別海町まち・ひと・しごと創生総合戦略| 町民の目線で思う町の戦略の今

別海町まち・ひと・しごと創生総合戦略| 町民の目線で思う町の戦略の今

戦略検討推進委員の立場から見て総合戦略に感じることと別海町の人口問題緩和への糸口

インタビュー:加藤 泰和(かとう たいわ)
         別海町戦略検討推進委員
         学校法人宝誠学園 別海くるみ幼稚園 園長


第2期別海町まち・ひと・しごと創生総合戦略が始まってから1年過ぎてどう感じられていますか

 地域の人口問題を検討するときに社人研(国立社会保障・人口問題研究所)の数字を参考にしますが、社人研が推測した別海町の令和2年度の人口推計14,553人に対して、実際には14,415人と推測した人口よりも少なくなっています。これは社人研(別海町の独自推計も含めて)の推計よりも改善しようと第1期に策定した施策の結果が出ていないということを表しています。

 このままでは、問題となっている2060年、つまり40年後に別海町の人口が7,656人に減ってしまうとされている推計値よりもさらに人口減少が厳しくなり、第2期に向けて緊急度が増した、あるいは取り組みを強めなければけないことが第1期終了後に明らかになったわけです。

 しかし、第2期の総合戦略の冊子を見ると、「これまでの4つの基本目標(図)については基本的に維持しつつ」とあります。1期の施策の結果が明らかに出ていないのにも関わらず、大きな変更もなく計画を維持すると理解できます。あるいは「持続可能な開発(SDGs)」や「結婚・出産・子育ての希望をかなえる誰もが活躍できる地域社会をつくる」など言葉としては美しく、大切なことは書いてありますが、具体的な政策と重要業績評価指標値(KPI)との整合性がとれていないと感じました。

この総合戦略は人口減少を抑制するためにたてた政策です。うまくいかなければ当然人口減少に歯止めがかかりません。

 具体的には、子どもを産み育てられるお母さん世代が増えないことには、子どもが生まれず人口減少を続けます。施策をみてみると「新規就農者数」「漁業就業支援」「起業支援」の施策を打つあります。でもそれは町に元々ある施策であり、新しい手を打っているわけではありません。子どもを産み育てられる20代~30代の女性に向けたピンポイントの施策がないわけです。

 さらに具体的に言えば、0歳から2歳の乳児を預かれる保育施設は、別海町内に偏在しています。別海町の中心部には別海保育所、上春別の駅前地区、上西春別にも保育所があるからそこでは預けることができますという話になっていますが、尾岱沼や上風連、中西別や中春別には0歳から預かってくれる施設がありません。

 赤ちゃんは遠くまで送迎して保育所を利用する年代ではありません。熱を出したり、具合が悪くなったら迎えにいかなければいけないことが多いです。乳児ほど身近なところに保育施設がないと不便です。

 これは新規就農に関しても懸念されることのひとつで、若い世代は子どもを預ける場所があるかと心配される方もいます。別海町に移住してきて就農し、大自然の中で子供を産み育てたいと思った時に、近くに子どもを預かってくれる場所がなければ、夫婦共働きで酪農の仕事ができません。20キロ以上離れたところに保育所があると言われても不安は拭えません。

 別海町は広域性が特徴の町なので、0~2歳児を預かれる施設は偏在させるのではなく、小さくてもよいので10キロ圏内、15キロ圏内には必ずないと子育て世代の親には使いにくい。別海保育園に申し込んでも定員を理由に断られるケースもあります。別海保育園を希望して断られると仕組み上、西春別の保育園を紹介されることになります。遠方には通えないからと取り下げると、待機児童にはならないのです。

 別海町子ども・子育て支援事業計画には0~2歳の保育の受け皿の偏在が問題ですと書かれていたにも関わらず、策定される地域福祉計画の中では抜け落ちることも危惧しています。子育てニーズには細かく対応していきますとなっているのに施策には入っていない。これは大きな問題です。

 具体的な方法や根拠も示して「この方法が解決可能なので検討されたらどうですか」と提案致しましたが全く進みません。これらのことが、人口減少に大きな悪い影響を与えるのではないかと心配しています。

 子育て施設は若い女性の職場としても魅力的ですし、また、子育て環境を整えたことで、人口減少に歯止めをかけられた全国の事例を参考にしていただければとも思っています。

意見を言う場は設けられていますか

 総合戦略では、町民で作られた戦略検討推進委員会が、施策に対して意見や提案を行うことになっています。

 計画をまとめようにも町の職員さんだけでは忙しく、目が行き届かないところもあるでしょう。例えば町政より大きな単位の国の動向や北海道全体の動向についても、現場が忙しい故に充分に感じたりることはできません。各界の様々な情報収集をしているエキスパートを会議に招いて、計画をより良いものにしていきましょうということです。

 しかしながら印象としては、役場の内部で計画を作って、会議においては概ねこれでいきますという流れになっています。きっと自分たちがなぜ委員として呼ばれるのかわからない町民の方もいらっしゃるのでは無いかと思います。

 特に残念だったのはふるさとテレワーク事業です。僕は総務省の実証実験事業であるふるさとテレワークで事務局長をやっていました。

 現在はその経験を活かし、幼児教育とリモートの取り組みを北海道幼児教育推進センターなどと協力し合って進めています。今こそ、ふるさとテレワークの経験が活きていると感じています。 ですが別海町としてのテレワーク事業は総合戦略の第1期をもって終了となりました。第1期の基本を維持しつつとあり、他の施策は継続されている中、令和2年の3月にテレワーク事業は外されました。この時期は新型コロナウイルスの影響から、正に世の中がテレワークやリモートでの仕事に舵を切ろうとしていた時期です。

 結果が出ていない基本計画を継続させ、これから結果が出そうなテレワークをやめる。なかなか納得できるものではありませんでした。

 社会から必要とされるタイミングであり、結果が出ていなくてもこれまで培ってきたものがあるので、別海町はアドバンテージが高く、これから一番伸びそうな事業です。テレワークを活用して、人口減少対策に結果を出している自治体もあります。今からでも復活してほしいと願っていますが、難しいのかもしれません。

他に町として若者のために何ができると思いますか

 若い人が町から出ていってしまうのは仕方のないことです。別海町に魅力を感じる人もいれば、都市と比べて魅力がないと思う人もいます。そして高等学校以降の学びの場が町内にはありません。ですから、一度出ていくことを前提に、帰ってきてもらうための仕掛けを作らなければいけないと思います。基本的に中学校までは地元の中学校に通いますから、中学校までに「高校や専門学校、大学も好きなところに行って、やがて別海町はよいところだから帰っておいで」と、「自由に勉強しておいで」と言って送り出せる仕組みがあればよいと思っています。その話をすると「就職先がないから」という話が必ず出ます。

 それは、サラリーマンとして帰ってくることが前提になっています。仕事がないという問題意識があるのであれば、別海町で開業・起業しようと思えるように、仕事を作ってくれる人材として帰ってきてもらえるような仕組みづくりをするのもひとつの方法だと思います。

 独立起業に関して中学校までに学べるものがあって、送り出したあと東京のどこかの会社に勤めたとしても、そこでの経験を活かして別海町に帰ったら会社を作ろうとか、事業を打ち立てようと戻ってきてくれれば、就職先の不足が若者視点で解消されると思います。大きい会社を誘致することも大事だけど、地元で起業してくれる人を増やすことが必要です。

 現在の職業体験は仕事を知ってもらい就職してもらうという視点でしか見ていません。体験先に行って、どうやったら園長先生になれる?社長になれる?と聞くような人がいないのです。全ての人にそれが必要というわけではありませんが、「別海町に帰ってきて事業を起こしてみないか」とメッセージとして伝えて送り出すことも大切な取り組みだと思います。東京の会社と別海町の会社どちらに就職しますか?といったら給与や条件面でなかなか敵いません。

 都会と比べれば別海町は確かに不便です。不便だからこそたくさん足りないものがあります。でも足りないものがたくさんあるからこそ事業を起こす価値があります。そう伝えてあげるだけでも随分違うのではないかと思います。

 単純計算ですが、100人送り出して1年で1人でもそういう人が町に帰って来れば、1年に1社ずつ新しい会社が立ち上がります。最初は小さな会社かもしれませんが、いずれ10人、20人と雇用するようになると就職先が増えるわけです。それと共に町の魅力も増していくように思えます。

 第1期も第2期も施策を見る限り積極的に人口を増やそうというビジョンやマインドが表現しきれていないように感じてしまいます。もちろん大切な施策も多くありますし、担当された方も大変ご苦労されたことだと思います。ただもう1歩だけでもよいので、私たちの意見を積極的に検討して欲しいとも思います。

(取材/2022年1月27日)