認知症の医療と介護『人生100年時代』

認知症の医療と介護『人生100年時代』

社会をめざすということ。

医療法人 樹恵会 石田病院
院長 石田 康雄


認知症に関する意識調査から

 朝日新聞(令和元年12月24日)の記事によりますと、「国際アルツハイマー病協会(ADI、本部ロンドン)という団体が、「認知症」に関する意識調査をインターネットで実施しました。世界各国の当事者やその家族ら約7万人が参加した調査からは、「認知症」の人に対する偏見や否定的な見方が根強く残る状況が明らかとなったとのことです。

 結果は、「認知症の本人」「家族介護者」「医療従事者」「一般」に分けて分析されました。このなかで「認知症」の本人は 85%以上が、自分の意見を周囲が真剣に受け止めてくれないことがある、と回答。

 家族は介護があるために、自らの健康問題(52%)や仕事上の問題(49%)を抱えている。一般の人では、自分が「認知症」であるとしたら、人に合うときそれを隠すようにすると答えた人が20.2%(日本19.7%)。また「認知症」のイメージとして、「認知症」の人は衝動的で予測しがたいと思っている人は、63.6%(日本46.8%)。 「認知症」の人を介護している家族の35%は、周囲に対して診断を隠した経験があると答えました。偏見や、「認知症」を明らかにした後の孤立を恐れているためと考えられています。

 国際アルツハイマー病協会の最高責任者のパオラ・バリーノ氏の話では、今後の取り組みや「認知症」予防という点では、「認知症」になっている人たちのケアは緊急性があり非常に重要なテーマであることや、政府は「将来」を掲げて予防に力点を置く傾向があるが、ケアの向上にきちんと取り組んでいかなければならない、と強調して述べています。

 また日本の取り組みについては、2019年の認知症施策大網には「共生と予防」が盛り込まれていて、特に「共生」が盛り込まれていることは認知症の人を排除せず包摂するという点では大変重要であると高く評価しています。

 しかし「予防」については、複雑な問題がある。「これをやれば認知症にならない」 という科学的根拠(エビデンス)がない。ただ認知症になるリスクを減らすということ。ですから認知症を確実に防ぐ方法がないので認知症になった人が後ろめたさを感じる必要はないとありました。医療や介護に携わっている者にとってケアや予防については考慮して対応する必要があるのではないかと思います。

認知症の原因疾患と症状

 それでは今回は、認知症の原因疾患と症状について概説したいと思います(図1)。

 認知症の原因疾患 「認知症」は、前述の通りさまざまな病気により脳の働きが低下して起こる一連の症状をさす言葉で、病名ではありません。

 認知症の原因になる病気は、一般的にはアルツハイマー病がよく知られていますが、他にもたくさんあります。病気によって症状のあらわれ方、ケアや治療方法が変わるため、早めに診断を受けることが重要です。

① 中枢神経変性疾患

 脳や脊髄にある神経細胞の中である特定の細胞群、例えば認知機能に関係する神経細胞や運動機能に関係する細胞が徐々に障害を受けて脱落してしまう病気でアルツハイマー病、 レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症など

② 血管性認知症

 脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、慢性硬膜下血種など 

③ その他

 脳腫瘍、正常圧水頭症、頭部外傷(慢性硬膜下血腫など)、低酸素性脳症など

 また治療できる認知症として、脳の感染症、ビタミン欠乏症、腎不全、肝不全など臓器不全、甲状腺機能低下症など内分泌機能異常、アルコール依存症など中毒性疾患、薬物中毒(抗癌剤、向精神薬、抗菌薬、抗けいれん薬など)などがあります。

 このなかで、正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫、甲状腺機能低下症やビタミンB12欠乏症などの一部の病気は、 治療可能な認知症という概念で扱われることが多く、早期発見、適切な治療や処置が求められております。

 アルツハイマー病、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、血管性認知症の4疾患で「認知症」の90%以上を占め4大認知症と言われております。

認知症の症状

 「認知症」は幾つかの特徴的な症状から構成され、それらを中核症状と周辺症状あるいは行動・心理症状 (BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)に分けて考えられております(図2)。

 中核症状とは、脳の萎縮などの器質的な変化に伴って出現する認知症の本質的な症状のことです。 

 つまり、記憶障害(もの忘れ)、見当識障害(日付や場所、人がわからない)、注意障害(失敗が多くなるなど)、 実行機能障害(物事を段取りよくできない)、言語障害(失語、失書)、計算障害、視空間認知機能障害(図の模写ができない、錯視、幻視)、失行(使い慣れた道具が使えない)、社会的認知障害(脱抑制)などです。

 また周辺症状あるいは行動・心理症状(BPSD)とは、中核症状に随伴してよくみられる症状のことで、身体的要因(発熱や疼痛など)、環境的要因(不適切なケアなど)、心理的要因(性格など)などの影響を受けて出現します。「認知症」の人に必ずみられる症状とは限りません。焦燥性興奮、攻撃性(暴言・暴力)、徘徊、脱抑制などの行動面の症状と、不安、抑うつ、幻覚・妄想をはじめとする心理症状があります。

 認知症の症状を理解するということは、「認知症の人」を理解することにつながり、早期発見、早期対応という意味(進行を少しでも遅らせることができる)や適切な介護や医療が可能になるということで非常に重要な ことです。

 次回はさらに症状について説明していきたいと思います。

※認知症施策推進大綱
厚生労働省が令和元年6月に公表した、認知症に関する施策の指針となる大綱。


医療法人 樹恵会 石田病院
院長 石田 康雄

昭和59年 埼玉医科大学卒
平成元年 埼玉医科大学大学院卒 学位取得
平成2年 飯能市立病院 副院長
平成3年10月 石田内科医院 副院長
平成11年1月 医療法人樹恵会 石田内科クリニック 院長

■専門医など
日本内科学会認定医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本東洋医学会漢方専門医、日本人間ドック健診専門医、日医認定産業医、日医かかりつけ医制度研修終了、日本温泉療法医

■認知症関連
平成27年 認知症サポート医
平成30年 認知症初期支援チーム
令和元年 日本認知症予防学会専門医