将来に向け、環境への配慮と持続可能な経営から新たな展望を開拓

将来に向け、環境への配慮と持続可能な経営から新たな展望を開拓

変化する環境に適応し、地域社会と連携しながら酪農業の健全な成長を確立。若い農業者が安心して農業に取り組める環境を整える。

インタビュー:千葉 実 (ちば みのる) 
標津町農業協同組合 代表理事組合長


クラスター事業ではどのような取り組みが行われましたか

まず、酪農業界全体での機械導入が行われました。これは、人手不足を解消し、作業の効率化を図るための重要なステップでした。搾乳ロボットなどの先進的な技術を導入し、生産性向上を目指しました。これによって、作業効率が向上し労働軽減が可能となりました。

農協の子会社でも哺育育成預託牧場の増設をおこないました。また、搾乳ロボットを導入して牛舎の増設を行ったところもあります。これによって、効果的な生産拡大が図られました。

クラスター事業では、協業法人や法人の経営体を活用した取り組みも行われました。これにより、複数の事業が連携し、地域全体での経済活性化が推進されました。また、クラスター事業と公社営事業を組み合わせて展開することで、地域の持続的な成長が促進されました。

政府の支援も受けながら、クラスター事業の計画が進められ、地域内での大規模な事業展開やTMRセンターの設置などが行われ、地域の農業経済の多様化が進みました。

これらの取り組みにより、標津町の農業は大きな変革を遂げました。クラスター事業による設備投資と機械導入を通じて、生産性の向上と持続的な成長が実現されました。個別の事業や個人の投資も地域の農業を支え、老朽化した施設の改善や未来への投資が行われました。このような取り組みが地域全体の発展を促し、酪農業の生産基盤が強化されました。

クラスター事業によって生産基盤を拡大した方々は影響を受けていますか

一部の酪農家は、増産計画を策定した上で、施設投資をおこないました。しかし、増産計画を持ちながらも、需要とのバランスが取れず、余剰な在庫が生じたことで経営に影響が及びました。特に、施設投資が大規模である場合、その増産計画を達成することが難しくなりました。

一方で、一部の経営体は地域を牽引する意識を持ち、施設投資を通じて地域を支える役割を果たそうとしました。しかし、需給の不均衡が続く中で経営の安定を図ることは難しく、生産抑制の影響が拡大しています。

現在の状況においては、需要と供給のバランスを取ることが喫緊の課題となっています。需要変動の予測が難しい中で、生産量を適切に調整することは困難です。このような状況下で、経営体は将来を見越して施設投資や戦略の見直しを検討しています。抑制化の影響を軽減し、持続的な成長を目指すために、業界全体での協力が求められています。

現在の生産抑制について、その理由と背景をどうお考えですか

新型コロナウイルス感染拡大による国内需要の減少が最も影響し、次に国内でバター不足が発生したことがありました。この状況に対応して、各乳業メーカーは国産バターを市場から消えないように努め、バターの増産が優先されましたが、その際に生じる脱脂粉乳の生産と国内の需要が一致しないという課題が浮上しました。バターと脱脂粉乳の需要のバランスが崩れ、余剰の脱脂粉乳が生じる状況が発生しました

酪農経営において、現在どのような課題や問題点があると考えられていますか

まず、最大の課題は生産抑制です。この抑制は、コロナ禍やウクライナ問題などの外部要因によって引き起こされました。酪農家は生産量を調整せざるを得ない状況にあります。特に、急激な抑制の影響は、適切な対応策の見つけにくさをもたらしています。

さらに、酪農経営は、状況が急変する中で即座に対応することは難しく、長期的な計画や方針が必要です。経営の変化や改善には時間がかかるため、迅速な対応が難しい側面があります。

特に、需要の変動や予測の難しさによって、過剰生産や需要不足が生じることがあります。このため、効果的な生産調整が求められています。

また、生産資材の価格上昇も酪農経営に影響を及ぼしています。飼料や資材のコストが上昇する中で、経営効率を維持することが難しくなっています。特に、飼料の価格上昇も生産コストに大きな影響を与えています。

さらに、過去の経験や対応方法が現在の状況に適用しにくいことも問題です。過去に生産抑制の経験はあるものの、今回の抑制は異なる要因によって引き起こされており、過去の解決策がそのまま適用できません。

組織や業界全体の協力も求められています。農協組織の中での連携が重要ですが、異なる立場からの対応策が存在するため、調整が難しい側面もあります。組織の一体感を保ちつつ、課題解決に取り組むことが必要です。

酪農経営の未来に向けては、長期的な計画と柔軟な対応力が求められます。需要予測の改善や効果的な生産調整方法の確立、生産コストの適正化など、多角的な取り組みが必要です。また、組織や業界全体での協力体制を強化し、共に未来に向けて進んでいく姿勢が重要です。

酪農経営を支えるための働き手不足の原因は何だと考えられますか

労働力不足の背後には様々な要因が絡んでいます。その一つは、酪農業の経済的な課題です。

次に、酪農業の厳しい労働環境が労働力不足を招いています。酪農業は季節や天候に左右されず、毎日の労働が求められるため、体力的な負担が大きいと感じる人が多いです。長時間労働が続くこともあり、労働条件の改善が望まれています。特に若い世代は、ワークライフバランスを重視し、酪農業の労働環境に魅力を感じにくいことがあります。

さらに、後継者問題も労働力不足の要因です。家族経営の酪農家では、次世代への経営の継承が課題となっています。若い世代が都市部での生活や他の職業を選ぶ傾向があり、農業を継ぐ意欲が低くなっています。このため、経営者が高齢化し、労働力が減少している状況です。

若者たちは他の産業や職業に興味を持ちやすく、農業の魅力を感じにくい傾向があります。農業の現実や持続可能性についての認識が不足しているため、酪農業への志望者が減少しています。

労働力不足の解決策としては、まず酪農業の収益性や待遇の向上が必要です。収入の安定化や労働条件の改善によって、酪農業を選ぶ意欲を高めることができます。また、労働環境の改善や、労働時間の見直しなども重要です。これによって、酪農業の労働環境を魅力的に改善することが可能です。

後継者問題に対しては、若い世代への啓発とサポートが必要です。農業の可能性や魅力を伝える教育プログラムやワークショップを展開し、次世代の参入を促進することが重要です。また、経営の継承プロセスや成功事例を共有することで、若い経営者の育成を支援できます。現在、若い人たちの関心を喚起する取り組みが求められます。また、教育機関との連携やインターンシップの提供なども、若者たちの酪農業への理解を深める手段となります。

酪農業がこれから目指すべき方向性について、関係者の意見は一致していますか

酪農家の視点から、これまでとは異なる意見やアプローチが広がっています。個々の酪農家は、自身の経営状況や価値観に基づいて異なる方針を持っており、同じ手法で経営を進めるわけではありません。例えば、放牧型やフリーストール、ロボットを使用した搾乳方法など、多彩なアプローチが存在しています。

同様に、地域ごとにも異なる考え方が示されています。関係者間での一致は容易ではありません。特に酪農家の収益性、投資方針、経営形態については、地域によって傾向が異なります。

消費者の需要に応じて酪農業が行われる一方で、消費者側の要望や価格希望も多様です。価格や品質に関する意見の相違が見られるため、酪農業は供給と需要のバランスを保つことが重要です。消費者は食品の価格や品質を検討しながら購買を決定するため、農産物価格と消費者の満足度の調和が求められます。

酪農業が進むべき方向性について、関係者の意見は一致しているとは言い難い状況です。しかし、地域社会との連携や消費者とのコミュニケーションが極めて重要です。価格や生産方法に関する異なる意見が存在する中で、農業団体や関連組織は酪農業の持続可能性と地域の成長を同時に実現するために、協力を図り、異なる意見を調和させることが必要です。

農業団体は、生産者と消費者の両者を考慮した価格設定や供給調整の仕組みを構築することが大切です。酪農業は経済的な持続性を確保しつつ、消費者に満足のいく品質と価格で商品を提供するバランスを取る必要があります。同時に、国の政策や支援策も考慮に入れつつ、酪農業の持続可能な展望を支えるアプローチが求められます。

異なる意見やアプローチが存在する関係者の中で、酪農業の未来に向けては地域社会や消費者との協力を強化し、経済的な収益性と環境的な持続可能性を同時に実現する戦略を模索することが大切です。

将来に希望を持てるようにするためにどのような取り組みをされていますか

酪農業の将来に向けた具体的な取り組みや政策の展望は、基礎学と未来学の融合が重要です。未来を見据えつつも、確かな基礎を築くことが不可欠です。若い世代には、新しいテクノロジーや遺伝子解析のような未来的な要素を取り入れながらも、農業の基本をしっかり学ぶことが求められます。

一方で、農業における基礎となる土地への着目も大切です。特に根室管内の地域は土壌の数値が重要であり、土壌の品質を数値化して分析することによって、適切な資材投入や肥料の調整が可能になります。これにより、作物の品質向上や効率的な生産が実現します。

さらに、人との関わりも重要です。農協は、農業者の求人や雇用の仲介を通じて、人材確保を支援する役割を果たすことができます。地域の協力を得ながら、農業の発展に貢献する取り組みも大切です。

将来に向けての展望では、和牛の受精卵を活用した生産や、畜産と農業の組み合わせにも注目が集まっています。地域の特性に合わせて、新たな生産モデルを採用することで、酪農業の未来を切り拓くことができます。

また、組織の連携も重要です。農協は、畜産業者や農業者、専門家などさまざまなステークホルダーの意見を取り入れつつ、持続可能な成長を促進するための戦略を共有する場として機能することができます。

最後に

酪農業の未来に向けて展望を明るくするためには、重要なステップが求められています。

受精卵を活用することで、畜産業全体の質の向上と需要への対応が可能です。

酪農業の未来を担う新しい世代の農業者を育てるために、就農者への支援が必要です。経営のノウハウや技術指導、資金援助を提供し、若い農業者が安心して農業に取り組める環境を整えることが重要です。新規就農者の参入により、業界に新たな活気とアイディアがもたらされます。

単一の製品に頼らず、チーズなどの多様な生産モデルを導入することで、市場の変動に柔軟に対応できる体制を構築します。多様な生産アイテムにより、需要の多様性に合致した提供が可能となり、酪農業の安定的な成長が促進されます。

酪農業の将来を展望する上で欠かせないのは、価格の調整と市場の安定化です。適切な価格設定により生産者の収益を確保し、市場の健全な成長を促進します。価格変動に柔軟に対応するメカニズムを構築し、酪農業全体の繁栄を実現します。

酪農業の将来に向けて環境への配慮と持続可能な経営が重要です。有機農業の導入や環境に配慮した生産方法の採用により、地域社会との調和を実現しつつ、長期的な成長を可能にします。持続可能な経営は地域資源の保護と酪農業の希望を結びつける基盤となります。農業技術や生産方法の研究開発を進めることで、生産の効率化や品質向上を実現します。最新の技術やアプローチを導入し、業界の競争力を向上させることができます。研究機関との協力や情報共有を通じて、新たな展望を開拓します。

これらのステップを組み合わせることで、酪農業の展望はより明るくなります。変化する環境に適応し、地域社会と連携しながら、酪農業の健全な成長を確立していくことが大切です。

(取材 2023年8月7日)