第三セクターの赤字経営から民間への委託を経て
なぜいま再び町の直営へ移行するのか。
町全域の光回線の整備を決めたその決断。
別海町の未来に何をみるのか─
別海町長 曽根 興三 (そね こうぞう)
別海町ふるさと交流館を再び直営とする決断
─経緯とその理由とは
再び町の直営にする決断をしたのはどういった理由からでしょうか。
当初、私が担当部長をやっていた頃に、町が出資する第三セクター「株式会社べつかい振興公社」を設立し、平成3年より管理運営をおこなっていました。その間、町から委託料・補助金という形で年間約1,300万円から、多い時で約9千万円もの資金投入を行わなければいけない状態でした。そのため平成15年に第三セクターの母体をそのままに指定管理者制度を用いて運営をおこなう形へと移行することになりました。
その後、前任の町長がそれでは管理運営をおこなう上で望ましくなく、民間の方がサービスも向上し経費も少なく済むのではないかと判断したのでしょう。平成21年度より第三セクターを解散して民間に貸付制度という形で運営することになりました。その貸付先が今の株式会社郊楽苑です。
しかし、平成24年度より町が再び施設延命のための資金を負担するようになりました。今後も町として運営への費用を負担し続けるのは財政的にも厳しいため、指定管理施設全体にかかる経費をどういうところで軽減していけるかを検討しました。町民や町議会議員との検討の結果、一番高額の支出となっている指定管理費約4千万円を低減するために、指定管理者制度をやめることに決めました。
まだ細かい数字まで出ていませんのでどの程度の経費を削減できるかは現段階では言えませんが、温泉のみを町の直営にしてもまだ同等の費用がかかることはありませんので、間違いなく削減することが可能です。
指定管理者制度は3年ごとの更新となっています。1回目の公募の際は3社の応募がありました。審議委員会があり、その中で審議した結果、以前から貸付制度として運営をおこなっていた株式会社郊楽苑が、一番指定管理者として適しているとの判断により決まりました。それが現在も管理運営している企業です。指定管理者制度ですから、現在運営している企業をずっと指定していかなければならない理由はひとつもありません。審議委員会の審議によっては変わる可能性もありました。しかしその後は公募をかけても現在運営している1社しか応募がきませんでしたので、今まで指定し続けている形になっています。
ちょうど本年度が指定管理更新期である3年目に当たり、指定管理の期間満了をもって指定管理者制度を中止し直営に切り替えることにしました。
今後町が運営を行うとしても現状のまま温泉とレストラン、宿泊と全ての運営を継続するとなると、経費を削減することは難しいだろうと思われました。ではどの程度までサービスを削減すれば経費が削減できるのかを議論をし、町民にも一度そのあり方をアンケート調査した結果、レストランや宿泊はどうしてもなければ困るというものではないけれども、温泉だけでも継続して欲しいという声を多くいただきました。別海市街地には常時開いている公衆浴場がないのもあり、温泉だけは直営として運営を継続することにしました。
今後、町から管理費をもらわなくても、レストランを自分たちでやりたい、宿泊を運営したいという民間の方が出てくるようであれば検討したいと考えています。もちろん施設改修は行わなければいけませんが、そういった経費も含めてしっかり検討していきたいと思います。意欲のある方が手をあげてくださるのであれば、町としてもできるだけ工夫したいと思います。
町の嘱託職員のような形で管理する必要はありますが、経営をきちんとできるような人であれば十分検討に値すると思います。また、清掃や施設周りの維持をおこなう環境管理に関しては、民間に委託する形でおこない、極力民間の仕事を減らさないようにしたいと考えています。
現在運営会社で働かれている職員は町で雇用する形になるのでしょうか。
誤解されている方が多いのですが、指定管理事業者である株式会社郊楽苑はふるさと交流館の管理業務だけをおこなっているわけではなく、ほかに事業をおこなっています。今回は事業をおこなっている会社の業務のひとつがなくなるということです。ですから、業務をどういった役割分担でおこなっているのか、現在温泉の仕事に携わっている人が今後同社内でどういった仕事をするのか、それとも解雇されるのかはわかりませんし管理もできません。その方たちをそのまま町で雇用しますということは企業の人事に対して口を出すことにもなりますから、簡単に町から人材として残して欲しいとも言えません。
しかも昨年の9月には指定管理者制度による運営を本年度いっぱいで完了する旨の通知は出しています。仮に指定管理者制度のままいくとしても公募の上、審議の上で別の会社に決まれば、今までの人材を町が引き受けることはありませんので、そもそもそういった話ではないのです。
企業側で指定管理業務がなくなることでその職員を解雇するという話になれば、それは町としてもノウハウを知っている方たちですから、温泉運営を続けるためにそのまま残って続けてほしいとは思います。ただ、現在携わりたいという方もすでに来ていますので、個人か法人かはまだわかりませんがいろいろな方たちの希望を受けて、業務を委託する方法を考えたいと思います。
いままで合宿での受け入れもおこなっていました。今後の受け入れについてはどのようにお考えでしょうか
合宿に関しては、合宿受入協議会で宿泊施設の紹介がおこなわれています。ふるさと交流館でも合宿を受け入れていましたが、今後ストップすることになります。
本来この施設は、町内にある他の宿泊施設を圧迫するということで、合宿は受け入れないとの約束のもとで設立されました。ただ、残念ながら地元の宿泊施設が少なくなってきたために近年では受け入れをおこなうようになっていました。
別海町内の宿泊施設が減ってきている中でのこの施設の宿泊業務の停止は、ビジネスの宿泊、観光客の宿泊の両方の面で利用が減ってしまうことになりますので、非常に残念に思います。しかし町が運営や改修にかかる負担をこれまでのように負担し続けるのは財政上厳しいのも確かです。今後は公衆浴場のような位置付けで継続していきたいと考えています。
今後町で運営するにあたり、費用以外の課題はありますか。
経費の削減をおこないながら町営でおこなっていく中で、長く管理をおこなっていく人材を探せるかどうかが直近の課題です。また温泉だけ運営していくとしてもどれほどの改修費用がかかるのかを算出しなければなりません。レストランと宿泊施設は営業を停止しますが、使用していなくとも建物は傷みますので、どこかで見切りをする必要があると思います。先ほども申し上げたように、続けたいとう人が出て来れば新たな投資もあり得ると思います。その見極めをいつするかは現状は難しいと考えています。
町が住民サービスを減らすことは非常に大きな決断です。しかし、財政状況も決していいわけではありません。特に現在福祉関係にかかる費用は年々ふくらんできていますし、税収が伸び悩んでいる状況でもあります。今回のようにさまざまな町民サービスの中での優先順位をつけ、提供を停止しなければいけない事態になることも、時にはやむを得ないと考えます。
酪農を支える通信環境の整備を町全域で
─光回線の導入
光回線の町全域に整備する理由とその経緯をお聞かせください。
現在、従来の乳牛を人の目で一頭一頭見ていた状況から多くの情報をコンピューターが数値化しデータとして蓄積し、管理ができるシステムの精度が上がってきているので、畜産クラスター関連事業で搾乳ロボットを導入するところが増えています。それに対応できる様に光回線の整備をおこなう必要があります。
これまでは無線を整備してきましたが、無線では通信速度が遅く十分に対応できないと農家の人たちからよく言われていました。
ただ、町で整備するとなると巨額の予算を投入する必要があると思われることから、すぐに導入するのは難しいと昨年の選挙の際には話していました。しかし、政府が新型コロナウイルス感染症対策のひとつとして、基本的な通信手段を確保し整備することができるようになりました。光回線の導入はこのタイミングでなければ費用負担が高額なため、町で整備することはできないだろうと判断しました。そこで、導入にはどれぐらいの費用がかかるのかをNTTから資料をもらったり、政府はどういう補助制度をおこなうのかなど様々な角度から情報収集をおこないました。
町全域の整備にかかる費用はどのくらいになるのでしょうか。
導入するにあたり2通りの方法がありました。光回線のための施設をNTTが設置(以降 民設)し、その施設の運営もNTTにおこなってもらう(以降 民営)方法がひとつ。もうひとつは町が事業として施設整備をおこない運営する方法です。しかし町が運営までをおこなうのはなかなか難しい状況ですので、施設は公設で設置し、民間に運営を委託する方法。その2通りの方法での導入を想定し、申請をした場合に費用はどのくらいかかるのか、国からはどのような補助をしてもらえるのかを検討、情報収集をおこなうことになりました。
設置費用に関する見積もりでは、NTTが施設を設置する場合はその事業費が30億円前後。対して、別海町が公設として施設整備を手がけ、運営はNTTがおこなう場合は民設に比べ約3倍となる100億円程度の費用がかかるということでした。その見積もりを見たときに、公設の場合なぜそれほどの費用がかかるのか、民設に比べ約3倍にもなるのはなぜなのかという疑問はありましたが、まずはその見積もりを踏まえさらに検討を進めました。
今回の整備にかかる補助制度は、国から9割の補助金が出て、残りの1割が町の負担になるという制度でした。仮に設置・運営までを町でおこなう場合に、見積もりどおり約100億円の費用がかかるとすれば約10億が町の負担になります。NTTに設置と運営の全てを委託したとしても約30億円のうち7~8億円程度が町の負担になります。いずれにしても町の単年度の支出としてさすがに大きすぎました。
そこで当時総務副大臣だった長谷川岳参議院議員に直接話をさせていただくことにしました。通信手段の整備を全国的におこない、その費用に対して国から補助金が出ることは大変ありがたい話です。しかし別海町は面積がとても広く、ケーブルの設置の長さを試算すると約1,200キロメートルにもなること。そのため民設で整備をするとしても約30億円がかかる上、公設で整備となると約100億円はかかり、補助制度を利用しても別海町ではとても導入できる金額ではない旨を伝えさせていただきました。
その話を聞いて総務省の担当の方はそんなにかかるのかと驚いていました。議員は全国から同じような要望があるので、今の補助制度だけではなく、どうすればさらに町の負担を軽減化し導入できるのかを考えたいとおっしゃってくださいました。公設にした場合には費用が約3倍になることに関しても、その理由をNTTに直接聞きたいとおっしゃっていました。
その後その理由を聞いてみると、NTTが設置する場合には導入の際に必要な資材を一括発注できるために費用が安くなるのに対して、自治体ごとに別々に設置を行う場合ではばらばらに発注をしなければいけなくなり、資材費や経費が高くなってしまうということでした。
それであれば、導入を検討しているそれぞれの自治体が導入するための工事を同時におこなうようにすることで、一括発注をおこなえるのではないかと考え、道の担当の方も交えて他の自治体と話を進めました。結果、導入を考えている自治体同士で協議会を作り、一括発注をおこなう動きとなり、NTTが発注する場合と同等の額で導入することが可能になりました。しかも公設で施設をつくることで補助金が9割出ます。町の負担は7~8億円、さらに起債をつければ、差し引いた残りの金額を支出するだけで済むようになります。それであれば何とかなりますし、特別補助制度にも期限がありますので、今のチャンスを逃したら導入をする機会を失うと考え、導入の運びとなりました。
今もまだ書類整備をしている最中ですし、正式に金額が確定しているわけではありません。ただ、こちらが希望する起債もほぼ付けてもらえるような話に概ねなっているようですので、今のところ単年度あたり1億円以下の負担で光回線を整備できる見通しがたちました。予定していた形での公設・民営で整備を進めることになります。
そのことを要望のあった農家の方々に伝えたところ、これで大型化や自動化を進めることができるし、自分たちの労働も軽減されるととても喜んでくださいました。