中標津町の子育て支援②|家庭的保育施設くるり中標津 子育て支援のありかたと運営

中標津町の子育て支援②|家庭的保育施設くるり中標津 子育て支援のありかたと運営

家庭的保育施設くるり中標津
子育て支援のありかたと運営

別海町で小規模保育所を運営している本覚寺が、中標津町で新たに家庭的保育施設を開設した

インタビュー:加藤 泰和(かとう たいわ)
        本覚寺 住職


中標津町に保育施設をつくろうと思われた経緯をお聞かせください

 去年の夏頃に、門徒総代から星の子保育園さんが閉園するという話を聞きました。知り合いのお子さまが通っているけど、閉園の案内が来たのでこの先が不安になり、解決のために新たな保育施設をつくれないかというお話があったので、中標津町に相談してみました。

 事情を伺うと、星の子保育園さんが閉園した後に、その建物を使って保育施設を引き継いでくれる方との交渉が進んではいるものの、3月31日に閉園した建物を4月1日に新規開園することには無理がありそうだという状況でした。掃除や修繕を考えるとゴールデンウィーク明けまで開園できないかもしれないとの見通しもあり、それまで待てないご家庭やその他のニーズにも応える必要があることから、4月1日から開園できるのであれば大変ありがたい申し出であるというお話をいただき、まずは家庭的保育施設として少人数保育からスタートすることになりました。

 もちろん新規開園から利用される人数もそんなに多くは望めませんし、星の子保育園さんを実質引き継ぐこととなる新しい保育施設(こども園 かぽの)との兼ね合いも考えると、家庭的保育施設にとしてスタートしたのは良い選択だったように思います。限られた期間で開所を目指すとなると、保育士の確保も含め小規模保育施設より開所のハードルが低い家庭的保育所は最良の選択肢でした。

家庭的保育施設とはどのような施設なのでしょうか

 家庭的保育施設は、平成27年からスタートした子ども・子育て支援新制度に位置付けられた、定員5名の保育施設です。また家庭的保育者という資格があれば、保育士資格を持っていなくても働くことができる、保育所の小型版というよりベビーシッターの大型版といったイメージの施設です。家庭的保育者は一定の研修を修了すれば誰でも取得することができる資格です。家庭的保育者は自宅やテナントを利用して1人でお子さま3人までお預かりすることができ、補助者がいれば5人までお預かりすることができます。

 保育士資格が必ずしも必要ないというのが家庭的保育施設の特色ですが、くるり中標津では普通の保育所と同様に保育士と看護師を配置して運営しています。現在別海町の本覚寺内にて運営している小規模保育施設も開園当初は家庭的保育所でしたが、利用を希望される方が増えてきたので、1年後に小規模保育施設へと移行することとなりました。小規模保育施設は定員19人の施設で、フルサイズの保育所を縮小したものなので、保育士や看護師を配置しなければなりませ ん。家庭的保育者を配置していた施設が小規模保育施設に移行した場合、家庭的保育者では資格要件を満たさなくなってしまうので、先を見据えて保育士と看護師を配置しています。くるり中標津でもニーズがあれば小規模保育施設に移行できるように、準備をしています。

子育て保育の今後と、くるりの運営方針についてお聞かせください

 現在、幼児教育・保育施設は大きな変革の時期にあります。例えばかつて、幼児教育・保育施設の職員は行事の準備や会議、計画・報告などの書類作りに忙殺されて、本来の仕事である子どもと向き合うことに十分なエネルギーを注げないといった問題が指摘されてきました。場合によっては勤務時間内に保育や行事の準備が終わらずに、持ち帰り残業が常態化しているという指摘もありました。

 しかし情熱をもって子どもたちと向き合い、働きやすい環境とするためにはこれらの悪習を断ち切る必要があります。もちろん子どもたちの命を預かっているという重たい責任に見合うだけの給与も保証されなければなりません。平成27年から子ども・子育て支援新制度がスタートして、これらの問題を解決していこうと国の制度は大きく変わりましたが、なぜか困っているはずの現場がなかなか変われない状況にあります。制度の理解がアップデートされていないことと、習慣はなかなか変えられないという現実があるのでしょう。

 うちの園では新制度を活用した新規開園というメリットを活かした、残業のない園になっています。また行事や保育の準備で保育士が疲弊しないようにすることもできていると思います。小さな園なので行事を企画し、準備で何かを作るとしても、保育の一環として子どもたちと一緒に作ればよいと思っています。綺麗で立派なものでなくても、一緒に作ることで子どもたちの成長につながればよいのです。大人が整ったものを準備しなければいけないと思うのは、強迫観念の一種なのかもしれません。いま、保育で何より大切にされていることは、大人が何をするかということではなく、子どもたちの興味・関心から保育を広げるということなのです。

中標津町と別海町では、違いややりにくさは感じましたか

 別海町は子ども・子育て支援新制度を利用した移行が早く、公立施設も私立施設も幼稚園も保育所も全て認定こども園に移行する方針を打ち立ててからの動きが迅速でした。私立幼稚園2園はそろって新制度開始の平成27年(2015年)に認定こども園に移行し、公立幼稚園3園も1年遅れて認定こども園になりました。今は全ての幼稚園・保育所が認定こども園に移行しています(へき地保育所は除く)。

 認定こども園は親の就労状況に関わらず通うことができる施設としての特徴を持ち、全ての子どもに質の高い教育・保育を提供できる施設として、国も強力に移行を進めています。例えば保育所は親の就労状況が共働きで無くなった場合には、退園しなければなりません。また妊娠・出産で産休・育休を長期に取得した場合でも、すでに通っている兄弟姉妹の退園を求められたりします。子どもの状態ではなく、親の就労状況などで子どもの居場所が安定しないことは、子育て環境として決して望ましいものではありません。これらの課題を解決すべく、子ども・子育て支援新制度では、親の就労状況に左右されない安定した子どもの居場所として、認定こども園を推進しているわけです。

 中標津町では認定こども園への移行があまり進んでいないような印象があります。近年、私立幼稚園が認定こども園に移行したようですが、保育園の話は聞きません。制度の趣旨を考えると、保育園を含めた全ての施設が認定こども園に移行しても良いと思います。

 また以前に中標津町在住の保護者から、職場が別海町になり別海町の幼児教育施設を探しているから入園できないか?という問い合わせがありました。これは新制度では広域利用というかたちになり、別海町の施設に通うとしても中標津町から保育認定をもらわなければなりません。これを受けて中標津町に問い合わせたところ、前年の冬までに言ってもらわないと広域利用はできないという回答でした。本来の制度の趣旨ではそんなことにはなっていないので、少し理解が進んでいないとの印象を抱いたことがあります。

 就労は一年の中で決まった時期に始まるものではありません。従って一年を通して保育認定が行われるべきだと思います。

人生のスタートがその後の人生を決める

 国が幼児教育・保育に力を注ぎ始めたのには大きな理由があります。それは乳幼児期の教育がその後の人生に与える影響の大きさが、世界の研究者たちによって明らかになり始めたからなのです。代表的なものはノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマンという人の研究ですが、ヘックマンによれば、教育への投資(国・社会が教育へかける費用)が最も効果を出しうるのが幼児教育期であり、小学校・中学校・高等教育と進むにつれ教育効果は弱まっていくとの結果が示されています。より良い高校へ、より良い大学へと傾けていた教育感が一変する衝撃的な研究結果でした。

 他にも3000万語の格差※という著書で知らしめられた研究など、乳幼児期の教育がその後の人生に最も大きな影響を与えることが知らされたことで、世界の教育は乳幼児期の教育重視へと転換を始めました。

 また個性の尊重もこれからの時代に必要とされています。今までは小学校以降に行われてきた画一的集団教育に合わせるため、幼児教育は小学校への準備だと考えられていた時期がありました。これにより、園児一人一人の個性を伸ばすことより平均化することに重きを置いていたとも言えます。

 しかしAI技術の進歩やロボットの進歩により、平均的な人材はAIやロボットに取って代わられる未来がすぐそこまで来ています。これから求められるのは人間らしさ、つまり個性を発揮できる人を育てていく教育であり、他人と違うことを否定されない教育なのです。これまでのように誰かがすでに発見した答えを丸暗記する教育から、答えのない問題に取り組むことができる子どもたちの興味・関心に注目した教育が求められています。

 くるり中標津は、少人数保育の良さを活かし、子どもたちそれぞれの良さに注目した、個性を否定しない保育を目指していきます。その子の人生の大切なスタートの時期なのですから。

(取材/2022年8月3日)

※「3000万後の格差」
 著者/ダナ・サスキンド
 訳/掛札逸美(かけふだ・いつみ)
 出版社/明石書店