魚に付加価値をつけて次世代の漁業へ
【取材】 会 長 林 強徳(はやし つよのり)
副会長 浅野 将太(あさの しょうた)
標津 波心会
標津前浜で水揚げされる水産物の情報をSNSを利用して発信している標津の漁師がいる。2018年に立ち上げた「波心会」は魚を獲るだけではなく、6次産業化を目指し商品に付加価値を付け販路を拡大、標津産というブランドを全国へ発信している。
東京の鮮魚店とのコラボや、魚の捌き方をライブ配信するなど話題を集める波心会とは。
標津産に誇りを
標津産と表示されている魚ってスーパーで見ないですよね? 標津で獲れた魚は、羅臼や根室などブランドのある産地の魚として販売されていたりします。そういった産地の魚と比べて標津産の魚は安く取引されています。だから標津では漁獲量を増やさなければならない、網をたくさん入れて、人もたくさん使わなければいけません。そうして漁獲量を増やすと資源は枯渇してしまい、経費もかかるので悪循環になります。
根室海峡という豊かな漁場でクオリティーの高い魚が獲れるのに値段がつかない、評価が低いことが悔しかったです。日本一鮭が獲れる場所ではありましたが、今はそれが変わりつつあります。いつまでもそれに固執するのではなく、標津ではにしん、ホタテ、カレイ、シマエビなど他にも良いものがたくさんあるので、そういった標津の魅力を発信したいという思いから波心会がスタートしました。
しっかりと魚と向き合う
6次産業化を目指し、今は自分たちで獲ってきた魚を加工して販売しています。まずは船上でおいしい魚を見分けることから始まります。それから放血、神経締め、氷締めなどの手当を魚によっては船上で行います。カレイ、タラ、カジカなどは活越して水揚げ時のストレスで減退した旨みを生簀でケアしてから手当を行います。活越しをすると餌も抜けるので、生臭さがなくなりすごくおいしくなります。魚の見分け方、手当の仕方、技術習得は勉強してさまざまな人にお世話になりました。何かを知りたいと行動すると、それを助けてくれる人というものはいるもので、その繋がりは今でも続いています。
青森の塩谷さんという魚屋さんに神経締めは大事ではない、大事なのは自分たちの魚を見る目、丁寧に魚を扱うことが大事、しっかりと魚と向き合う大切さを教わりました。自分たちは漁師なので、陸に上がる前から魚に携わることができます。そこは自分たちの強みなので、船上で良い魚を見分けストレスをかけないように丁寧に手当をするよう心がけています。
消費者の声が直接届く楽しさ
現在はSNS中心に情報を発信しています。ロゴやパンフレットの作成も現在進行中で来年からは店舗販売をスタートし、ネット販売も視野に入れています。漁をするだけではなく、加工、出荷など仕事は増えましたが漁業だけでは味わえないうれしさや楽しさもあります。
東京をはじめとした道外や道内の魚屋さんや飲食店、消費者に直接販売もしています。飲食店には希望によって手当を変えて出荷したりもしています。季節に応じた商品の開発をしていて、中でも船で獲れたてのエビを醤油ダレに漬け込む標津産北海シマエビ沖漬けは、すごく評判が良く人気商品となっています。標津の北海シマエビは2014年に資源を枯渇させてしまい禁漁となり、2016年の試験操業を経て今に至ります。外海で育った標津のシマエビは身質がしっかりとしているので、沖漬けとの相性がすごく良いです。
次世代へ繋いでゆく
自分たちは標津の漁師の未来に危機感を抱いていて、このままで良いとは思えません。今、自分の子どもから漁師になりたいと言われても100%の気持ちでやりなさいとは言えないです。自分たちよりも上のおじいちゃん、お父さん世代が苦労して残してきてくれた漁業ではありますが、先細っていくことは目に見えています。付加価値をつけた商品を展開することで標津産というブランドを全国に知ってもらい、漁をするだけではなく流通まで手がけ、しっかりと売っていくことが自分たちの役割だと思っています。
自分たちの世代でどこまでできるかはわかりませんが、漁師をやりたいという子どもたちをしっかりと応援できる環境を作っていきたいと思います。
【お問い合わせ】
標津 波心会
電話 090-1641-3990
標津郡標津町南3条東1丁目