中国が日本の水産物を全面禁輸

中国が日本の水産物を全面禁輸

帆立の中国禁輸と水産業のこれから

禁輸に立ち向かう地元企業の不屈の決意

インタビュー:伊勢 健(いせ たけし)
株式会社 丸イ佐藤海産 代表取締役社長


中国による水産物の全面禁輸決定を受け、業界に大きな衝撃が走った。地元水産業に及ぼす影響、業界は今後どのように対応していくのか?


中国による水産物の全面禁輸決定を知った時、どのような感想や思いを抱かれましたか?

これまで帆立業界において中国は主要な販売先として存在しておりました。農林水産省の調査によれば、2022年の日本から中国向けの帆立の年間販売金額は467億円に達しています。輸出の割合は中国22.5%、香港19.5%、アメリカ13.9%、台湾8.9%、その他35.2%となり中国がナンバーワンの販売先となっていました。

この主要な販売先を喪失することは、在庫の過多や単価の下落といった諸問題を引き起こし、帆立業界に多大な影響をもたらすだろうと衝撃を受けました。

中国からの禁輸によって、地元水産加工会社が具体的にどのような影響を受けると予想されますか?懸念している課題や困難は何でしょうか?

メディアで報道されている積みあがった在庫であったり、販売不安に駆られる生産者の悲鳴、当然影響のあった方々もいるとは思います。

しかし、2023年は中国向けの輸出が60%ほど終わってから禁輸決定になったと推測できるため、本当に問題となるのは2024年から水揚げされた帆立がどのように水揚げ、加工、販売されていくかということになります。

中国向けの製品のほとんどが少人数で加工が可能な「帆立を剥かなくてもよい製品」でした。しかし、禁輸となり加工する会社がすべて「帆立を剥く製品」にシフトした場合「帆立を剥かなくてもよい製品」の3倍は人員が必要になるため、水揚げ量に対して人手不足が発生するのではないかと予想できます。

ただでさえ人手不足で苦しんでいる水産業界にも関わらず、さらに加工するための人員が足りなくなると水揚げされた帆立が行き場を失う可能性が発生し、これまでの流通構造にアンバランスが起きる懸念があります。

政府に期待している具体的な支援があれば教えていただけますか?

東京電力が発表した風評被害に苦しむ水産業社への賠償金支払いは、禁輸によって影響を受けた関係者にとっては心強い支援となります。しかしながら、これから先の展望に目を向けると、2024年の帆立の加工・販売においても新たな課題が浮かび上がっています。その解決に向け、特に人員確保や作業効率向上に向けたサポートが不可欠です。

我々加工業者だけでなく、水揚げに携わる漁業関係者や販売に携わる商社・市場の方々も影響を受けていることを考慮すると、帆立業界全体における円滑な流通を促進するための包括的な政策を期待しています。

禁輸によって、自社の強みや競争力をどのように再評価していますか?

弊社は従業員数180人を擁しております。水産加工会社のなかではトップクラスの従業員数です。また、NASA宇宙食の衛生管理基準「HACCP認定工場」を取得しており、製品の品質と安全性を徹底的に管理しています。

いままでもこれからも「帆立を剥く製品」に注力し販売していくことが丸イ佐藤海産の強み・競争力となると思います。

現時点での状況から見て、地元水産業社の将来の展望はどのようになっていますか?

今回の中国禁輸の件もそうですが、世界情勢は目まぐるしく変化していきます。しかし「食べるということ」はどんな世の中でも不変です。人が食べることをやめないかぎり水産業の将来はあると思います。この業界を発展し、維持していくために漁業者・加工業者・商社・市場と連携し、北海道の雄大な自然が産んだ海産物を消費者の皆様に安心・安全に美味しくお届けすることが私たちの使命だと思っております。

食の安全性とおいしさを重視し、そのためには徹底的な品質管理と環境への配慮が欠かせません。技術の進歩を活かし、持続可能な漁業と生態系の保護に向けた取り組みを進めてまいります。これにより、未来の世代にもおいしい海の幸が残され、地域社会が豊かになることを目指します。

私たちは、消費者の期待に応えるだけでなく、地域社会と協力し、共に成長していくことで、水産業の繁栄を築いていく覚悟です。北海道の海の幸を大切にし、未来にわたってその価値を守り抜いていくことが、私たちの最大の使命であると確信しています。

(取材/2024年1月18日)


困難な状況に直面しても、地元水産業社は決して立ち止まることなく、自らの強みや競争力を再評価し、未来に向けて前向きなアプローチを模索している。政府や地域社会との協力を通じて、課題に対処し、業界全体の繁栄を図る意志が示された。
持続可能性と品質管理に対する高い意識を持ち続け、消費者に安心・安全な海産物を提供し続ける。技術革新を活かし、海洋資源の適切な管理と再生に注力することで、未来の世代にも豊かな海の恵みを継承できるだろう。