老後の資金、なんとかなると 思っていませんか?

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数字で見る老後資金
「老後資金は30年で2,000万円不足する」を数字で読み解く

これからかかる医療費用に介護費用。上昇を続ける物価。生涯賃金と貯蓄と抱える負債。支給されるはずの公的年金。あなたは老後の資金を蓄える方法描けていますか?


老後の生活資金が30年で2,000万円不足する!?

世の中を騒がせた「老後資金2,000万円」

 団塊の世代が親となった第2次ベビーブーム(昭和46〜49年頃)以降出生率が徐々に低下しはじめた。同時に平均寿命は伸び続け、若年者と高齢者の人口に占める比率が逆転してゆく少子高齢化が加速的に進み、2000年代以降日本の人口問題として取り上げられている。

 平成30年の日本人の平均寿命は男性が81・25歳、女性87・32歳と過去最高を更新する中(図1)、「人生100年時代」という言葉を最近よく耳にする。平成28年に出版された『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)100年時代の人生戦略』において、先進国では平成19年生まれの2人に1人が100歳を超えて生きる「人生100年時代」が到来すると予測し、これまでとは異なる新しい人生設計の必要性を説いた。平成29年9月には「人生100年時代構想会議」が首相官邸に設置され、人生100年時代を見据えた経済・社会システムを実現するための政策を検討する会議としてこれまで9回にわたって議論が行われている。

 そんな中、金融庁が令和元年6月に公表した金融審議会の市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」の内容に記載された「老後資金に30年間で2,000万円不足する」とい言葉ががマスコミなどに大きく取り上げられ物議を醸し出している。「配慮を欠いたレポートだった」と金融庁企画市場局長が謝罪するほどの騒ぎとなっている。

 老後資金として、年金以外に現在の貯蓄プラス2,000万円を自ら貯蓄しなければ老後の生活はままならない。そう印象付けたとも言える今回の2,000万円問題だが、何を基準に試算されたものなのだろうか。

2,000万円不足の理由には根拠があった?

金融庁が公表した金融サービスの今後についてを提言する報告書

 金融庁が公表した市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」は、経済分野における官民の専門家や弁護士、報道関係者などをメンバーとし、国の各省庁や日銀、証券、信託、銀行、生保といった業界の代表がオブザーバーとして参加している「金融審議会」が、平成30年9月より12回にわたり検討審議した内容をまとめたもので、56ページ(表紙、目次含む)の報告書と資料からなる。

 報告書では、まず高齢化社会を取り巻く環境「平均寿命」「人口構成」「認知症の増加」から始まり、「収入と支出の状況」「就労状況」「金融資産の保有状況」を数値にて表し、長寿化に伴い資産寿命を延ばすことが必要とした上で「高齢社会における金融サービスのあり方や「顧客や社会の変化に応じて金融サービスに何が求められているか」を提言している。

 話題となった2,000万円は、報告書内「金融資産の保有状況(図2・3)」内に記述されている。その中で「金融資産の保有状況は各人により様々であることから、平均的な姿をもって一概に述べることは難しい」とした上で、実収入と実支出の差から高齢夫婦無職世帯では、統計上月の平均収入が約21万円であるのに対し、支出が約26万円であり毎月約5万円の不足が発生、20年で約1,300万円、30 年で約2,000万円の取崩しが必要になるとしている(図4)。その一文が世の中を賑わせた。

 簡単に2,000万円の取り崩しが必要と言うがそれだけの貯蓄をすることは可能なのだろうか。実際、住宅ローンなどを抱える若年層よりシニア層の方が金融資産を多く抱えており、全国平均では60歳以上で約2,100万円、北海道平均でも約1,600万円の貯蓄を保有している。しかし、報告書が言うように、その保有状況は様々であり、収入も月21万円を切る世帯もあると思われる。

① 生涯賃金 全国と北海道では

年ごとに上昇する賃金と年収全国平均と北海道との差

 生涯賃金は個人が一生のうちに得る収入のことを指すが、世代や学歴、就労年数、労働形態、地域によって大きく違いが出てくる。

 一般的なサラリーマン(同一企業にフルタイムで勤め、60歳で退職し退職金を含めない場合)の生涯年収は、全国平均で高卒では約2.1億円、大卒(大学院含む)では約2.6億円で、中学、短大卒など他の学歴を含めた全体の生涯年収は2.2億となっている。

 対して平均年収が47都道府県中29位である北海道では全国平均である432万円よりも7.4万円下回る424.6万円となっており、生涯年収では1.58億円と大きく下回る(図5・6)。年収では全国との差は約7万だが、生涯受け取る賃金の合計になると5,000万円もの差となる。

 現在のシニア層のような貯蓄を得ることができれば、貯蓄を崩しながらの生活も可能になるのだろうが、若年の世代が多くの負債を抱える中、現在の年収と生活水準で果たして今後も北海道平均で1,500万円もの貯蓄を行うことは可能なのだろうか。

② 世代によって変わる消費の内容と貯蓄・負債

雇用形態の変化と貯蓄と負債

 最低賃金の上昇や教育の無償化など、社会保障制度が拡充されつつあるとはいえ、生涯一企業の正社員として働き退職する労働者に比べ、非正規雇用であるパートタイマーやアルバイトの割合が増えている(図7)。その生活にかかる費用や貯蓄金額、抱えている負債金額はどのような状況か。

 全世代における2人以上の世帯の貯蓄の全国平均額は約1,146万円であるのに対し負債額の平均は約736万円となっている。北海道では約835万の貯蓄に対し、約645万円の負債がある。世代別に見ても、支出が減少する60代以上と異なり、50代未満の世帯では負債額の方が貯蓄額を上回る結果となっている(図8)。

 世帯に2人以上の勤労者がいる場合の年代別消費支出の月の平均金額を見ると、30代で約25.9万円、50代では約35.7万円、60代では約30.9万円と50代が一番消費している結果となっており、世代別の特徴として20代では住居、40代では教育がそれぞれ他の世代よりも支出割合が多くなっている(図9)。

生活費以外にも発生する費用ライフイベント

 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」を公表する前の5月に資料として公表された、報告書参考資料(案)にある、「ライフステージ別に見た発生する生活費以外の費用」(図10)を見ると、資産形成期と言われる50〜60代までの現役期にかかる費用には子の誕生から教育費用で約800〜2,500万円、住宅購入に約2,000〜4,000万円かかるとし、さらにそこに結婚や親の介護費用が、リタイヤ期前後(運用・取崩し期)には、自身の健康や介護にかかる費用で最大約1,000万円、そこに住宅のリフォームや建て替え費用がかかってくることとなる。

 金融庁が公表した報告書に出てくる、問題の2,000万円の試算には、実はこのライフイベントにかかる費用、特にリタイヤ期前後から高齢期に入ってからの要介護費用最大1,000万円や健康のためにかかる費用などは算出されておらず、一部のマスコミや野党の議員の中からは単純に2,000円どころか約3,600円が必要なのではないのかと言う批判も上がっているほどだ。

 しかし、ライフイベントによってかかる費用は、その生活様式や水準によって様々であることから、必ずしもその金額が必要だとは言い切れない。とはいえ、老後の生活が心配、または生活が苦しい世帯・個人は多く、それは次項のような統計で裏付けられている。

③ 老後にかかる費用は公的年金で賄えるのか

半数以上の高齢者が公的年金・恩給だけで生活費を賄っている

 老後とは何歳から、という明確な定義はないが「公的年金や退職金以外に準備した資金を生活費として使いはじめる年齢」を老後の始まりとした調査では、平均65.1歳となっており、老後資金を使い始める年齢は65歳が約4割と一番高い(図11)。

 報告書に出てくる60代の生活費の消費支出約29万円。生活に不可欠な食費や光熱費の支出が一番割合を占め、娯楽費や被服費などある程度余裕がある際に発生する費用は支出の中の割合が低くなっている。

 しかし、65歳以上の高齢者世帯のうち、「公的年金・恩給の総所得に占める割合が100%の世帯」が55%と、報告書にあるような約9割を公的年金や恩給で収入を得ている世帯は全体の13%に留まり、他に収入源がなく、公的年金だけで生活する世帯が半数を超えているのが実際であり、支出の割合同じだとしてもそれを維持し続けることは可能なのだろうか(図12)。

増える高齢者の就業の一番の理由は「生活の糧を得るため」

 年々増加傾向にある高齢者の就業。その理由は、「生活の糧を得るため」が一番多く、次いで「健康にいいから」「いきがい、社会参加のため」と続く。生活の糧のための就業と回答した人の割合は、60〜65歳男性では73.4%と多く、公的年金だけで生活することは難しいことが伺え、収入を得るための高齢者の就業率は今後さらに上昇すると思われる(図13・14)。

 2,000万円不足するしない以前に、生活が苦しい高齢者が多い現実。人手不足も手伝って、これからも高齢者の就業率は上昇すると思われる。報告書は、これから資産を形成していく世代にとって、改めて自分たちの老後の資金について考えるいいきっかけとなったかも知れない。

※LIFE SHIFT─ 100年時代の人生戦略
著 リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット。2016年11月3日出版。


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