油の高騰で食材だけではなく、全ての仕入れが収益を圧迫老舗はどのように対応したのか
インタビュー:佐藤 秀俊(さとう ひでとし)
そば処福住総本店 代表
物価高騰による影響
小麦などの粉関係のものに関しては、国の政策として日本の穀物の輸入の兼ね合いで毎年、春と秋の年2回価格改定があり、毎年価格が上がっていて、もう下がることはないと思います。
今年の春にはウクライナとロシアの戦争が始まったことで価格が倍以上になり、その後すぐに各製粉メーカーは次の秋を待たず6月に値段を上げました。情勢を見ながら秋に一気に値段を上げるのではなく、2段階で上げるための第一段階として6月に値上げをしました。しかし今年の秋の輸入小麦のメーカー販売価格が一次据え置きになりました。国内の情勢を考えると、来年の春と秋の改定時の上げ幅が広くなると思います。それが商品に反映されてくると20%以上は上がってしまいます。そば粉は小麦よりも高く、もともとの高い粉に対して非常に高くなっています。
食用油は2倍近くの価格になっています。使わざるを得ないものですし、使うサイクルも決まってるので長く使えるように保たせようと思っても、フライでも天ぷらでも綺麗に揚がる前に焦げてしまって揚げが悪くなります。やはり通常通りの使い方をしなければいけません。今後いい方に向かっても、メーカーさんは今の定価を下げるということは考えていないと思います
テイクアウトで使用している容器代も今年の春に約10%上がりました。次の値上げの案内がすでに来ていて、今回はさらに14〜15%上がる予定なので、今年だけで25%程上がることになります。箸などに関してもこれから上がると思います。
輸入物が上がっている理由のひとつとして、燃料代が上がっているのでそれが運賃値上げに反映されていると思います。今年に入って、ウクライナ情勢と言っているけれど、各メーカーも我慢していましたが、価格を上げたかったんだとも思います。今までは購買意欲を下げないために値段を極力抑えていて、このタイミングで上げたようにも感じています。
お店での対応
6月に全メニューでほぼ100円の値上げを行いました。100円は大きい価格ですが、これは言うなれば読み通りです。上がり幅を考えると、まず準備としてこのぐらいの価格の上げ方をしなければ、値上げ後の高騰、つまり経費の飛び跳ね具合に対応できないだろうと思い、6月の価格変更の際の金額を設定しました。
問題は提供しているもののクオリティーだと考えています。原材料もいいものを使っていますし、量もほかのお店の20%増しくらいで提供しているので、お客さまが値段と料理を見比べた時に、このぐらいのクオリティーのものならこの値段になっても仕方がないと思ってくれるものにしておくべきだと考えていますし、お金を出してくれる方も納得できないところもあるでしょう。その判断は利用してくれるお客様が決めるものだと思っています。
当店で毎週火曜日に提供しているそばの日の料金も同時に値上げを行いました。そばの日はお客さまに定着しているイベントだと思っていて、13年目で初めて100円値上げしました。それでもこの値段は安いと言ってくれるお客さまもいます。そこはお客さまがどう見てくれているかということが大事ですし、ランチやディナータイムの時間制限ではなく開店から閉店までこのクオリティーと値段で提供できることがこのイベントの強みだと思っています。
今後の課題
なにより問屋さんに一番気を遣っています。納品するために問屋さんは細かい部分で頑張って下さっていますし、問屋さん側にあまりにも負担がかかると問屋さん自体が営業できなくなる可能性もあるので、あまり無理して欲しくないと思っていますし、問屋さん側にもそういった話をさせていただいています。
人件費や材料費などが高騰し、売り上げが上がらない中で経費ばかりが増えているので、企業やお店側がついていけるのか。
日本国内的では物価を上げましょうという風潮が強まりつつありますが、一番肝心な働き手、お給料をもらう人達の勤め先の利益が上がらないことにはどうしようもないという現実があります。国が思うほど、物価が上がってもお客さんやクライアントの数が等しく増えるわけではないですし、どうやって企業側に売り上げを上げさせるとことができるかが、大変な問題だろうと思います。
現場は取引先や利用客が減ってしまうんじゃないかという不安の中でやっていますし、国が物価上げましょうと騒いだところで、経営者も含め一生懸命仕事をされている方々に、かなり負担を強いていると見ています。
(取材/2022年8月8日)