認知症の医療と介護『人生100年時代』

認知症の医療と介護『人生100年時代』

「コロナ禍」における認知症の人とその家族に及ぼす影響について②

医療法人 樹恵会 石田病院
院長 石田 康雄


 読売新聞(令和2年11月23日)の記事によりますと、『新型コロナウイルス感染症が拡大するなか、「外出や面会の自粛が、認知症の症状の進行に影響している」と、認知症介護指導者の85%が感じていることが民間団体「認知症介護研究・研修センター」の調査(令和2年5月実施)で分かった。日常的な活動や人との交流が 減ったことが悪化の原因とみられる。(中略)さらにコロナウイルスの流行以前と比べ、目立つようになった影響(複数回答)としては、「家族と会いたがっている」(49%)、「イライラしている」(40%)、「落ち着かなくなる」(29%)を挙げ、行動や心理面の問題が多かった。「健康状態の低下」も28%あった。全面禁止ではない方法を模索している施設も多く、「少人数で外出している」(38%)、「三密を避けて面会するようにしている」(45%)、 と回答し、オンライン面会や、ガラス越しの面会などを実施する施設もあった。調査にあたった同センターの中村考一・研修企画主幹は「認知症高齢者は、自粛生活で活動や交流が少なくなると心身に悪影響が出やすい。 感染症対策も重要だが、家族らとのコミュニケーションを維持する工夫も必要だ」と話していた。』ということでした。この記事を見て想像以上に外出・面会自粛が認知症の進行に影響が出ていると感じました。特に BPSD(行動・心理症状)の出現率が高いと思いました。

 認知症の人が新型コロナウイルスに感染した場合、入院先が見つからずに自宅や施設で待機を余儀なくされる例も多くあるようです。安静を保つためにはマンパワーが必要となり、態勢を整えるには時間がかかります。施設の場合、待機している間にクラスターが発生し、多数の感染者が発生し尊い命が奪われた施設もあり大きな社会問題になりました。専用病棟の準備が必須ではないかと思われます。施設側は入院先がすぐに見つからない事態も想定して聞く必要があり、今和2年7月には、厚生労働省は施設に対し感染症発生時のシミュレーションや自主点検を求める通知を出しています。動き回ってしまうことで隔離が難しい場合にはどう対応するか 検討しておく必要があります。

 さらに憂慮すべきは新聞報道などを見る限りでは、在宅や入所施設で高齢者に対する虐待報道が後を絶ちません。虐待は閉じこもった人間関係の中で生じやすく、弱者がその尊厳を踏みにじまれてしまうことが多いのです。高齢者虐待の約6割が認知症であるといわれております。

 さて今回は中核症状について症状の後半の3項目について少しくわしく説明したいと思います。

⑥ 注意障害(表6)  注意障害とは、選択性、分配性、持続性、方向性といった注意能力の障害で、対象に適切な注意を向けることができない状態を言います。作業を長く続けられない、他の刺激に注意が向きやすい、2つ以上の作業を同時にこなすのが困難になるなどの症状があります。

⑦ 実行機能障害(表7) 人は日常生活において無意識のうちに行動計画を立てて実行しています。このとき、計画、推理、判断、意思決定などの脳の働きを実行機能といいます。意思決定に必要な記憶、判断、推理などの複雑な情報処理が侵されると実行機能障害が起こります。段取りをつけて物事を行えない。約束を守らない、整理ができない、料理ができない、論理的推理ができない、問題解決能力が劣るなどの症状がでます。アルツハイマー型認知症、前頭側頭型認知症では早期からみられます。

⑧社会的認知障害(脱抑制) 顔の症状などから情動を読み取ったり、状況を認識したりする能力が低下する。状況を認識できても、それに応じた行動のとれない適応行動値害、脱抑制など、社会的に不適切な行為がみられることもあり警察沙汰になることもあります。服装が季節や天候にあっていない、穏やかだった人が喜怒哀楽の感情を爆発させたり、子供のようになったりする(退行)性格の変化がみられることもあり、前頭側頭型認知症では早期にみられます。

 以上で中核症状の説明をおわります。次回は行動・心理症状(BPSD)について説明したいと思います。


医療法人 樹恵会 石田病院
院長 石田 康雄

昭和59年 埼玉医科大学卒
平成元年 埼玉医科大学大学院卒 学位取得
平成2年 飯能市立病院 副院長
平成3年10月 石田内科医院 副院長
平成11年1月 医療法人樹恵会 石田内科クリニック 院長

■専門医など
日本内科学会認定医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本東洋医学会漢方専門医、日本人間ドック健診専門医、日医認定産業医、日医かかりつけ医制度研修終了、日本温泉療法医

■認知症関連
平成27年 認知症サポート医
平成30年 認知症初期支援チーム
令和元年 日本認知症予防学会専門医