医療現場のいま
コロナ禍の中おこなわれている最大限の対応

医療現場のいま<br>コロナ禍の中おこなわれている最大限の対応

医療現場のいま
感染者を受け入れてきた地域のセンター病院としての役割

 今年4月、ついにこの地域にも新型コロナウイルスの感染者が発生、町立中標津病院で受け入れと治療をおこなった。一時収まったかのように見えたが、8月に入り、この地域で爆発的に感染者の数が増えた。当初4床から始まった病床も現在16床に増やし、医師と専門の看護師2名で懸命に対応している。

 限られた病床と人員で、どのように日々出る感染者の対応にあたっているのかを聞いた。

取材/町立中標津病院


はじめて感染者を受け入れることになった時の
院内の様子をお聞かせください

 初めて新型コロナウイルスの感染者が入院したのは5月でした。全国的に感染が広がっている状況の中、人の往来も随分ありましたので、ついに来たかという感じでした。私どもは昨年から釧路の患者さんなどを受け入れていたこともあり、準備はしておりましたので特段の驚きはありませんでした。

 当初4床しかなかったところを、10床、16床とどんどん増やしていき、現場でも十分な準備をしておりましたので慌てることはありませんでした。感染症に関する専門的な知識と技術を持つ、感染管理認定看護師が在席していますので、その方の働きが非常に大きかったと思います。

 一番のピーク時には満床に近い状況になり、入院で7人、自宅療養・待機してるのが12人で、1日最大19人という日がありました。受け入れ可能な病床数には限りがありますので、自宅待機している方々の具合が悪くならないか心配でした。

 病院ではなく、保健所で健康観察をしていましたが、具合が悪くなれば病院に来て入院していただくようになっていました。

 当時は根室でもクラスターが発生していて、釧路でも同じような状況でしたので、何としても当院で面倒を見なければいけないと思い、皆で協力し乗り切りました。

対応にあたる看護師は
どのように選ばれたのでしょうか

 主に管理職と言われる人たちと課長です。各病棟の課長や外来の課長など、管理職の方が対応しております。コロナの病棟に入って、同じように夜勤をこなして、それ以外の日は通常の業務をするので、負担がかかっているのは間違いないです。当初1人だけで対応していたのですが、現在1人で対応するのは難しい状態ですので、2人体制で対応しています。

 看護師たちはコロナだからと特別構えることはなく、やるべきことをやってくれて、さすがだと思います。非常に訓練されていますし、感染に対する知識も豊富ですから、コロナの治療に対して嫌だと言う看護師はおりません。ただ患者が増えてくるので心配しています。

 7月11日からまた感染者の受け入れがはじまり、すでに1カ月以上経つのでやはり疲れが見えています。

抗体カクテル療法は
おこなわれているのでしょうか

 幸いなことに重症化している方はいらっしゃらないのですが、4、5月の時と違い、抗体カクテル療法や肺炎の治療薬が国から支給され治療しておりますので、重症化する前には退院できるようになっています。

 抗体カクテル療法は肺炎の症状がある方などに対しておこなう治療で、発症から1週間以内におこなうと効果が高いと言われてます。ワクチンを打つと体のなかで中和抗体というものが作られるのですが、抗体カクテル療法は強制的に体の中に中和抗体を入れる治療になります。入院してから1回だけ点滴で入れ経過観察をして、肺炎が落ち着いてきたら退院することができます。

 以前は入院期間が発症から2週間と言われていましたが、それだと病床が回らなくなってしまうので、ある程度治療が終わって症状が落ち着いている方については、自宅療養に切り替えています。症状の度合いや、罹患したと思われる日から何日経っているかなど、総合的に判断しながら医師の判断で進めていて、現在入院期間は1週間程度です。

 現場にいる実感として、ワクチンの効果というのはとても大きく、2回接種した方で入院している方もいらっしゃいますが、それほど重症化しません。ワクチンを打ってないと重症化する可能性が高くなりますし、やはり感染しやすいです。

感染者が入院していることで
きつい言葉をかけられたことはありましたか

 病院に対する誹謗中傷というのはあまりありません。昨年の4、5月の時には、医療関係者が美容院への来店をお断りされ、傷ついた職員がずいぶんといるということは耳に入ってきました。今のような状況だと、頼りになるのはうちの病院だということで、頑張ってくださいというお声はいただいております。

院内感染を防ぐために
どのような対応をされているのでしょうか

 感染管理認定看護師がいるので、指導のもと毎月感染対策委員会を開いています。

 例えば消毒を徹底するですとか、患者さんに接した場合どのように対応するかの指導などをおこなっております。院内感染は一番あってはならないことですので、入院患者さんには抗原検査をおこない、陰性が確認されてから病院に入院していただいています。

 コロナ病棟は、具体的には4床の個室と12床6部屋のフロアがあり、一般の病棟とは分かれています。

 フロアを移動する際には防護服や手袋などをすべて廃棄し、手の消毒なども行った上で場所を移動することになっています。感染症専用のゴミ箱があり、廃棄したものがいっぱいになったら箱ごと廃棄しています。ゴミに関する費用の負担も大幅に増えました。

 ほとんどの職員がワクチンを接種済みですが、ワクチンを接種していても感染はしますので、非常に気を使いながら治療にあたっています。

町立病院ではどこまでの患者の対応ができるのでしょうか

 無症状、軽症、中等症1・2とあり、中等症1は肺炎の人、中等症2はさらに重症化し、酸素投与が必要な人までを当院で受け入れしています。

 それ以上になると釧路にお願いするしかありません。ただ、釧路も満床に近いので受けられないかもしれないという話が来ています。もし釧路で受け入れすることができないということになれば、広域での搬送となり帯広や旭川、札幌で受け入れてもらうことになる可能性があります。

 そうならないよう、できるだけ早めに薬の投与をおこない、重症化を防いで自宅療養にするという治療方針になります。現在では抗体カクテル療法や抗ウイルス薬であるベクルリーという肺炎の症状を抑える薬を主に使っていると聞いています。肺炎の治療薬投与をおこなうことで大抵は肺炎も落ち着くようです。

 退院するときには人にうつす可能性が低く、元気になっていますので自宅療養していただきます。

 一般的には罹患してから発症するまで5日だとしたら3日目くらいから排菌といって菌を出し始め、発症する2日前が一番多いと言われています。そこから1週間も経つと菌を出さなくなるのですが、罹患したと思われる日から2週間は自宅療養してくださいというのが今の方針ですので、その間は自宅にいてくださいと伝えています。

以前と今で大きく違っていることはあるのでしょうか

 アルファ株では小学生や幼稚園など、年少者の患者はあまりいませんでした。デルタ株は、幼稚園や小・中学校でもクラスターが起きたり、高校生の部活動で感染するという事例が出ていますので、ワクチン接種をしていない若年層にも感染しやすいのが特徴のひとつだといえると思います。

 また、症状が出た時にはすでに肺炎になっていることが非常に多くなっている印象を受けています。従来株の時には、元気だけど熱がある程度の症状で来院される方が大半で、その時点で肺炎になっている方はほとんどいませんでしたが、デルタ株になってからは、ほぼ肺炎の症状が出ていて入院する方が多いです。私見ですが、デルタ株はおそらく重症化していくのが早いのではないでしょうか。

 また、報道などでよく酸素飽和度の話が出ます。98〜100が通常ですが、酸素飽和度が低くなっていることに本人も気づかず、計測して初めて酸素飽和度が下がっていることに気が付く方がいます。90〜93となればかなり危険な状況ですが、その状況でも肺の機能が低下していることに気がついていないわけです。元気な状態で来院されても、実は肺がひどい状態になっている方がいたという話も聞いています。

医療従事者として注意喚起することはありますか?

 なにより1番はワクチンを打ってくださいということです。今回罹患している中で、1回でもワクチンを接種している人は重症化しにくく、割と早く退院されています。中標津町では1回目の摂取率が約86%までいっていますが、まだ打てていない方もいらっしゃると思います。

 副反応が怖いという気持ちは十分わかりますし、もちろん強制することはできません。私も接種後すぐに倦怠感が出てひどい目に遭いましたが、現場で患者さんの状況を見ると絶対にワクチンを接種しないと嫌だという気持ちになります。

 実際にワクチンを接種していない方が重症化しているのを目にしていますので、ぜひワクチンを接種して欲しいと思います。

 変異を重ねたデルタ株は、まるで別のウイルスだと言ってもいいくらいだと思います。

 院長からの資料によりますと、前のアルファ株ぐらいまでは10分〜15分の会話で感染するという話でしたが、デルタ株は秒で感染する可能性もあるとまで言っていました。エアロゾルと言われるウイルスを含んだ粒子が空気中に漂うのは、3時間ぐらいと言われています。それを吸い込んで発症するというケースもあるということで、いつどこで誰がなってもおかしくない状況だということです。

 現在のような状況が長引くと病院のベッドが足りなくなり、根室管内でも自宅で亡くなってしまう人が出てくるかもしれません。何としてもここで食い止めなければいけないと思います。それにはやはりワクチン接種をしていただくことです。そして引き続き感染対策をしっかりとおこなうことです。基本的なことをしっかり守ってもらうことが一番の防ぐ手立てだと思います。

(取材/2021年8月23日)