シリーズ将来を見る ─ 外国人技能実習生と介護業界の今
人手不足の解消に、技能実習生や特定技能実習生の受け入れが検討されてきた介護業界。
すでに受け入れを行ってきた株式会社リーガルと、本年より受け入れを始めるケアー・サポートまつやまに、経営面や現場における現状や、今後の考えられる解決するべき課題、現場で起こっていることを聞いた。
混乱する社会情勢の中、予定よりも遅れて特定技能実習生の受け入れを開始。
少しでも早く受け入れを開始する必要性とプラスに影響すると考えられることとは。
不安と期待の中、実習生受け入れでより強くなったスタッフの自主性と、これからの人材確保のあり方。
インタビュー
松山 裕一(まつやま ゆういち)
株式会社 ケアー・サポートまつやま 代表取締役
山崎 雄哉(やまざき ゆうや)
株式会社 ケアー・サポートまつやま 主任介護福祉士
株式会社 ケアー・サポートまつやま 主任介護福祉士
山崎 雄哉 氏
株式会社 ケアー・サポートまつやま 代表取締役
松山 茂 氏
実習生雇用に踏み切った背景についてお聞かせください
今回、人手不足が続いている状態を解消するために特定技能実習生を2名受け入れます。
当事業所は人員や構成に大きな変動はなく、それがありがたいと感じています。弊社はスタッフが辞めることが少なく、長期に渡って働いて頂いていて非常に有り難いです。また数年前に定年制の廃止などの働き方改革を行い、健康な限り安心して長く勤めていただけるような取り組みを行っています。しかしその結果として平均年齢が毎年少しずつ上昇していると言う事実があります。更に介護従事者全体の平均年齢自体も上昇を続けており、今後のメンバーの継続参加や、新しいメンバーの募集に向けた戦略が求められていました。
中長期的な視点で5年後、10年後を考えると、このタイミングで投資を行うのがベストだと考え特定技能実習の受け入れを決断しました。
一昨年の12月頃に面談をおこない内定を出しており、1年前に受け入れる予定でした。本来であれば、昨年の6月が7月の温かい時期に来てもらい、体を慣らしてもらって、徐々に冬に適応してもらう予定だったのが、1番寒い1月にミャンマーから来てもらうことになりました。結局受入れまで1年かかりました。
介護の仕事の魅力を発信していき、人材の確保を模索していますが、働こうと思う人がなかなかいない。もちろん他業種も同じ状況だと思います。これだけ日本人の働き手がいないと、必然的に海外からの力を借りなければいけない時代がもう来ていると考えています。それはこの先も変わりません。
しかし、世界情勢やミャンマーのクーデター、円安の影響で遅れてしまいました。さらに、その影響、特に円安の影響で、日本で働くことの経済的なメリットが東南アジア諸国と比較して薄れつつあると思います。
そうなると、いざ海外からの人材を受け入れようと思っても、人気のない日本に来る人が今よりかなり少なくなっている可能性があります。介護業界全体が受け入れる方向にシフトする前に、雇用する実績を作る必要があると考えました。
現状考えられる課題とそれに対する取り組みはありますか
現在、川湯本社近くにアパート兼社員寮(3月より入居開始)を建設しています。特定技能実習生は勤務期間が3年たてば介護福祉士の試験を受けることができます。資格を取ることで滞在期間を延長し、最終的には日本に永住することが可能になります。もちろん将来的には他の事業所へ転職したり、他業種への転職もあります。しかし、3年後にまた受け入れるということを続けていけば、介護に携わる人材が徐々に増えていく可能性はあるかなと思います。
もちろんエージェントに支払う中間マージンもあります。1人に支払う人件費の総額で考えると、人件費は幹部職員位になります。
我々が必要な書類の作成や提出、支援体制の充実などをおこない、直接受け入れることができれば、その費用を圧縮することは可能なのかもしれませ。しかしそこまで手が回らないのが現状です。初めての受け入れでもありますし、やはり任せた方が安心です。
今回受け入れるのはミャンマーの方です。スタッフには、ミャンマーから来る2人が、スムーズに仲間として仕事ができるような環境を作って欲しいとお願いしました。
日本とミャンマーのルールは違うところが多いでしょうし、文化や習慣の違いで戸惑うことはあると思います。
介護はコミュニケーションの仕事ですから、彼女たちが苦しまなければいいなと思います。なぜ伝わらないのか、なんでわかってもらえないのかという話になってしまうと、相当切ない思いをすることになってしまいます。
恐らく、利用者さんが何かを訴えてるときに、100%とはいかなくても、それに近いところまで理解するまでには、どうしても時間かかると思います。
その一方で、言語によるコミュニケーションはそんなに重要じゃないとも思っています。言語は、全体のコミュニケーションの約20%にしか過ぎないと言われています。
目は多くを語るものですし、顔の表情や身振り手振りなどで、コミュニケーションを考えてやってもらえれば、多少言葉が通じなくても、良好な人間関係を作っていくことが可能だと考えています。それを期待していますし、そう言った姿を日本のスタッフたちが見ることで、新たに気づきや学びを得られるでしょうし、良い影響を及ぼすと思っています。そういった相乗効果を期待したいです。
もちろんスタッフも利用者さんも、海外の方に慣れていません。楽しみも多少あるだろうけど、不安もいっぱいあると思います。
私たち経営者としても、わざわざ海外から来てうちにきてくれることに関しての不安もあります。親御さんにしても大事な娘をね、よその国に出すわけですから相当不安があるではないでしょうか。その気持ちは万国共通だと思います。やはり日本は素晴らしい国だと、うちの事業所のスタッフたちはみんな素晴らしいと感じてもらいたいですし、親御さんにも感じて欲しいですし、プレッシャーを感じますよね。
今回来る子たちは、まだ22歳と若く、日本人であれば社会人経験がほとんどない年齢です。日本で介護するために日本語の勉強と介護の専門学校で勉強し、日本に来るためのカリキュラムをこなしてきているので、志もあるんでしょうし、相当真面目に働くと思っています。
実際受け入れることで、現場にどのような影響が出ると思われますか
ミャンマーの子たちを受け入れることで、明るい兆しも見えています。年齢層がぐっと若返りますし、職場がぱっと明るくなる可能性を秘めています。
もちろん彼女たちは大変なこともたくさんあると思います。ただ、異国の文化に触れることは楽しいと思います。日本の文化や生活をとても楽しみにしてると思いますし、我々も彼女たちが持ってくる文化に触れることがとても楽しみです。
日本の文化や習慣などに触れた時、彼女たちが取る素直なリアクションを見ると、利用者さんもスタッフも楽しい気持ちになると思います。間違いなく一生懸命に自分とコミュニケーションを取ろうするでしょうし、若いから孫とか娘のように見えると思います。そうするともっと色々教えたいという思いも出てくると思います。
異文化に触れることには好奇心をかきたてられると思うので、そういった部分で意欲だったり、楽しみを入居する人たちが、より見いだしてくれれば心も体も健康に近づいてくるでしょうし、入居者さんたちにとって、幸せな時間になる可能性が高い気がしています。
今回、スタッフが自主的にプロジェクトチームみたいなものを作ってくれました。
大抵は目の前の仕事をこなすだけになりがちです。今回の受入も、会社がやったことだと他人事になる可能性もありました。それを率先してさまざまなケースを想定し意見を出し合いながら、当日を迎える準備をしているのは、他人事ではないと感じてくれているからなのでしょう。
自分事として捉えてくれて、それに対して問題提起をして解決する術を見いだしていくっていうのは、会社にとっても大きなプラスです。
ひとつの問題にみんなで向かっていくという空気が自然と作られたのは、素晴らしいことだと思っています。今まで仕事でこういった経験をしたことがなく、接したことも話したこともない国の人たちにも関わらず、みんなでいろんな話をしながら、迎え入れる準備をしてくれています。このことでチームとして固くまとまっていくでしょうし、現場の雰囲気も良くなってくると思います。
スタッフが彼女たちに対してだけではなく、スタッフ同士や、介護の現場でもいい影響が出るでしょうし、それはまた違う形になったとしても、やっぱりその発想や感覚は会社にとって非常にいい影響を及ぼしてくるだろうと考えています。
いろいろなものを会社で購入しましたが、着なくなった服や、使っていない洗濯機など、彼女たちが住む家には、頂き物で溢れています。
1度スタッフとオンラインで話しており、それによってお互い親近感を覚えてくれたでしょうし、いつ来るかずっと待ってたんだよみたい空気になっています。その子たちの居場所がなくってしまわないような準備もしました。スタッフも楽しみにしていて期待感があるのは感じています。
仕事だけではなく、日本の若い人との会話でさえ苦労しているのに、ミャンマーの若い子と何を喋ればいいんだろう2人きりになったらどうしようとか、何を話したらいいんだろうと考えると思います。業務時間外に仕事の話ばかりしていても嫌んなるでしょうし、そうならないように会話文例集みたいなものを作らなければいけないのかなと思ってます。
仕事に関しても絵をふんだんに使用してわかりやすくした、マニュアルまではいきませんが事例集を準備しています。これは、実習生だけではなく、初めて介護に携わる人全員に利用してもらえるものだと思います。
(取材 2024年1月10日)
【企業情報】
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電 話 015-483-5512
川上郡弟子屈町川湯温泉1丁目3番6号
<中標津支店>
電 話 0153-74-0620
標津郡中標津町東31条南1丁目6番1号