町長に聞く。
「住みやすさナンバーワンのまち」を目指した3年半
インタビュー:西村 穣(にしむら ゆたか)中標津町長
「住みやすさナンバーワンの町」を具現化するために
北海道において根室管内は、農業は十勝、オホーツク、上川に次いで4位、漁業では、オホーツク、宗谷に次いで3位。それだけ稼いでいる場所です。しかし、人口がどんどん減っていて、人が動くことによる経済効果が少なくなっていきます。何年か後には教育や医療にしても規模が小さくなってしまい、利便性の低い地域になってしまうことが懸念されます。それをどう対策すれば良いのかを明らかにする必要があると思い、まずは2年ほど前にそれを目にみえるようにしました。
青丸で囲まれているところは人口10万人以上の都市で、半径50キロメートル、道内的には45分〜1時間で移動できる距離に国の出先機関や、大学、高度医療病院、飛行場などの都市機能が充実しているところです。根室管内はその中に入っていません。
現在、中標津町での出生数は約200人、80年代の半数近くに減っています。町で卒業する中学生は約270人いますが、その子たちのうち40〜50人は高校進学の際に地域外へ出てしまいます。それは人材だけでなく、居住にかかる費用や授業料などお金も町から出ていくことになります。大学ではなく、15歳の時点でそれが発生しているのです。親御さんにしてみると、子供たちの可能性を追求してあげるためには中標津町では満足できないと言うことです。高校くらいは地元でと思ってもらえるような町にしなければいけません。義務教育期間も含めての学力の向上が必要です。
また、人を減らさないためには働く所がなければいけません。突き詰めるとここがお金を生む地域であるかどうかです。そのお金が雇用へと繋がります。そういった雇用の場所をなんとか増やしていかなければいけないと思います。
今は有効求人倍率がつねに1を超えている状態で、雇用の場所よりも人が足りていない状態です。同時にやらなければいけないのが働きやすい環境を作ることです。
例えば、町に住んで結婚し子供ができる。家族で生活するとなると一定以上の収入が必要です。
1人で働いて全てを完結するための収入を得ることはなかなか大変ですし、ならば2人で働いて収入を得、家を建て、子供を大学にまで行かせる、車も購入する。そういった収入を得られるようにしたいと思います。そのためにも共働きができるよう、行政としては子育て支援をしっかりしなければいけません。
また、中標津町は単身赴任の方が多いと言われています。それは、都市機能が充実している地域に遅れをとっている部分が多々あるからです。同じにはできなくとも、改善する努力をしなければいけないと考えています。
「住みやすさナンバーワンの町」に向けて、様々な分野で準備を進めてきた中で、教育や医療に関してなど既に動いているものもあります。
観光と町の経済
私自身、経済部が長かったのもあり観光関係にも力を入れてきました。
ピーチ航空は残念ながら釧路空港になりましたけども、FDA(フジドリームエアライン)はチャーター便が来ています。
FDAは80人乗りの飛行機に2つの旅行会社それぞれがこの地域を周遊させるツアーを組むのですが、その際にこちらの情報を知らずにツアーを組むためウトロや阿寒に宿泊ホテルを設定します。これでは、中標津空港を利用したというだけで、経済効果があまりありません。
これまで5年間続いていますが、事実初年度は根室管内に1泊もしませんでした。想定していたことではありましたが、現実になったことで、2年目以降は事前にPRに行かなければいけないと、旅行会社へ赴き、根室管内の宿泊施設や観光地を売り込んできました。おかげで毎年着実に管内での宿泊数が増えています。行く場所、食事ができる場所、泊まる場所はだいぶん認知されてきているので、継続することで年々増えてきています。それによって経済効果も出てきています。
ピーチ航空はFDAのように旅行会社が客を募集しているわけではありませんので、降りた先はどこに行くのか、どこで泊まるのかまでは航空会社では関与しません。それではと大阪に行き、ピーチ航空で安く来ることができること、そして利用する方はぜひ根室管内に来てくださいと、選択肢のひとつになるようPRしています。
近年では、海外の観光客の方も増えてきており、交流人口は着実に増えています。その努力を今後も続けていきたいと思います。
観光は中標津町だけでという考え方をせず、周辺地域を含めて考えなければいけません。中標津だけで連泊もしてもらおうというのは難しいと思います。それぞれの町でいいところを出し合い、どこかの町で食事をする、買い物をする、宿泊する。そのほうがスケールメリットが出ます。
北海道の7空港が民営化されましたが、それらの空港の周辺には観光地と大きな宿泊施設があります。空港を利用してもらい観光地に誘導し、宿泊してもらう。それぞれの点をきちんと線で結ぶイメージはしやすいと思いますが、まだわからない部分が多いように思います。ただ、釧路や女満別の空港を利用する観光客が増えてくれば、今よりも根室管内に来る可能性もあるので、影響が期待できます。
産業と町の経済
中標津町は商業の町でもありますが、一次産業自体がしっかりしていないと成り立ちません。
酪農ではクラスター事業を積極的に取り入れ、その効果が出ていると思います。生乳の生産量も伸びています。令和元年度の粗飼料の調整もうまくいっているので、牛も健康ですし、規模を拡大して頭数が増えているのもあり、乳量は5%くらいの伸びになっていると聞いています。気候に左右される部分はありますが、期待できると思います。
農業は酪農を中心に堅調ですが、周辺地域の漁業が鮭をはじめとして獲れなくなっており、魚種転換を考えたりもしているようですが、なかなか難しい問題だと聞いています。漁の回復を願っています。
医療と介護
羅臼町の患者の約40%、標津町の患者の約35%、別海町の患者の約20%が町立中標津病院を利用していて、病院全体の患者の約4割が他町から来ていることになります。地域のセンター病院となって支えていることは間違いありません。医療の充実している釧路に行くには中標津からだと1時間半かもしれませんが、羅臼からだと2時間半かかってしまいます。なるべく近い場所に病院があることが間違いなく住みやすさにも繋がると思います。
町立病院の会計に関しては町からの持ち出しがとても多くなってしまっているのですが、なんとか改善しようと努力しているところです。
介護に関しては、大きな人材不足になっている状態ですので、人材確保を主な目的とした協議会が昨年立ち上がり、行政と各事業者が積極的に進めている状態です。
計根別地域の振興に向けて
農業高校は今とても頑張っていて、生徒はもちろん校長先生をはじめとする教員の方々の指導も素晴らしく、そのことによっていい成果が出ています。農業高校へ通いたいと思う子供が増え、今年度は入学者数が44名、令和2年度の入学者数もそれに近いと予測されています。計根別学園も成功例として、視察も非常に多く評価もされています。
過去、郡部の中学校がなくなり始め小学校も危ないと言われていた頃、郡部のコミュニティが薄れてしまうのではないかと危惧していました。親子や親族で3世代4世代と同じ学校に通い、地域全体の絆が強くあった時代です。幼稚園、小学校がなくなり世代が変わっても、地域の繋がりが希薄にならないようにしたいと思います。
児童館・託児事業の両方の役割を担う「えみふる(計根別子ども館 えみふる)」は北海道でも他にない施設で、子供を預けることで地域のコミュニティを作り上げる場になっていると高い評価を得ています。
中標津はそういう面で遅れていると思っていたので、作って良かったと思います。
現在の計根別は、子育て支援から始まっり小・中学校、農業高校と一体となった子供たちの支援が非常にうまくいっていると思います。地域的にも非常に結束力の強い地域ですから、これからもより良い地域となって発展して欲しいと思います。
都市計画マスタープランのフォーラムで、これまでは中標津町市街地だけだったものに計根別地域が加えられました。以前から計根別地域の振興プランを作りたいと思っていたので、町民皆で話し合う場に加えることができたことも、ひとつ成果だったと思います。
これまでを振り返って
もともと理解はしていても、この3年半で気づくことは非常に多くありました。
中標津がするべきことは何なのかを考えたときに、中標津町が周辺地域を引っ張っていくという考え方ではなく、他町を含めた圏域の中での中標津町という考え方が必要です。中標津町が持つ強みはきちんと打ち出し努力をすることが、お互いの町のためになるので頑張りたいと思います。お互いを大切にしながらいいところを伸ばしあえれば最強の地域となります。