酪農危機からの脱出は可能か!?|経済的負担を軽減しつつ、極力海外に頼らない方法を模索

酪農危機からの脱出は可能か!?|経済的負担を軽減しつつ、極力海外に頼らない方法を模索

生産抑制や価格高騰に対して経済的な補助を行いながら
農家を支えるために今後を見据えた基盤整備を行う

インタビュー:髙橋 勝義 (たかはし かつよし)
中標津町農業協同組合 代表理事組合長


コロナ禍に入り起きた世界規模での経済停滞と物価高騰。拍車をかけるようにロシアのウクライナ侵攻と円安。国内の価格高騰は加速し、その影響は地域の一次産業である農業にも大きな影響を与え、飼料や資材は過去に類を見ないほど高騰した。そのような中、各農協は農家に対しどのような支援を行ってきたのか。


農協として経営のアドバイスや資金面など、
どのような動きをされていらっしゃるのでしょうか。

 畜産クラスターで投資している方がかなり多く、皆さん施設などに億単位で投資しています。そうすると当然、1日も早く牛舎をいっぱいにしたいというのが当たり前で、牛乳の生産に対する意欲が非常に強い組合員の方が多いです。

しかし、コロナ禍に入り生産抑制をおこなうことになったので、私どもとしても非常に難しいかじ取りをする必要性に迫られました。大きな投資をおこない搾っている人に搾るなとは言えません。とにかくアクセルに足をかけないようにと話をさせていただいています。

 例えば牛を持っている上、50頭、100頭搾る能力があるのに10頭搾って終わらせるとなると不採算になってしまいますので、まずはアクセルを踏まないで必要以上に乳量を増やさないように。ブレーキを踏めとまでは言いませんが、皆が協力していることなので、ある程度自分の持ち枠というものに意識を持って臨んでもらいたいということを常にはアナウンスしてきました。

 私は蛇口を締めるような話は一切言いません。生き物ですので、時には調子が良く牛乳が思ったより出るという農家も出てきますし、一方でやはり病気などで頑張っても搾れないという方も出てきます。ですから、搾れない人の枠は農協で預からせて頂き、そしてどうしても搾るという方には、その枠を少しでも回すようなことをさせてもらっています。お互いに枠の流動化を含めて、私どもとしては農協でできるだけ調整をして進めていくことを基本的に進めてきています。

 今、牛の雌雄判別という雄雌がはっきりする種が普及してきており、そうすることで生産が順調にいくということで、国も対策してくれていますし、農協もそれを使いましょうと進めてきました。しかし、そのことによって牛の頭数が増になっていくわけです。

 後半になるような牛でも処分して減らしていかない限り、頭数を持っていればどうしても牛乳は出てしまうので、今年の4月から6月の間継続して5万円交付し、とにかく淘汰を進めてほしいと進めてきましたし、大分その効果はありました。それで状況を見ていましたが、6月くらいはお産のピークでやはり牛乳が出ます。やはりこのままいくと生産が伸びすぎてしまうということで、また9月からの2ヶ月ほどの期間3万円を交付し、淘汰できるのであれば淘汰して欲しいと継続的におこなってきました。

 12月に入って国の補助事業として、府県に経産牛1頭当たり1万円交付しました。しかし北海道は7、200円という半端なものになりました。

 これは確かに府県は餌まで濃厚飼料プラス餌、粗飼料も買っていますから一概には言えませんが、ただ我々も自前の草を回収するのにコストはかかっていますので、私どもはおかしいのではないかということを農水省に伝えましたが、道はなかなか府県と金額を同じように近づけることはできないということでした。

 その7、200円は年内に入るということも見えてきましたし(昨年12月時点)、やはり我々農協としてもやはり府県と同じぐらいのものにするためにさらに2、800円相当を期中に直接農家に助成するよう進めてます。酪農家向けと、一部畑作もありますので、畑作に関してはやはり肥料の形で総額4、500万円をとなります。

 今非常に酪農家も年越しを含めて相当数負担を感じながら、今営農計画も今つくっていただいてますので、何とか乗り越えるための力になればと言う思いです。特に我々酪農家は町から支援いただくことはほとんどありませんでした。しかし、この状況は過去のこととは比較に類しないということで、私どもは早くから今回だけはとにかく思い切って対策してくれないかと中標津町にもお願いしていました。それぐらい酪農家にとってみれば、なかなか簡単に抜けられるような状態ではありません。

 中標津町としてもこの状況を十分理解をしていただき、議会も通りましたので8、086万円程を年内にいただくこととなりました。頭数も全部把握しているので、準備出来次第年内に対応すると聞いていますし、道からも1頭6、800円で対応していただけるということで、年明けにはなりますが、1月か2月には支払いになると聞いています。

 各方面から今回のことで応援していただけるということで、組合員にはここをみんなで乗り越えようと話をさせていただいています。さらに国からも3月に向けて今度緊急屠畜事業の提案をもらっています。ただ、これに関しては要綱要覧はまだはっきりしておらず早く示して欲しいと要望しているところです。

 私どもは大空町にあると畜場に持っていっているのですが、処理できる頭数に限界があり、10日の間で10頭前後です。枠が限られた中でやっていかなければいけませんので、組合員には少し時間が欲しいと言う話をさせていただいています。

 できるだけそういった事業使えるものを最大限酪農家にも示して、それに参加する条件を確認して、使えるものは使っていくように農協としては応援していこうと考えています。牛乳を減らしながら頭数も減らしていくということが目的ですから、と畜する牛は当農協では条件をつけさせていただいていて、お産して6ヶ月以内の経産牛をと畜した場合が5万円になります。無条件にしてしまうともう乳が出ていないような牛をと畜に出してお金だけもらおうということでは目的がはっきりしなくなってしまいます。

 一口に淘汰すると言っても相場が下がっていますし、まだ牛乳の出る牛を淘汰することは躊躇すると思います。効果も見えてきましたので今後も継続していく必要があります。

 今回こうやって頭数に対して4、500万程度のものを今やりますが、それでだけでは済まなくて、農協としてもある程度まとまったお金を用意していないとスムーズにいかないので、状況を見て判断しながら、最終的には組合員が一戸も減らないようにとにかく対応しいていこうと考えています。

今回の状況は原因がどこにあり、またいつまで続くだろうと思われますか。

 やはりコロナ禍から始まり、ウクライナとロシアと紛争と重なってきましたが、一番悪いのは円安です。日本は全くそれに対して何もしてきませんでした。

 時にはアメリカの作物の出来次第などの理由で価格は動きます。それに関しては作物ですから覚悟しています。しかし円安は許容できる範囲を超えています。それを私たちに頑張れというのはあんまりです。農業に限らず皆さん同じように大変な苦労をしていると思いますが、日本の対応ももっとなんとかならないのかと思います。

 色々な見方をする人いますが、私個人的には現状を見るに以前より経済は動き出しているのではないかと思います。海外の人たちもやはり日本という国に対して期待し、相当数入ってきているということで、少しずつ盛り上がってきています。後はやはり中国です。

 中国が今、若い連中がゼロコロナに対して批判的になってきており、混乱しているようですけれども、恐らく数多くのお金持ちの人、日本に一番来たいと思っている人は沢山いると思います。そうすると、やはり不安はありますが、日本で買い物をし食事をする。令和5年の夏以降くらいにはその結果が見えてくるのではないかという期待感を持っています。
 この先も続くぞみたいなつらいことは、もう組合員に言えませんし、今の若い経営者たちはこういった状況にあまり慣れてません。

 過去を振り返ると大変な時期は昭和、平成と何度もありました。昔のことを今言ってもどうにもなりませんし、その頃のことを知らない人が多くなりました。今のコロナ禍の前は、普通の牛でも8〜90万円で売れていました。それを当たり前として経営してきた人の中には、突然このような状況になりかなり参っていると思います。
 我々としては意欲をなくさないように様々な対策を打ち出し金銭面でもサポートしていきたいと考えています。

 投資をしたためリース物件を持っているところが多いですし、単年度の支払いも大きいです。やはり相当な負担になりますので、リース期間を延長するなど対応しています。また組勘整理のために毎年お金を借りている人もいます。

 極力使わないよう実は通常の金利を高くしてあります。それでもどうしても使わなければいけないケースが出てきます。そういった人たちもやはり単年度の支払いが大きくなりますので、これについては金利下げて対応するようにしています。
 とにかく単年度の負担少しでも減らそうということで、金融面でも農協独自の対策をおこなっています。

 十分かどうかは別ですけれども、今乗り越えない限り次には繋がっていきませんので農協でやれる範囲のことを取り組みながら、何とか早く搾れる環境、あるいは不採算となってしまっている牛の価格が極端に高い金額でなくても良いので戻ることを期待しています。病気になった牛を治療するのにも経費はかかりますので、牛を放置するような事態だけは避けたいと考えていますし、農協ができることは大きくはありませんが、皆で協力し合って早く今の状況を脱することができればと思います。

今後農協としてどうのように業界を支えていこうと考えていらっしゃいますか。

 農協としましても、草地更新や基盤整備のために事業をおこない餌の回収レベルも上げるようにしました。あるいは外国の餌に頼らないようにということで、飼料用にデントコーンも若い人たちを中心に積極的に作るようになってきています。現在ではデントコーンだけでも1、400ヘクタールぐらい作付けています。多くのリスクはありますが、自らの粗飼料を確保することを進めています。

 価格が高いから餌を減らすことをしてしまうと、牛が駄目になってしまいます。

 草の中の力がどの程度のものなのか、分析するよう働きかけています。分析をして確認し、その不足分をしっかり対応することが牛にとっては一番大事なことなんだということで、農協で分析費用はほとんど負担しています。そのデータを農協で集めることで平均値が見えてくるので、乳の出が悪い組合員の方がいれば、相談いただくことで餌づくりのアドバイスもできるようになります。

 とにかく管理をすることが重要になってきますので、私どもとしては分析をして欲しいと思いますし、そうでなければ全て始まらないということを言って現在進めてます。

 施設などに投資してまだ1~3年目という組合員の皆さんが頑張ろうとしているので、とにかく情報を集めて回復度合いなど適切に組合員に情報を流していくことが大切ですし、好きなだけ搾れということにはなりませんけれども、搾れない方の牛乳をできるだけそういう方々に回しながら何とか乗り切っていくことを進めていきたいと考えています。

 当組合では乳製品工場も持っていますが、やはり職員も今の状況の中で、自分たちもできるだけ頑張って力になりたいということで、今通常の販売が120%を超えるぐらいは頑張って売ってもらったり、あるいは私どもお付き合いしている方々も友達に送ったり、親戚に送ったりということを含めて、かなり利用もしてもらってありがたいことだなと思います。

 学校も冬休みに入りましたが、昨年に引き続き家でも牛乳を飲んでもらいたいということで、110万円の予算を計上し牛乳券の少し量を多くしてとにかく教育委員会を通して皆さんに差し上げたり、出来うる限りのことを様々なところに声をかけさせていただいています。

 十勝の方からもお祝いに使いたいから牛乳を送って欲しいと頼まれています。また、川崎市の農協とお付き合いがあり、そこは現在酪農家がいない地域でもありますので、当組合で作っている牛乳を販売していただいたりしています。

(取材/2022年12月22日)