待機者を受け入れるためにグループホームを事業拡大

待機者を受け入れるためにグループホームを事業拡大

インタビュー:五十嵐 強(いがらし ちから)
合同会社 萩(グループホーム 萩の里) 代表


小規模ながら、長く地域の介護事業者として貢献してきた萩の里代表の五十嵐氏に、事業拡大の理由と、業界が今抱えている課題について聞いた。


事業拡大に踏み切った背景をお聞かせください

経営戦略的に見ても、小規模なままでは事業の継続が難しくなることが見えています。例えば、介護職員に支給される処遇改善加算など、国からの補助金が手厚くなってきていますが、大きな施設の方がこれらの支援が手厚い傾向にあります。将来的にはこの流れが進む可能性が高いと考えています。そのため、現状のままでやや厳しいと考え、事業の拡大を決めました。

事業所の拡大が目指す具体的な目的や目標をお聞かせください

一番の重要な目的は、待機している方の受け入れを実現することです。全てを受け入れることはできませんが、これが課題であり、これを少しでも受け入れ解決することを目的として事業の拡大をおこないます。

現在、当事業所では約50人ほどの方が待機されていますが、そのうち約3分の1の方が、すぐにでも入所を希望していると思います。残念ながら全ての待機解消には至りませんが。すでに他の施設に入所された方や、すぐには入所されない方もいらっしゃるので、具体的な状況は厳密にはは把握できていません。

現在当事業所には2ユニットあり、1ユニット9名が入居されています。まずはもう1ユニット今年増やし、最終的には3ユニット揃え、新たに27名を受け入れる予定です。でも実現は簡単ではではないと思います。職員の確保や建築に関する様々な問題も考慮しなければなりません。しかし、最低限これを実行しないと将来的には困難だろうと感じています。

また、事業所の拡大や方針の変更は、今後の中標津をはじめとした地域のニーズに合わせて検討していきたいと考えています。

高齢化が進む中でこれからの業界の課題についてお聞かせください

際立った特定の問題があるわけではありませんが、待機解消以外にも、ケアの方法など細かい課題はあります。

人手不足も懸念事項ですが、ありがたいことに当事業所は比較的落ち着いていて、人に恵まれているなと感じます。ただ、事業の拡大をするにあたってあらたに確保する必要があります。

これは介護業界全体の話になりますが、もう少し制度的な側面を考えた方がいいと思います。介護事業所は、介護保険による加算があり、いわゆる売り上げには上限があります。利用者が少なくなるとその分減るといった仕組みです。売り上げを増やそうと思っても限界があるのが現状です。これは職員の給与にも関係してきます。

さらに、介護職員の不足が最大の問題で、事業収入にも影響してきます。1人の職員が見ることのできる利用者の数は法で決められています。人が足りなければ、利用してもらう入居者の数も少なくなるので、当然ですが、事業収入に影響します。これが低いと給与も低くなる可能性があります。さらに現在処遇改善手当てが支給されていますが、それでも十分とは言えません。

地域全体としての視点で考えた方がいいと考えています。待機だけでなく、介護業界が抱える現在の課題についてどのように捉えているかを話し合うのが重要です。入居者さんの費用は施設ごとに異なり、事業収入や上限などが決まっている一方で、家賃や食費、水道光熱費などは各施設が運営資金として使う資金に苦慮します。実際には、職員の給与やその他の経費は、国や地方自治体からの支給と、税金で賄われてい流ことが多く、残りの経費は、家賃や食費、水道光熱費の一部に充てられることが多いです。

そのため、国が人手不足対策として加算金を支給していると考えられます。これは、介護職員の賃金が低いという現実にも繋がっているのではないでしょうか。

若い介護職員には子供がいる場合もあります。特にシングルマザーの場合、家庭と仕事を両立しながら介護の仕事をするのは難しい状況です。それが解消されない限り、安心して働くことや子供を育てることは難しいでしょう。そのため、施設が規模を拡大し、給与水準を向上させることが必要かもしれません。ただ、これは難しい問題です。大規模な事業所を作ることが可能な場合もあるかもしれませんが、それには多くの課題が伴います。

将来の展望やさらに取り組むべき課題をお聞かせください

この地域は介護事業所の数が足りていないと思います。例えば居宅介護支援事業所やケアマネージャーの人数が不足しています。

デイサービスも同様です。役場などもデイサービスが不足していることに悩んでおり、それに対応するために他の手段を模索しています。もちろん、私たちができることがあれば積極的に協力しようと考えています。

訪問介護も人手不足が深刻で、本当に必要な方でも利用できないという実態があります。

介護保険は3年に1回見直しがあるのですが、介護報酬が上がるのではないかという話があります。先ほども話に出たように、報酬が上がることは喜ばしいことではありますが、同時に利用者負担も増える可能性があります。これは仕組み上避けられないことで、なかなか難しい問題です。事業所側からすれば、増収増益はうれしい一方で、実際に利用される方々の立場も鑑みて、調整が必要だと思います。

色々な規制がもっと緩和されるといいなと思います。例えば、グループホームでは3年前の改定まで計画作成担当者が必ず1ユニットに1人いなければなりませんでした。実際は1人で全て兼務できるんです。

その計画はケアマネージャーの資格を持っているだけでは作ることができません。計画作成担当者の講習に行く必要があり、中標津のようなから場所だと何泊もしなければならないし、最短でも釧路まで行かないといけませんでした。僕が受けていた頃は札幌しか行われていませんでした。

ケアマネージャーの事業所には必ず主任ケアマネージャー講習を受けた者がいなければいけません。講習自体はとても有益でした。

しかし、このように、介護の仕事をするにはある一定の研修を受けなければいけない職業がいため、人手不足なのに自分たちで首を絞めているような感じがしました。理想論に囚われずに人を確保していかないといけない現状で、規制を緩和しないと本当に人が足りなくなると感じています。

認知症の方が身体的に元気だとしても、ご家族が見きれないということが多くあると思います。そういった困った状況を改善するために始めた制度だったはずです。特に昔とは違って、共働きが当たりです。家族の介護までできるような状態ではない家庭が増えていると思います。そうなると、事業所がもっと必要であり、今の流れだと恐らく対応しきれなくなるのではないかと考えています。

この地域はますます高齢化が進むことは間違いありません。これからどういった方針で進んでいくべきか、中標津町介護保険事業者協議会の中で話し合いがおこなわれています。

人手不足を少しでも解消するために、介護の魅力を発信する必要があります。その一環として、認知症介護をもっとポジティブに明るく捉えるべきだという提案もあります。介護の仕事は大変なこともあるけれど、楽しい仕事だという立場からの発信が欠かせないと考えています。利用者産から昔の話を聞いたらすごい勉強になることもいっぱいありますし、介護は基本は明るく楽しいものだと思うので、それを発信できたらいいなと思います。

また、家族間での介護が難しければ施設があると選択肢に入れて欲しいです。家から出るのは悲しいかもしれないけども、そこに行けばおじいちゃんおばあちゃんが元気でいられる。施設が楽しい場所であることを知ってもらうことで、家から離れることが悲しいことでなくなるかもしれません。安心して利用していただけるよう、もっと明るイメージが定着するよう頑張らなければと思いますね。

(取材/2024年1月11日)


【事業所情報】
グループホーム・デイサービス・居宅介護支援 萩の里
電 話 0153-74-0879
標津郡中標津町川西7丁目20番地