算)

 脳は左が左半球(左脳)、右が右半球(右脳)と呼びます。右脳は左半身から感覚情報伝達を受け左半身の運動を支配しています。左脳はその逆です。右利きの人の大部分と左利きの約半数は左脳に言語中枢を持つことが知られております。言語中枢がある脳を優位半球、ない方を劣位半球と呼びます。優位半球である左脳は、言葉を話したり、理解したり、書いたりする言語能力だけでなく、計算能力や論理的な思考能力にも重要な役割を果たしています。右脳は資格情報の全体的な把握や感情の調節に重要な役割を果たしています。失語症とは「話す」「読む」「聞いたことを理解する」「書く」という言葉を使う機能が障害される症状を指します。失語症と混同されやすい障害に構語障害があります。構語障害は、言葉を発するための筋肉、例えば唇や舌の運動の障害が原因となります。失語症には様々な分類があり複雑です。認知症では、言葉が出てこない(喚語困難、語想起障害、健忘失語)、聞いた言葉の意味を理解できない(感覚性失語)、言葉を流暢に話せない(運動性失語)に分類され、アルツハイマー型認知症では喚語困難が見られます。認知症が進行した状態では言語機能障害の一部として失読や失書が現れます。失算には視空間認知や注意障害が影響することがあります。

④ 失行

 失行は麻痺などの運動機能に異常がないにもかかわらず、目的とする行為ができないか、あるいは指示された簡単な動作を誤って行うことを言います。用意された物品(道具など)を使えない、誤った使い方をするなどです。観念運動失行、観念失行、肢節運動失行、他人の手兆候、構成失行、着衣失行などがあります。アルツハイマー型認知症では、構成失行、着衣失行が目立ちます(表4)。

⑤ 失認

 感覚器(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)に異常が認められないにもかかわらず、見たもの、聞いたもの、触ったものが何なのかわからない、いわゆる知覚認知の障害です。視覚失認、視空間失認、地誌的失見当などがあります(表5)。

以上で中核症状の前半の説明をおわります。

 次回は後半3項目について説明したいと思います。


医療法人 樹恵会 石田病院
院長 石田 康雄

昭和59年 埼玉医科大学卒
平成元年 埼玉医科大学大学院卒 学位取得
平成2年 飯能市立病院 副院長
平成3年10月 石田内科医院 副院長
平成11年1月 医療法人樹恵会 石田内科クリニック 院長

■専門医など
日本内科学会認定医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本東洋医学会漢方専門医、日本人間ドック健診専門医、日医認定産業医、日医かかりつけ医制度研修終了、日本温泉療法医

■認知症関連
平成27年 認知症サポート医
平成30年 認知症初期支援チーム
令和元年 日本認知症予防学会専門医